聖マリアンナ医科大学病院
監修者の記事一覧褥瘡治療の前に褥瘡発生の原因を発見し取り除く
第4回目の今回は、前回ご紹介しました褥瘡の創評価ツール『DESIGN』を褥瘡治療に活用する方法を、『褥瘡予防管理ガイドライン(日本褥瘡学会発行)』をもとにお話ししたいと思います。
褥瘡が出来てしまうと、どうしても局所にばかり目が行ってしまい、「どんな外用薬を使用したらよいか?」「被覆材は何が適切か?」などに目が向けられる傾向があります。しかし局所治療に取り掛かる前に、褥瘡が発生した原因を明らかにすることがとても重要になります。褥瘡発生の原因を除去しなければ、褥瘡の治癒が遅延したり、それどころか褥瘡が悪化してしまうこともあるのです。
たとえば、こんな状況がないでしょうか・・・?
A) 長時間車いすに乗っていたり、麻痺などがあって座位姿勢の崩れやすい方で、片側の坐骨に褥瘡が発生した場合
B) 車いすを動かす際に、足を使って漕ぐように動かし、坐骨部に褥瘡が発生した場合
C) 急激な体重の減少に伴って骨突出が強くなり、体圧が上昇したのではないか?
D) 経管栄養投与や食事の為に、長時間ベッドの頭側を挙上する必要がある場合
などなど、患者さんによって、原因となる環境は様々だと思います。患者の生活環境を振り返り、褥瘡の発生原因を考え、それを取り除くケアをしていきます。

各環境のアセスメントと対処方法
A) の場合
麻痺がある方の場合は、患側に姿位が崩れやすいため、姿勢が崩れないよう、上肢をサポートするクッションなどを使用したりします。また、座面クッションの評価が重要となります。 車いすの座面シートは、中心部がたわみ、長時間座位には向いていません。車いす専用のクッションを用い、姿勢を安定させ、ずれを予防したり体圧を分散させたりします。

B) の場合
座位で発生する坐骨部の褥瘡は非常に深いのが特徴です。 やはり、座面クッションの評価が重要となってきます。また、足こぎがずれ・摩擦の要因になっているようであれば、足こぎをやめるようにして、移動の介助をしたり、手で移動するように促します。
C) の場合
骨突出が強くなった患者さんの場合では、現在使用している体圧分散寝具が適切かアセスメントし、さらに低圧に保持できるものを選択しなおします。 急激に体重が低下した場合は、栄養状態も低下していることが予測されます。栄養状態のモニタリング、食事摂取などを考えていきます。
※「患者さんが寝ていると、なかなかマットレスを評価できない」と言うお声をよく耳にします。リスクの高い患者さんには、使用しているマットレスが十分な体圧分散効果があるのか、定期的に簡易体圧測定器などを用いて評価することは大切なケアです。

D) の場合
ヘッドアップの角度を見直します。30°までであれば、比較的体がずれにくいとされています。また、背上げ時の体のずれに配慮された体圧分散寝具を使用します。また、臀部の底づきが起きにくい二層式の体圧分散寝具を選択します。

褥瘡の深さと治癒過程
次に、褥瘡の深さが、真皮を超えない「浅い褥瘡」(DESIGN分類でd)なのか、皮下組織に至る「深い褥瘡」(DESIGN分類でD)なのかを見極めます。「浅い褥瘡」と「深い褥瘡」では、治癒の過程がまったく異なるため、その見極めは重要となります。
■浅い褥瘡の治癒過程
「浅い褥瘡」(d)では創周囲から上皮細胞が遊走し、また、創底に残っている毛根などの基底細胞からも上皮が遊走し、皮膚が再生され治癒に至ります。

■「浅い褥瘡」(d) の治療の基本的考え方
「浅い褥瘡」(d)の治療には、創の保護と適度な湿潤環境の保持が重要です。この環境を保つためにはドレッシング材(創傷被覆材)の使用が有効です。また、創面の保護を保つことができる油性基材の外用薬を使用することもあります。
「浅い褥瘡」(d)の治療では、『発赤』『水疱』『びらん・浅い潰瘍』の3つに分けて考えます。
発赤[d1]
第2回でもお伝えしましたが、3秒間圧迫しても発赤が消退しなければ、[d1]の褥瘡です。[d1]発赤の褥瘡には、ドレッシング材(創傷被覆材)を用いて創を保護することが有効です。 ポリウレタンフィルム材を用いることで、外部からの摩擦などの影響も受けにくくなります。
水疱 [d2]
水疱の局所ケアとして、保護を目的としてポリウレタンフィルムを用います。私はフィルム材の粘着部が、水疱に直接貼りついてしまうと、後にフィルム材を交換するときに水疱を破ってしまう危険性があるので、被固着性のガーゼを併用するようにしています。水疱内が滲出液で緊満な場合は、穿刺することもありますが、原則としては破らず保護します。
びらん・浅い潰瘍 [d2]
破れた水疱も、びらん・浅い潰瘍として扱います。滲出液を吸収するドレッシング材を用いるようにします。薄いハイドロコロイド、キチン、ハイドロジェルは保険適応になります。 その他の被覆材を用いても創治癒にはよいのですが、保険適応にならないという欠点があります。
深い褥瘡の治癒過程
「深い褥瘡」(D)では、損傷を受けた皮下組織や筋組織は再生することはなく、創底から肉芽組織が盛り上がるとともに、創が収縮して創周囲から上皮の遊走が進み、創が閉鎖するという治癒過程をたどります。

■「深い褥瘡」(D) の治療の基本的考え方
深い褥瘡(D)の場合は、壊死組織(N)の除去をまず優先的に考えます。壊死組織(N)の除去が進めば、肉芽形成(G)を促進しさらに創の収縮(S)を考えるといった、一連の流れがあります。ですので、N⇒G⇒S の順で考えていきます。また、治癒を阻害する要因となる感染(I)、滲出液(E)、ポケット(P)がある場合は、それらの対処をおこなっていきます。
1) N→n:壊死組織の除去
壊死組織はバクテリア増殖の温床となります。また、肉芽組織が増殖する妨げとなったり、創収縮の妨げとなりますので、デブリードマンを積極的に行って壊死組織の除去を促します。
2) G→g:肉芽組織
続いて、肉芽組織の増殖を促すために、創面に適度な湿潤環境を保持します。良好な肉芽組織を増殖させるためには、乾燥しすぎず、滲出液が多すぎない環境をつくります。また、肉芽組織を構成する、線維芽細胞やコラーゲンなどは閉鎖環境に置いたほうがより多く生産されると言われています。
3) S→s:創の縮小
良好な肉芽が形成され、上皮の遊走が促進されれば、創が収縮していきます。引き続き適切な湿潤環境の保持と、創面を傷つけないケアを行っていきます。
4) I-i:感染
炎症の制御創が感染状態にあるときには、感染制御を最優先で行います。壊死組織が残存するようであれば、バクテリアの温床となるため積極的に除去します。
また、適切な外用薬(抗菌性薬剤)を用い、バクテリアの制御に努めます。創感染のときには、原則的にはドレッシング材などで創を密閉しないようにします。
5) E-e:滲出液の制御
滲出液は、感染や浮腫を伴っているときに増加します。 滲出液の量、色調、粘度、臭いなどの性状を観察し、感染の兆候を見極めます。
6) P-(-):ポケットの解消
ポケットの発生は主に、皮下組織に圧迫やずれが加わり、皮下組織が壊死することによって生じます。(感染も影響していると言われています)
ポケットがある場合には、ポケットを解消することを優先して考えます。長期間ポケットを有したままだと、ポケットの被蓋からポケット内部に上皮が遊走し傷が閉じなくなったり、小さな開口部を残したままポケット内部が塞がらず、治癒が遅延する状況が生じてしまいます。
ポケットが一方向に深く出来ている場合は、ずれによって生じている可能性が高く、ポケットのできている方向からずれの方向を見極め、ずれがかからないケアを行っていきます。(第1回「ずれに対するケアのポイント」参照)

それぞれの局所治療の参考となる推奨事項、各種外用薬、ドレッシング材(創傷被覆材)の適応については、日本褥瘡学会発行の『褥瘡予防・管理ガイドライン』に詳しく解説されていますので、参考になさってください。
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