
平手裕市(ひらて ゆういち)
取材者の記事一覧
がん患者さんを診ている消化器外科の医師を中心に表題のテーマで会議を開催し討議された内容です。
ONS(Oral Nutrition Supplementation)を継続して行うために
胃がん補助化学療法として術後にS-1を投与することで術後生存率の延長を目的としたACTS-GC trialにおいて、服薬期間が長くなるほどS-1のコンプライアンスは低下していくことが報告されています。
そのため、S-1の補助化学療法の継続が、生存率延長のための鍵となります。
S-1コンプライアンス低下のリスク因子を多変量解析で調べた結果では、体重減少のみがリスク因子として認められました。特に術後1ヵ月での体重減少が著しく、体重は3ヵ月を過ぎた頃に安定します1)。
なぜ、体重減少がS-1コンプライアンス低下のリスク因子となるのでしょうか?
その理由について示唆される文献を紹介します。
その文献は、体重減少と化学療法の毒性との関連について検討されたものです。
体重が減少した患者さんでは有害事象の重症度が高く、発症率も高いという報告2)があります。その理由は、LBM(除脂肪体重)が減ることで、S-1の血中濃度が上昇し有害事象が増えることから説明が可能です。
体重減少についてどのような対策をしていくべきでしょうか?
私達が検討しているのはエイコサペンタエン酸(EPA)配合栄養食品の飲用です。自施設で行ったパイロットスタディでは、EPA配合栄養食品を術後2~21日目まで飲用させた患者さんでは、術後体重減少率を有意に抑えてS-1化学療法の継続率も100%でした。
本パイロットスタディを検証すべく、多施設での臨床研究を行いました。栄養療法は、患者さん自身の体力維持、治療継続に不可欠なのではいうまでもありません。その際に選択しようと考えているのが、EPA配合栄養食品を用いたONS(Oral Nutrition Supplementation;経口的補助栄養食品)です。
ω3脂肪酸の抗炎症作用
ω3脂肪酸を含有した栄養食品のエビデンスは非常に多岐にわたっています。
ω3脂肪酸を多く含む魚油を摂取した群では、大豆油を摂取した群と比較して死亡率が有意に低いという報告3)があります。また、諸外国ではω3脂肪酸含有の脂肪乳剤を投与することで術後感染症の発症率を減少させた、等の報告や、外科医を中心にω3脂肪酸の有用性に関する研究は数多く、Immuno Nutritionとして臨床でも使われています4)。
がんの体重減少の種類について
がん患者さんに生じる体重減少には、CIWL(Cancer Induced Weight Loss)とCAWL(Cancer Associated Weight Loss)の2種類あるといわれています。
- CIWL:がん細胞自身が炎症性サイトカインを放出するといわれています。これにより、通常の栄養管理では体重の改善・維持が困難と考えられています。
- CAWL:がんに伴う消化管の狭窄・閉塞、治療や告知によるストレスを原因とした摂食不良によるもので、十分なタンパク質とエネルギーの補給により改善が可能といわれています。
体重の維持が難しい場合には、CIWLにも考慮し炎症に配慮した栄養管理としてEPA配合栄養食品を用いた栄養管理が行われます。
次のページは「ONSを継続して行うための工夫」です。
ONSを継続して行うための工夫
アドヒアランス向上の鍵―医療者がONSの意義を真に理解し患者へ伝えること-
日本医科大学の山田岳史先生は、栄養食品を患者さんに継続して使用して貰うために、①予後予測因子、②効果予測因子、③効果判定方法を具体的に患者さんに提示することが重要であると説明しています。
栄養状態が悪いことが疾患の予後に影響を与えることを確かめるために、山田先生は“胃切除は骨格筋減少症の危険因子となる”ことを研究しています。 予後には、炎症の指標であるCRPの上昇と栄養状態の指標であるALB値の低下が影響を与えることが報告されています。
また、がん悪液質(Cachexia)には体重減少・食欲不振、サルコペニア(Sarcopenia)には筋肉の減少が伴います。 悪液質は不可逆的な進行を示すために、早期からの体重減少を抑える対策が必要となると考えられています5)。
その際に栄養管理が必要不可欠となりますし、炎症を抑えるといわれているEPAや栄養食品をきちんと摂取することが一つの治療継続の選択肢となってきます。 また、栄養療法の意義を患者さんに理解して頂くためには、病棟でチーム医療を行っているメンバーに協力してもらうことも重要です。
群馬大学附属病院薬剤部の荒木拓也先生は、病棟でのONSの手ごたえを臨床研究課題として日々臨床で取り組まれています。そのきっかけとなったのが、化学放射線療法の完遂率に対するEPA配合栄養食品併用の有用性を評価した研究です。
荒木先生の研究によれば、EPA配合栄養食品併用群では、がん化学療法の治療完遂率が高く、抗がん剤の有害事象に有意差なく安全にONSを実施できたそうです。
様々なアプローチにより説得力を持ってONSの意義を患者さんに説明しようと試みることで、効果的ながん化学療法が可能となります。
参考文献
1.Noguchi Y, Tsuburaya A, Yoshikawa T et al: Metabolic alterations in totally gastrectomised patients.As J Surg 15,97-102, 1992.
2.Aslani A, Smith RC, Allen BJ, Pavlakis N, Levi JA:The predictive value of body protein for chemotherapy-induced toxicity. Cancer. 88,796-803,2000.
3.Tomoyuki M et al:The effect of adding fish oil to parenteral nutrition on hepatic mononuclear cell function and survival after intraportal bacterial challenge in mice.Surgery, 151,745-755,2012.
4.Bo Chen et al:Safety and efficacy of fish oil-enriched parenteral nutrition regimen on postoperative patients undergoing major abdominal surgery: a meta-analysis of randomized controlled trials. JPEN J Parenter Enteral Nutr, 34, 387-394,2010.
5.Fearon K et al:Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus.Lancet,12(5)489-495,2011.
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