聖マリアンナ医科大学病院
執筆者の記事一覧ミダゾラム、プロポフォールとは異なる鎮静作用をもつデクスメデトミジン。我が国では2004年に発売されて以来、麻酔科領域において普及が進んでいます。しかしながら、ほかの領域ではその特性を知る機会は少ないようです。そこで、東京慈恵会医科大学附属病院で麻酔科医師を務める近藤一郎先生に、実際の使用例からデクスメデトミジンのメリットとデメリット、その将来性について聞きました。
鎮静管理においてはデクスメデトミジンの使用がスタンダードに
デクスメデトミジンはα2アドレナリン受容体作動性の鎮静薬で、ミダゾラムやプロポフォールなどのγアミノ酪酸A(gamma-aminobutyric acid A:GABA-A)受容体作動薬とは異なる作用機序をもつ薬剤です(表)。集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静、さらに局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の鎮静に用います。

当院の麻酔科では基本的に手術後、ICU管理を予定している患者さんのうち、覚醒させずに鎮静が必要となる症例に用いています。具体的には心臓外科や脳神経外科の手術、耳鼻咽喉科の遊離皮弁を用いた移植・再建手術で安静を保たなければならないケースなどです。
あとは、脊椎麻酔による手術での術中の鎮静に用います。当院では、以前はミダゾラムを用いていましたが、デクスメデトミジンに局所麻酔下の効能・効果が追加されて以来、徐々に使用症例が増えていき、現在の鎮静管理においてはスタンダードになっています。
最大のメリットは呼吸抑制の少なさ
デクスメデトミジンは、ほかの鎮静薬に比べて呼吸抑制が少ないのが最大のメリットです。経験上ミダゾラムは個人差があり、特に高齢者では呼吸抑制を起こしやすいですが、デクスメデトミジンでは呼吸抑制はほとんどみられません。
また、ワンショット投与の鎮静薬では、効果が切れたときに患者さんが動き始めて不穏状態になることがあり、追加投与すると鎮静されるものの、呼吸が弱くなっていくという悪循環に陥ります。その点、デクスメデトミジンは持続投与のため、患者さんの状態に応じて投与量を調節して、呼吸抑制させずに鎮静を保つことができます。コントロール性がよく過剰投与になりにくいのもメリットだと思いますし、鎮静の効果が弱まったときも不穏状態になりません。
ほかに、当院では、リカバリールーム(回復室)における覚醒時興奮に対して、デクスメデトミジンを使用することがあります。麻薬やほかの鎮静薬では呼吸抑制のリスクがあり、且つ意識が混濁したまま病棟に戻すことに不安があるからです。覚醒時興奮が起こることは稀ですが、デクスメデトミジンの投与により患者さんの状態は安定し、病棟に戻った後も特に問題は起きていません。
ライトセデーションで患者アウトカムが改善
集中治療では、鎮痛と鎮静が基本となります。フェンタニルなどの麻薬に加えて、鎮静薬を投与することになりますが、麻薬にも呼吸抑制作用があります。深い鎮静が必要なときはプロポフォールを用いていますが、最近ではライトセデーション(浅い鎮静)、ある程度意識があって、自発呼吸を残して、身体を動かしてもらってという方が、より予後が良いことがわかってきました。
日本集中治療医学会の「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)」や、米国集中治療医学会の「2018 PADISガイドライン」でも、ライトセデーションの維持が人工呼吸期間やICU入室期間の短縮など、患者アウトカムを改善させることが示されています。
デクスメデトミジンは意識化鎮静状態を維持できるので、患者さんが自分で身体を動かすことができ、こちらの呼びかけに応じてコミュニケーションが取れるという大きなメリットがあります。術後の合併症を発見するためにも、患者さんとコミュニケーションが取れて症状が確認できるというのは重要です。
投与量の計算と効果発現時間に注意
デクスメデトミジンの難しさは、投与量の計算がほかの薬剤と異なるところです。投与量の計算は通常μg/kg/minですが、デクスメデトミジンの場合はμg/kg/hourで慣れておく必要があります。また、初期負荷時(10分間)の投与量と維持投与量が異なるため、途中でシリンジポンプの設定を変更する必要がありますが、その変更を忘れがちになります。
解決策として、看護師に「今から投与を開始したので、10分後に減らしますね」のように伝えておいて、変更が遅れたら声かけしてもらいチームで共有するようにしています。
あとは、効果の発現までに約15分と時間がかかるということです。脊椎麻酔の効果が固定されたのを確認した後から鎮静を始めたいのですが、デクスメデトミジンが効いてくる前に手術を始めることになるケースが往々にしてあります。
「multimodal general anesthesia」において有用な選択肢のひとつに
近年、鎮痛薬では数種類の薬剤を使用してそれぞれの副作用を抑えようという「multimodal generalanalgesia」という概念が浸透しています。最近、全身麻酔薬に関しても同じように複数の薬剤を多角的に少量ずつ使う「multimodal general anesthesia」という考え方が出始めています1)。
デクスメデトミジンは、作用が自然睡眠に近似している薬剤です。他剤の麻酔薬と併用し、維持薬としてデクスメデトミジンを使用することで、より患者さんにとってメリットのある鎮静を行うことができるでしょう。今後、「multimodal generalanesthesia」において非常に有用な選択肢のひとつになると考えています。
引用文献
1)Brown, Emery N,et al : Multimodal General Anesthesia:Theory and Practice.Anesthesia & Analgesia 2018;127(5):1246-58.
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