在宅ホスピスの医師として、患者さんを看取る子どもを含めた家族にかかわってきた川越厚さんが「客観的情報を医師が伝える」ほうがよいと考えるに至った、もう一つのエピソードを紹介します。
子どもに客観的情報を伝えた方がよいと思うわけ
親の病気について、一般の人が子どもに説明するのには限界があります。客観的情報は、医師から説明し、子どもの理解や反応を親が受け止めていくのがよいと考えています。
私がこの考えに至る前に、子どもへの伝え方を考えさせられるきっかけとなった事例があります。今から15年ほど前、まだ患者さん本人にも、がんを告知しないことがごく普通だった時代の話です。
事例[2]──反抗期のさなかに母親の末期がんが発見される
30歳代後半の女性が、第二子の女児を出産後間もなく、肺がんが見つかり、すでに脳に転移していました。神経症状も出ており、残された予後もわずかで、患者さんも夫も大変動揺していましたが、その事実を小学校4年生の長女Bちゃんにどう伝えるかが問題となりました。
実は、Bちゃんはそれまで一人っ子だったのが、母親の妊娠を機に親の愛情が赤ちゃんに向いてしまうことを恐れ、反抗的な態度をとっていました。それは、母親の病気が判明してからも変わらなかったのですが、父親は、Bちゃんにも母親の病気については隠さないと決めていました。それで、どのような形で伝えたらいいかを相談に来たのでした。
もしうまくいかなければ、残される父親との信頼関係が結べず、取り返しのつかない事態になる可能性もありました。基本的には事実を伝えるという方向になりましたが、私も経験がなかったので、どのように伝えるべきかを考えていました。
そのような中で母親が自ら、自分が間もなく死んでしまうことを娘の部屋で告げました。話を聞いた直後は動揺して号泣していたBちゃんも、それ以後、母親の手伝いや妹の世話をするようになったのです。父親もその様子にホッと胸をなでおろしました。
「そんなに早く死ぬなんて思ってもいなかった!」
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