
西村かおる
執筆者の記事一覧2017年11月2日にニプロ株式会社によるメディアセミナーが開催されました。高齢化の進展とともに増え続けている心不全。今回は、富山大学病院の絹川弘一郎先生が、心不全の症状や原因、治療法などについて解説した模様をレポートします。
さまざまな心臓病が心不全の原因となる
日本循環器学会、日本心不全学会によると、心不全の定義は「心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」とされています。つまり、心不全とは、心臓がポンプ機能を果たせず身体に症状が現れた状態で、病名ではなく、病態のことです。
先天性心疾患、不整脈、高血圧、虚血性心疾患、弁膜症、心筋症などさまざまな心臓病が心不全の原因となりますが、それらは生活習慣病と関連が高いものが多く、高血圧や糖尿病など何らかの生活習慣病は心不全のリスク因子となります1)。そのため、日々の意識の積み重ねが心不全予防には大切なのです。
心不全の症状は血液うっ滞によるものと、血流低下によるものがありますが、主な症状はむくみ(体重増加)・食欲減退・倦怠感・尿量減少・手足の冷え・呼吸苦など、心不全に特異的でないものが多くあります。そのため、診断が遅れてしまうこともあり、現在も多くの隠れ心不全がいると考えられています。
血中BNPの有用性
心電図、胸部X線、血液(BNPなど)・尿検査、心エコーを行い、心不全と診断します。さらに検査が必要な場合は、CT・MRIや、運動負荷検査、心臓カテーテル検査を行うことになります。
中でも血中BNP濃度測定は、採血をするだけで心不全かどうかがほぼわかります。BNPとは、心臓の壁から出てくるホルモンのことで、心不全の程度によって値が変動します。
心不全はどのような経過をたどるのか
心不全は大きく急性心不全、慢性心不全、慢性心不全の急性増悪に分けられます。心不全は一度発症すると100%正常に戻ることはなく、徐々に進行します。心臓の細胞は不可逆的であり、一度ダメージを受けると回復することはありません。その上、心機能が低下すると、生体が反応しホルモンを放出して、心拍数や血圧を上げようと弱った心臓に負荷をかけてしまいます。このような悪循環に陥ることで、徐々に悪化するという経過をたどります。
また、心不全の治療を受けている人の3人に1人は症状の悪化で再入院します。原因はさまざまですが、最も多いのが塩分・水分制限の不徹底です。医師の指示をきちんと守れるかどうかが予後を変えると言っても過言ではありません。
さまざまな心不全治療
●薬物療法
ホルモンの放出を抑えることにより心臓を保護します。また、塩分や水分を尿として排出し、うっ血症状を改善します。適切な薬物を使用することで、内科治療のみでも著明な改善がみられることもあります。
心不全の主な治療薬
| 主な薬剤 | 効果 |
|---|---|
| アンジオテンシン変換酵素阻害薬(エナラプリルなど)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(カンデサルタンなど) | アンジオテンシンIIの生成や働きを抑えて心臓を保護 |
| ベータ遮断薬(カルベジロールまたはビソプロロール) | 交感神経によるベータ受容体刺激を抑えて心臓を保護 |
| アルドステロン拮抗薬(スピロノクラトンまたはエプレレノン) | アルドステロンを抑えて心臓を保護するとともに利尿作用があり、うっ血症状を改善 |
| ナトリウム利尿薬(アゾセミド・フルイトランなど) | 塩分や水分を尿として出すことで、うっ血症状を改善 |
| バソプレシン受容体拮抗薬(トルバプタン) | 主として水分を尿として出すことで、うっ血症状を改善 |
●非薬物療法
手術、心臓移植、運動療法、機械による心臓のサポート、緩和ケアなどがありますが、心不全の病状や患者さんとの相談により選択します。外科治療が手術からカテーテル治療に移行しつつあることで、手術を受ける患者さんの高齢化や、施術者も外科医から内科医へと治療する側も変化しつつあります。
在宅では、HOT(在宅酸素療法)、ASV(陽圧換気療法)を行うこともあります。また、長期的にはリハビリが有効であり、明らかな予後改善がみられます。
身近になりつつあるVAD(補助人工心臓)
心原性ショックを起こしたり、薬剤では改善がみられないほど心機能が低下した場合、VAD(補助人工心臓)を使用することがあります。集中治療領域で使用されるイメージの強いVADですが、在宅治療に使用可能な植込型VADが増えてきています。使用には65歳未満、移植適応患者であるという条件がありますが、使用することでQOLは格段に上がります。
心臓移植の件数も2010年以降大きく増加しており、今後はHVADやHeartMateⅢなど新しい種類も導入予定です。しかし、植込型VAD実施認定施設は全国45施設と少なく(2017年1月現在)、加えて地域差が大きいなど、環境が整っていないのが実情です。
心不全治療における課題
現在の日本では、一度装着した生命維持のための医療器具は、取り外すことができません。そのため、VADを使用することでどの程度までの改善が見込めるのかを装着前にある程度見定めなくてはなりません。特に高齢者に心不全治療を行うときは、Frailty(衰弱)の評価が重要になると考えられます。
心不全治療によって病状はどの程度改善するのか、あるいはしないのか、しなければどうするのか、事前に話し合っておくことが必要です。
また、がん治療においては緩和ケアという方法が確立されていますが、心不全には終末期医療における緩和ケアが確立されておらず、寝たきりの状態になってはじめてかかわりを考えるということも少なくありません。現段階では、年に1〜2回入院するなど今後悪化するであろうと思われる時期が、終末期医療を考え始めるタイミングだと言われています。
今後、心不全患者さんが増えると言われている今こそ、心不全治療においてさまざまな職種で意見を出し合い、考えていけなければなりません。学会などで標準治療や指針を決めるための研究が進んでいます。
【引用・参考文献】
1)Yancy CW,et al:2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines.
Circuration 2013;128(16):e240-327.
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