大きな手術後やがんの終末期などに極めて高頻度にみられる「せん妄」。せん妄は、注意力や意識が低下することで患者さんが転倒・転落したり、幻覚が見えて暴れたりと治療を大きく阻害するものです。特に低活動型のせん妄は見落としがち。本連載ではそんなせん妄へのアプローチ法をやさしく解説します。
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せん妄とは? せん妄の症状と看護
今春から外科病棟に配属された看護師のAさん。担当患者さんが手術後にせん妄を発症してしまい、日夜悪戦苦闘・・・。これを機に、せん妄について体系的に勉強したいと考えています。
2つめの直接因子とは?
看護師Aさん:「前回の講義では、直接因子のうち、身体疾患について勉強しました」
井上先生:「今回は直接因子の2つめ、薬剤についてです。せん妄の直接因子となる薬剤については、表1のようなものがあります」
表1 せん妄の原因となる薬剤

井上先生:「抗コリン作用はせん妄を引き起こすことがよく知られています。この表では最初に抗コリン薬を挙げていますが、多くの抗うつ薬がせん妄の原因となるのも、実はこの抗コリン作用によるものです」
看護師Aさん:「『抗コリン作用はせん妄を引き起こす』と覚えておきます」
井上先生:「そうですね。 ほかにも、抗コリン作用を有する薬剤として、アタラックスPⓇがあります。」
看護師Aさん:「本当ですか?うちの病棟では、せん妄患者によくアタラックスPⓇが使われています」
井上先生:「そのような病院は多いと聞きます。薬物療法についての回でも触れますが、特にアタラックスPⓇの単剤投与はせん妄を惹起するリスクが高いということを知っておいて下さい」
看護師Aさん:「わかりました。ほかに、よく使われる薬の中で注意すべきものはありますか?」
井上先生:「H2ブロッカーは臨床現場でよく用いられますが、せん妄を惹起しやすいことが知られています。『ガスターⓇせん妄』という言われ方をすることもありますが、知っていますか?」
看護師Aさん:「全然知りませんでした。ふだんよく使っている薬剤でもせん妄を起こす可能性があるのですね。今後気をつけるようにします」
井上先生:「一番注意してほしいのが睡眠薬です。
せん妄の準備因子を覚えていますか?高齢で頭部疾患の既往がある患者など、準備因子を複数有する『せん妄ハイリスク』患者には、睡眠薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)の投与を避けるべきです」
看護師Aさん:「私の病棟では『約束指示』というものがあって、不眠の患者には決まってレンドルミンⓇが処方されています」
井上先生:「病棟で決められた指示はいろいろあると思いますが、特に睡眠薬については見直す必要があります。不眠患者に薬剤を処方する場合は、まず準備因子を用いて『せん妄ハイリスク』かどうかを評価し、『せん妄ハイリスク』であれば安易に睡眠薬を処方すべきではありません」
看護師Aさん:「ぜひ病棟でも共有して、指示を見直したいと思います。
ひとつ質問です。マイスリーⓇなどの非ベンゾジアゼピン系薬剤であればせん妄のリスクは低くなりますか?」
井上先生:「よい質問ですね。
睡眠薬には、大きく分けてレンドルミンⓇやサイレースⓇなどのベンゾジアゼピン系薬剤と、マイスリーⓇやアモバンⓇなどの非ベンゾジアゼピン系薬剤の2つがあります」
看護師Aさん:「どのような違いがあるのですか?」
井上先生:「これら2つのグループの大きな違いは構造式です。ただし、いずれのグループの薬剤も同じ受容体に作用しますので、実際の効果や副作用は似通っている部分が大半です。ですので、最近は『ベンゾジアゼピン受容体作動薬』というひとくくりで扱われることが多いようです」
看護師Aさん:「ということは、臨床現場でよく用いられている睡眠薬のほとんどが要注意ということですね。では、『せん妄ハイリスク』患者の不眠にはどのような薬剤を選べばよいのでしょうか?」
井上先生:「その点ですが、結論から言うと、残念ながらエビデンスレベルの高い薬剤はありません。参考までに、岡山大学病院精神科リエゾンチームでは、せん妄ハイリスク患者の不眠に対してレスリンⓇ(またはデジレルⓇ)を使っています」
看護師Aさん:「レスリンⓇの特徴を教えて下さい」
井上先生:「レスリンⓇは抗うつ薬なのですが、抗うつ効果は少なく適度な鎮静効果を有する薬剤です。半減期が短く、翌日への眠気の持ち越しを避けることができます。また、多くの抗うつ薬にみられる抗コリン作用がほとんどないため、せん妄を引き起こすリスクは極めて低いとされています」
看護師Aさん:「ぜひ参考にしたいと思います」
井上先生:「ほかに、最近ではロゼレムⓇやベルソムラⓇといった新しい機序の睡眠薬が使われてきていますが、これらのせん妄に関する影響(効果・副作用)については今後のエビデンスが待たれるところです。
今日はここまでにしましょう。次回は直接因子の3つめ、『手術』について説明します」
看護師Aさん:「次回も楽しみにしておきます!」
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