大きな手術後やがんの終末期などに極めて高頻度にみられる「せん妄」。せん妄は、注意力や意識が低下することで患者さんが転倒・転落したり、幻覚が見えて暴れたりと治療を大きく阻害するものです。特に低活動型のせん妄は見落としがち。本連載ではそんなせん妄へのアプローチ法をやさしく解説します。
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せん妄とは? せん妄の症状と看護
今春から外科病棟に配属された看護師のAさん。担当患者さんが手術後にせん妄を発症してしまい、日夜悪戦苦闘・・・。これを機に、せん妄について体系的に勉強したいと考えています。
この患者さん、“せん妄”ですか?
看護師Aさん:「私、せん妄にすごく苦手意識があるんです。せん妄の患者さんとどのように関わったらいいのか全然わからないし・・・。 詳しく教えてもらえないでしょうか?」
井上先生:「せん妄を苦手に感じている医療スタッフは多いようですね。入院患者さんは高齢化しているし、認知症の方が入院する機会も増えています。高齢者や認知症の方はせん妄になりやすいので、せん妄の患者さんは今後もますます増えていくでしょう。」
看護師Aさん:「そうなんですね。じゃあ、しっかり勉強しなくっちゃ!」
井上先生:「では、初回はせん妄の主な症状について解説しましょう。まず、せん妄の症状を思いつくままに挙げてみて下さい。」
看護師Aさん:「えーっと・・・。夜中に変なことを言って急にどこかへ行こうとしたり、止めようとしたら怒り出したり。あと、あるはずのないものが見えると言われる人もいました。でも、患者さんによって症状が違うような気もします。」
井上先生:「そうですね。せん妄では、夜間に不穏になったり、幻視が見えたり、いろいろな症状がみられるのが特徴です。症状が多彩であるぶん、せん妄かどうかの診断が人によって違ってはいけませんよね。そのためにも、せん妄の診断基準を知っておく必要があります。 わが国では、アメリカの精神医学会が定めている診断基準(表1)を用いることが多いようです。」
表1 せん妄の診断基準
| A. | 注意の障害(注意の集中や維持の低下)と、意識の障害(環境認識の低下)がある |
| B. | 短期間で出現し(通常数時間から数日),日内変動がある |
| C. | 認知の障害(記憶障害、見当識障害、知覚障害など)がある |
| D. | AとCの障害は認知症ではうまく説明されない |
| E. | 身体疾患や物資中毒・離脱などの直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある |
(米国精神医学会. DSM-5, 2013より一部改変)
看護師Aさん:「なるほど。患者さんの症状がA~Eの5項目すべてを満たせばせん妄と診断するのですね。」
井上先生:「その通りです!では、順に解説しましょう。」
A. 注意の障害と意識の障害(環境認識の低下)がある
注意の集中や維持が難しく、例えば落ち着きがなく安静が保てなかったりすることがあります。また、意識の障害がある、ということも大きなポイントです。
B.短期間で出現し、日内変動がある
せん妄は短期間のうちに出現して一日の中で変動します。具体的には、日中は比較的落ち着いているものの夕方から夜間にかけて症状が悪化するという特徴があります。
例えばアルツハイマー型認知症など多くの認知症では緩やかな発症で慢性の経過を辿り、一日の中で症状が大きく変化するということはあまり起きません。
C. 認知の障害がある
記憶ができない(記憶障害)、あるいは、日にちや時間、場所がわからない(見当識障害)といった症状がみられます。また、錯覚など視覚認知の障害や、幻覚・妄想などの知覚障害が現れることもあります。
D.認知症ではうまく説明できない
せん妄は認知症とよく似た症状(認知機能低下など)がみられますが、日内変動の有無や発症経過などをもとに正確に鑑別する必要があります。
E. 身体疾患や物質中毒・離脱など生理学的結果によるものである
せん妄の原因については、一般身体疾患や薬剤が主なものになります。ここで言う「物質」とは、薬剤やアルコールなどを指します。
看護師Aさん:「よくわかりました。せん妄は認知症と間違われることが多いと聞きますが、特にBの項目などが一般的な認知症と違う点なのですね。 」
井上先生:「その通りです。他の疾患と区別をするためにも、まずは診断基準を知っておくことが大切です。今回はここまでにして、次回は症状についてもう少し詳しく解説しましょう。」
看護師Aさん:「楽しみにしています!」
次回は「せん妄の主な症状-注意力障害-」について解説します。
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