中外製薬株式会社
監修者の記事一覧薬剤耐性菌を生み出す抗菌薬の使用状況が見えてきた!
国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)では、世界的な課題となっている薬剤耐性(AMR)対策に取り組んでいます。当センターが行った日本国内での抗菌薬使用量の研究結果が、11月27日に公開される「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2019」に盛り込まれました。
◆日本では気道感染症に抗菌薬がどのくらい処方されているのか?
抗菌薬(抗生物質)の適正使用はAMR対策の大きな柱の一つです。2009年に発表された国内の論文*1によると、抗菌薬の不要なことが多い急性気道感染症 (感冒、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎など)*2で外来を受診した患者の約6割に抗菌薬が処方されていました。
その後の変化を把握し効果的なAMR対策につなげるため、当センターの木村有希客員研究員が中心となり、2012年4月から2017年6月の間に外来受診した急性気道感染症受診例 (社会保険のデータ約1,720万件)*3の抗菌薬処方状況を解析しました。
◆30%を超える受診例に抗菌薬が処方されている
急性気道感染症に対して抗菌薬が処方されていたのは100受診あたり31.65件でした。処方された抗菌薬は、第3世代セファロスポリン系(40.1%) 、マクロライド系(34.1%)、フルオロキノロン系(14.4%)と広域抗菌薬が多くを占めていました。これらはアクションプラン*4で使用量50%減を目標とされているものです。
年齢群別では、高齢者よりも青壮年で抗菌薬の処方される割合が高くなっていました。(13-18歳 41.19件、19-29歳 43.26件、30-39歳 42.47件、40-49歳 40.43件、60歳以上31.11件)(図1)
検討期間中の抗菌薬処方は減少傾向となっていました。(2012年4月と2017年6月を比較し19.2%減) (図2)
図1 年齢群別の急性気道感染症 100受診あたりの抗菌薬処方件

図2 急性気道感染症 100 受診あたりの抗菌薬処方件数の推移

これらの結果から、外来での急性気道感染症に対する抗菌薬処方はしだいに減少傾向にあることがわかりました。しかし、まだ受診例の30%を超える抗菌薬処方があり、そのうちの相当数は抗菌薬が不要なものと考えられます。したがって、ひきつづき抗菌薬適正使用の取り組みを進めていく必要があります。なかでも10代から40代への処方割合が高く、成人を診察する医師への啓発強化や、この世代を意識した一般市民向けの教育啓発の必要性が示唆されました。
本研究の対象期間は2017年6月までであり、アクションプランに基づく取り組みが本格化してからの期間は一部しか含まれていません。今後、アクションプランに伴う変化を追っていく予定です。本研究の詳細はPLOS ONEに掲載されています*5 。
AMR臨床リファレンスセンターでは国内外の専門家と連携をとりながら、薬剤耐性対策に関する研究にひきつづき取り組んでいきます。
参考文献
*1.Higashi T, Fukuhara S. Antibiotic prescriptions for upper respiratory tract infection in Japan. Intern Med.
2009;48(16):1369-75.
*2.急性気道感染症:一般に風邪症状とされる咳嗽、鼻汁、咽頭痛などをきたす疾患を指します。一部の細菌性あるいは重症
例を除いて抗菌薬を使用する必要はないとされています。
*3.本研究は株式会社JMDCがもつ複数の健康保険組合から提供されたレセプト(診療報酬明細書)データベースを用い、保険
診療の病名として急性気道感染症 (感冒、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎など) と記載されているもののうち
細菌性と記載されたものを除いた約1,720万件を解析の対象としました。
*4.アクションプラン:2016年4月に日本政府が発表した「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」では、薬剤
耐性の発生を遅らせ拡大を防ぐために取り組む6項目のうちのひとつに抗微生物剤の適正使用を挙げています。
*5.Kimura Y, Fukuda H, Hayakawa K, Ide S, Ota M, Saito S, et al. Longitudinal trends of and factors associated
with inappropriate antibiotic prescribing for non-bacterial acute respiratory tract infection in Japan:A retrospective claims database study, 2012–2017. PLoS One. 2019;14(10):e0223835.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0223835
抗菌薬適正使用はAMR対策の基本
~薬剤耐性(AMR)が広がれば、抗菌薬の効果が失われてしまう~
細菌が変化して抗菌薬・抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性(AMR: Antimicrobial resistance)」は世界的な課題です。2019年4月29日、国連は薬剤耐性菌が世界的に増加し、危機的状況にあるとして各国に対策を勧告しています。日本が議長国となった2019年のG20首脳会合や保健大臣会合でも、AMRが主要議題として取り上げられています。
AMR対策の基本のひとつは、抗菌薬を適切に使用し不必要な抗菌薬使用を減らしていくことです。日本では、外来診療での抗菌薬使用が全体の8割以上を占めており、外来診療で抗菌薬の適正使用を推進することが不可欠といえます。
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