甲状腺ホルモンの臨床検査においては、「遊離T3・遊離T4」といった項目をよく耳にします。「遊離」(フリー、free、f、F などと書くこともあります)とは、「T」とは何なのか、またT3とT4の違いは何なのか。こういった疑問に答えるには、基礎的な甲状腺ホルモンの生理学にもう少し踏み込む必要があります。
「ヨウ素」という必須元素
甲状腺ホルモンの第一の特徴は、その材料として「ヨウ素」(記号I、ヨードとも)という元素を必要とすることです。生体元素の多くは、体のあらゆる場所に存在して多彩な物質の材料となっていますが、このヨウ素は甲状腺にほぼ「専属」の元素と言っても過言ではなく、体内のヨウ素の大部分は甲状腺に集中しています。
生物の進化の観点からは、海水(ヨウ素を多く含んでいます)を濾過しているうちに、特定の臓器にヨウ素が蓄積しやすくなり、これが甲状腺の原型となって、やがてヨウ素をホルモンの材料として有効利用するようになった、などと言われています。ことの真偽はともかく、甲状腺ホルモンはヨウ素を「ほどよく装備する」ことで初めて生理活性を発揮します。
海産物の豊富な日本におけるヨウ素の平均摂取量は0.5~3mgと言われており、推奨摂取量(0.15mg)を大きく上回っています。このため、大陸の奥地ならいざ知らず、日本国内においてヨウ素の摂取不足が問題となることはほとんどありませんが、過剰摂取については注意を要します。
ヨウ素は大量に摂取すると機能低下を招くこともある
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料とは言うものの、大量摂取するとむしろ機能低下を招きます。そのメカニズムは複雑で、ひとつにはTSHによる甲状腺への刺激がヨウ素過剰によって抑制されるという要因があります。
このため、特に甲状腺機能低下症の患者さんがヨウ素を過剰に摂取すれば、病態を助長してしまうおそれがあります。バセドウ病のような亢進症においても、過剰摂取が勧められるものではありませんが、適切な管理下でヨウ素製剤を投与することにより、亢進した甲状腺機能の安定化を図る方法が採られることもあります。
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