本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。
意思疎通が困難で食事介助が必要な患者さんについて。食事介助中の窒息の事例を何件か聞いたことがあります。特に高齢者の食事介助時に窒息を予防するために気を付けるポイントはありますか?
近年、窒息による年間死者数は交通事故死を上回るほど増加しており、窒息の予防は重要な課題です。しかも、窒息事故の多くは高齢者に起きます。今回は、「食前」、「食中」、「食後」の3つの視点から窒息を防ぐ方法を考えてみます。
1.食事の開始前に確認したいこと
覚醒の状態
覚醒の良否は、嚥下や咳反射に直接影響するため、食前にはしっかりと覚醒していることが理想です。
食事時の覚醒が悪くなる原因はいくつか考えられますが、昼夜逆転などの生活リズムの問題や睡眠薬や抗不安薬による傾眠の影響(特に朝食時)などが比較的多く見られます。
このようなときには、食事前の口腔ケアなど口腔内外への刺激が覚醒を促すのに有効なことがあります。また薬剤の影響を疑う場合は、投薬の見直しが有効なことがあるため、主治医と相談してみましょう。
口腔の状態
口腔機能に適した形態の食事を提供することは、窒息を回避する上で最も大切なポイントの1つです。
かみ合わせ(特に奥歯)が保たれているかを確認し、「かみ合わせがなく義歯の使用もない」人は、咬まなくても(舌で潰して)丸飲みできる食形態で一度様子をみたほうが良いでしょう。
また意外に多いのが、義歯の装着忘れです。入院中や絶食時に義歯を外していると、食事が再開された時に義歯の装着を忘れたまま普通食が提供されてしまうことがあります。
その結果、義歯がなければ噛めない、潰せない食形態を提供してしまうことになり窒息のリスクを高めます。この義歯の装着忘れは、頻繁に起こるため特に注意してください。
その他にも姿勢の設定なども重要なポイントですが、第10回での説明を参考にしてください。
2.食事介助中に気を付けたいこと
食事形態
咀嚼力(咬んで潰す力)は、歯の喪失で低下します。また、歯の喪失を義歯で補っても自分の歯とくらべ咀嚼力はかなり低下してしまいます(総義歯の咀嚼力は天然歯の1/3と言われています)。
咀嚼力の低下により、硬いものの処理が難しくなることはイメージしやすいですが、それ以外にもかまぼこなどの練り物、海苔などの薄い物、葉物やキノコ類などは咀嚼が難しく、食塊形成ができないため窒息のリスクとなる食べ物です(図)。
咀嚼力の低下を疑う症例では、このような食べ物に対して細かく刻む(+あんかけにする)、など形態を下げることが必要です。
また嚥下機能が低下すると、嚥下後の咽頭残留が増加します。咽頭に残留物が増えると、吸気時に不用意に吸い込んで窒息してしまうことが増えます。
とくに残留しやすい「濃いペースト」のときは、粘膜に付着しやすく、喀出も難しいので注意しましょう。咽頭残留による窒息を予防するには、咽頭のクリアランス(残留物を一緒に食道へ流し込んでくれる)効果が高い、水やゼリー状の食物を適宜はさむ「交互嚥下」が有効です。

食事のペース
本人の嚥下よりも介助で提供するペースが上回ると咽頭に食物が溜まってしまい、それが気管に流れ込むと窒息に至ります。
必ず嚥下動作を確認しながらペースを調整しましょう。嚥下反射は(ほとんどの場合)喉頭の挙上で確認できます。またパーキンソン病の症例では、抗パーキンソン病薬の効果が減弱することで生じる「off状態」になると食事動作は極端に障害される(動けなくなってしまう)ため、Off状態の出現を疑う時には食事のスキップや中断も必要です。
自食の場合は、間接的な介助が必要なケースがあります。比較的よく見られる例は、ムセているのにもかかわらず休憩せず食べ続けようとする人です。
ムセているときは、声かけなどで一度落ちつかせるなどの工夫が窒息の回避に有効です。特に前頭側頭型認知症などの前頭葉に障害を認める症例では、食事のペースが早くかきこむように食べることで窒息してしまうことがあります。
このような人には声かけの他にも、小鉢に分割して提供する、スプーンを小さくすることで一口量をコントロールする、などで対応しましょう。
摂取時間
食事に時間がかかると、疲労や傾眠により窒息のリスクが高くなります。明確な基準はありませんが、1食にかける時間は40分ぐらいまでだと思います。
とはいえ症例や環境によって適切な時間は異なるため、個々の患者さんの食事中の変化を見逃さずに臨機応変に対応することが重要です。
3.食後に注意したいこと
終了時の食物
残留した食物の垂れ込みによる窒息を防ぐため、食事の終了は水分など咽頭のクリアランス効果が高い食形態で終了することが理想です(服薬後も)。
体位
逆流の可能性がある症例では、食後は座位姿勢を少なくとも30分以上とることが逆流を予防し、逆流による窒息を回避することができます。
窒息によるトラブルは、上記のようにいくつかのポイントに注意を向けることでその多くが回避可能です。食事中だけでなく、食前食後にも注意を払いましょう。
引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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