本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。
入院中絶飲食となっている患者さんの家族より「少しでもいいから口から食べさせたい」との相談を受けることがよくあります。経口摂取の可否を検討する際に考慮すべきポイントを教えてください。
患者さんや家族からの「食べたい(食べさせたい)」という希望は、可能であれば叶えてあげたい要求です。とはいえ、誤嚥の可能性が高い状態で経口摂取を進めてしまうと肺炎や全身状態の悪化につながってしまうのも事実です。今回は、3つのケースに分けて考えてみたいと思います。
様子を見た方が良い場合
入院時の絶食は肺炎などの加療中であることが多く、急性症状が落ち着くまでは、治療に集中するべき時期なので基本的には禁食です。
急性症状が改善してきている場合でも、呼吸がすぐに乱れる、覚醒の状態が悪いなど、全身状態が安定していない間は、経口摂取は控えましょう。
また、吸引の回数が多い、湿性の喘鳴が聞こえるなどの唾液誤嚥を疑う症状がある場合もこれらの症状が改善するまで経過をみた方が良いでしょう。
このような場合に大切なのは、患者さんや家族に、今の状況とこれからの見通しをできるだけ具体的に説明しておくことです。
「食べられない」状態が、見通しが立たないまま続いてしまうことが、患者さんにはもっともつらい状況です。
「今は熱もあり、呼吸も乱れているので誤嚥しやすい状況です。症状が落ち着いてから食べてみましょう」や、「吸引の回数が減ってきたら一度飲み込みの検査してもらいましょう」など、なるべく具体的な期限や条件を伝えることで、患者さん(や家族)もある程度目標をもって「待つ」ことができるようになります。
また、経過観察の間は口腔ケアや間接訓練を行うことも(医学的にも、また患者さんの納得の上でも)有効です。
食べさせても良いかな? という場合
上記のような症状がない、あるいは改善傾向にあるときは、経口摂取を検討してもよい時期になったと言えます。
機会をみて主治医に食べさせてよいか(直接訓練をしてもよいか)を相談してみましょう。また、療養型病院(病床)で入院期間が長い症例では、再評価されないまま絶食の指示が継続されていることがあります(「忘れられている」という場合も・・・)。
このようなケースでは、嚥下障害が入院時と比べて改善している、あるいは嚥下訓練に応じることができる、という状態になっていることもしばしば経験します。患者さんや家族の希望があれば、それをきっかけに主治医に再評価を提案してみるのもよいでしょう。
また、「入院中の経口摂取」というテーマからは少し外れてしまいますが、退院後に施設や自宅へ戻る予定である症例の場合は、可能なかぎり嚥下機能の(再)評価を検討しましょう。
多くの場合、施設や在宅に戻ると嚥下機能の再評価を受ける機会がほぼなくなっていまいます(近年この状況は変わりつつありますが、それでも充実はしていません)。
病院で絶食となった場合、施設や在宅に戻ってから食べさせることは現状ではかなり困難です。退院後の生活を考えて、入院中に少しでも禁食の制限が解除できるようなマネジメントをすることも大切です。
≫次ページ「経口摂取の判断に迷う、判断が分かれるケース」に続く
迷うけれども・・・食べさせることを考えてほしい場合
誤嚥の改善が難しい症例では、経口摂取の判断に迷う(判断が分かれる)ケースもあります。
一つは、いわゆる終末期の患者さんです。誤嚥のリスクが高いだけでなく、意識状態も悪く、食べる意欲も分からない状態でも家族が「何かたべさせてあげたい」と希望することが少なくありません。
リスクもあり意志も確認できない状態の人に食べさせることは、医学的には好しくはないかもしれません。しかしこのような場合でも、たとえ口に含ませる程度の量(誤嚥による侵襲がほぼない代わりに「食べる」というにもほど遠い量)でも、経口摂取を許可することが(特に家族にとって)結果的によい影響を与えることの方が多いというのが実感です。
自分の家族の最後に「何かしてあげることができた」という事実が、残された家族には後々まで慰めとなります。
もう一つは、重度な嚥下障害が残存したまま慢性期に至っている人です。絶食のままその後の生活が文字どおり「死ぬまで」続くため、かなりストレスの溜まる状態です。
このようなケースでは、経管栄養からの離脱は難しくても、肺炎にならないように環境や条件が整えられるならば、少量でも食べさせることができないかを検討しましょう。患者さんにとって、たとえ少量でも口から物を食べることができることは大きな励みとなります。
食事は、健常者にとってまったく当たり前の行為ですが、入院している患者さんやその家族にとっては「口から栄養を摂る」ということ以上の意味を持つことがあります。看護の現場では、生活や価値観という観点からも「食べる」という行為を考えてほしいと思います。
引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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