第19回日本腎不全看護学会学術集会・総会 ランチョンセミナー2
開催日:2016年11月26日
場 所:アジア太平洋トレードセンター地下2F AIホール
透析患者の愁訴に着目した透析治療 ~かゆみ対策を中心として~
【演者】
医療法人社団清永会 矢吹病院 副院長
政金 生人 先生
本セミナーでは、医療法人社団清永会矢吹病院副院長の政金生人先生に「かゆみをはじめとする透析患者の愁訴の意味」や「愁訴のモニタリング」、「愁訴を減らすための具体的な対策や治療」などをテーマに、自施設での取り組みも交えて詳しくご講演いただきました。
透析患者の愁訴は、透析不足のサイン
透析治療の現場においては、不眠・うつなどの精神・神経症状、低血圧発作などの透析困難症、そう痒症などの皮膚症状、骨関節症状など、さまざまな症状に遭遇する(表1)。患者から発せられるこれらの愁訴にはどのような意味があるのだろうか?

まず考えていただきたいのは、透析患者からのさまざまな訴えは、透析不足を示すサインである可能性が高いということである。海外の研究で、在宅で就寝中に週6回8時間透析を受けている患者では、生存率が献腎移植とほとんど変わらないと報告されている1)。また、クレアチニンクリアランスを指標とした腎機能と透析による腎代替効果をみると(図1)、週6回8時間透析では正常腎の20~40%と、CKD Stage 3レベル程度の腎機能が維持されていることから、透析に伴う愁訴も抑えられると考えられる。

一方、わが国で一般的である週3回4時間透析では、正常腎の平均10%程度と、透析導入時の腎機能と同程度を担保しているに過ぎない。また、腎不全状態では本来腎臓で代謝される各種サイトカインなど低分子量蛋白が体内に蓄積し、その結果、MIA症候群などの循環器合併症の発症リスクも増大する。実際に、日本の人工透析患者の5年生存率は60%2)とされ、決して高い水準とは言えない。
こうした違いからみえてくるのは、週3回4時間透析では明らかに透析量が足りないという事実である。医療従事者は患者に自己管理を求める前に、そもそも「週3回4時間透析では、透析不足である可能性があり、そのためにさまざまな愁訴があらわれることがある」という認識を持ち、それを患者にも伝えた上で、放置せず対策を行っていくべきである。
透析患者の不眠、うつ、低血圧発作、そう痒症は、予後悪化に関連する危険因子
透析患者の愁訴のうち、特に問題となるのは不眠、うつ、低血圧発作、そう痒症の4つで、これらは透析患者の予後悪化に関連する独立した危険因子と言われる(表1)。
透析中の血圧低下については、透析中に40mmHg以上の収縮期血圧の低下がみられた患者は、40mmHg未満の低下しかみられなかった患者に比べ、2年以内の死亡率が高かったとの報告がある3)。この傾向は、特に透析前収縮期血圧が139mmHg未満の患者において顕著だった。また、透析後に疲労が回復するまでの時間が12時間を超える患者は、回復時間が2 ~6時間の患者に比べ、入院のリスクが1.26倍、死亡のリスクが1.60倍高いとの報告がある4)。
睡眠障害もまた、予後を悪化させる因子である。米国のデータ5)では、透析患者のうち睡眠スコアが低い、すなわち睡眠の質が低い患者は5割に及び、QOLの指標において精神的側面および身体的側面の両スコアがともに低下していた。さらに、睡眠の質が低い患者は睡眠の質が高い患者に比べ、死亡のリスクが高かった5)。
わが国ではまだまだ関心が低いが、透析患者のうつも死亡に関連する重大なリスク因子である。透析患者をうつ病自己評価尺度(CES-D)のスコア別にみた検討6)では、CES-Dスコアが高い患者は低い患者に比べ、総死亡、入院および透析の中断のいずれのリスクも高かった。そう痒症についても国内の研究で、重度のかゆみを有する患者は中等度または軽度のかゆみを有する患者に比べ、生存率が有意に低下したと報告されている(p=0.0001、Log rank検定) (図2)7)。

このほかにも多様な愁訴がみられるが、それら全てを患者の生活の質を低下させ、生命予後を悪化させる重要な因子として、大切に受け止めていくべきである。
愛Pod 調査で患者の愁訴をスコア化し、その結果を治療に反映させる
透析患者の愁訴を見逃さず拾い上げていくために、モニタリングが非常に重要である。自施設では患者の自覚症状を評価し、透析方法や治療条件の見直しを図る「愛Pod計画」というプロジェクトを2005年より実施している。愛Podは「Patient oriented dialysis」の略であり、「患者の愁訴に基づいた透析」を目指す継続的な取り組みである。
具体的には、まず関節痛、かゆみ、いらいら、不眠、だるさなど透析・日常生活にかかわる20項目の質問に対して、患者に5段階のフェイススケールで答えてもらう(図3)。評価の結果は医療チーム内で共有し、スコアが一定以上の患者に対して治療介入を開始する。また、患者自身にも1ヵ月以内に必ず結果のフィードバックを行う。

治療介入の柱となるのが、透析方法の変更である。透析膜の変更や透析時間・回数の見直し、オンラインHDF、在宅透析などを患者の状態をみながら検討していくが、透析条件を変更する際には、必ず「何のために変更するのか」を明確にした上で、患者の状態をモニタリングし、定期的に見直すことが大切である。自施設では透析条件を設定する上で「時間単位」「週単位」「月・年単位」の指標を用いている。「時間単位」の指標は、透析中の血圧変化や透析後の疲労感、「週単位」の指標はかゆみ、いらいらなどの症状や骨関節痛、「月・年単位」の指標は栄養状態やドライウェイト、色素沈着である(表2)。例えば、「週単位」の指標となるかゆみについては、2~4週間を目安に評価し、最大2ヵ月まで様子をみるようにしている。これらの指標により、介入の成果を適切に評価できるほか、患者に対しても「愁訴に正面から向き合っている」という姿勢を伝えることができ、信頼関係の構築につながっていく。

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透析患者のかゆみの要因は、大きく3つある
透析医療の現場においては近年、予後悪化因子の一つである透析そう痒症への取り組みが着実に広がっている。一方で、かゆみに悩む患者はまだまだ多いと感じる。
中等度以上のかゆみを有する透析患者の割合は、国際共同研究であるDOPPS(Dialysis Outcomes and PracticePatterns Study)Ⅰで45%8)、新潟大学の2006年の報告で53.4%9)とされるが、施設間でも差があると思われる。「自施設にはかゆみのある患者はいない」との声も聞くが、自施設で職員家族(平均年齢67歳)を対象に愛Pod調査を行ったところ、約10%に中等度以上のかゆみがみられた。健常人でも高齢になればかゆみを感じる人が多く、透析施設であれば声高に訴えずともかゆみに悩む患者は一定数存在するはずである。かゆみを有する患者を健常人と同様の10%程度まで低下させることが、一つの目標になると考えている。
透析そう痒症の要因は、①腎不全・透析に由来する異常、②皮膚の異常、③中枢神経内のかゆみ制御の異常の3つに分けられる(図4)9)。また、DOPPSでは、かゆみのリスク因子として、男性、高齢、高リン血症、高カルシウム血症、フェリチン値高値などが挙げられている8)。

これらの原因やリスク因子を考慮し、自施設では透析そう痒症対策として、以下の4つを中心に行っている。
①透析方法の工夫
第一に、透析時間の延長や透析回数の増加により透析量を増やす。次に、生体適合性の良いダイアライザへの変更や蛋白漏出型透析、特にオンラインHDFへの切り替えを検討する。
②骨・ミネラル代謝異常症(CKD-MBD)の管理
リン、カルシウム、PTHの管理は、かゆみ対策としても重要である。これらの検査値は、患者とともにしっかりと管理を行っていく。透析量の増加はこれらの数値の改善にも有効であるが、必要に応じてカルシウム値に影響を与えないリン吸着薬などによる薬物治療も併用すべきである。
③皮膚局所の管理
皮膚の異常に由来するかゆみについては、局所の管理が不可欠であり、看護師の果たす役割は大きい。透析患者の皮膚は、強い乾燥のため皮膚の一番外側の角層がひび割れており、皮膚のバリア機能が低下している。また、知覚神経のC 線維が角層直下まで伸長し、外界の刺激によってかゆみが起こりやすい状態になっている10)。
対策としては、何よりもまず保湿が重要である。自施設ではヘパリン類似物質とワセリンを混合した軟膏を塗布し、皮膚表面を保護するほか、炎症がある部位にはステロイド含有軟膏を用いる。並行して、入浴の際にゴシゴシこすらない、石けんを使用しすぎないなどの生活指導を行う。
④内服薬の処方
そう痒が強い場合や①~③の対策を行っても改善がみられない場合などには、内服薬を処方する。かゆみの治療薬としては、以前から用いられている抗ヒスタミン薬、ステロイド薬のほか、中枢性のかゆみを抑えるナルフラフィン塩酸塩(レミッチ®)も登場している。
透析患者においては、中枢神経および末梢組織(皮膚)において、かゆみを引き起こす内因性オピオイドであるμ-オピオイド系(β-エンドルフィン)が、かゆみを抑制するκ-オピオイド系(ダイノルフィン)よりも優位になっていると考えられている11)。κ受容体の作動薬であるレミッチ®は、κ-オピオイド系を活性化することで、内因性オピオイドのバランス異常を是正し、かゆみを抑制する11)。
高橋らはレミッチ®の内服を含めた透析患者のそう痒症に対する治療方針をアルゴリズムに示し(図5)、それに基づく治療の効果について検討を行った9)。

アルゴリズムでは、皮膚の状態によって保湿剤のみ、または保湿剤とステロイド外用剤の併用から治療を開始し、2週間ごとに効果判定を行う。効果不十分な場合には、レミッチ®を処方するが、その間もスキンケア・生活指導は繰り返し行い、透析方法や薬剤・検査データの見直しも継続的に行うとしている。これらを実践した結果、「そう痒あり」の患者数は治療アルゴリズム導入前(2009年5月)と比べ、導入後の2013年4月には有意に低下した(p<0.0001、McNemar検定)(図6)。

さらに、レミッチ®を投与した患者15例のうち重度のかゆみを有する患者の割合は、46.7%(7例)から0%(0例)となった(図7)9)。このようにかゆみ対策は一つを行って様子をみるのではなく、さまざまな方法を組み合わせて総合的に進めていくことが重要である。また、掻くことは皮膚を刺激し、かゆみの連鎖につながる。かゆみをしっかり抑え、「絶対に掻かせない」ことが成功のポイントと言えるだろう。

愁訴は、より良い透析治療を導く大切な『気づき』である(表3)
透析患者の愁訴は透析不足のサインであり、その患者が抱える問題に気づくきっかけとなるものである。愁訴への対応の基本は透析方法の見直しであるが、かゆみは良い透析治療ができているかどうかのモニタリングの指標にもなる。一方で、患者にとって「良い透析治療」とは、自身にとっての普通の生活を送れることにほかならない。愁訴にあらわれる患者の問題に適切に対処し、「普通の生活」を実現するために、看護の力を大いに役立てていただきたい。

引用文献
1)Pauly RP. et al. : Nephrol Dial Transplant. 24(9): 2915-2919, 2009
2)「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在)」(一般社団法人日本透析医学会 統計調査委員会編), 日本透析医学会, 2016
3)Shoji T. et al. : Kidney Int. 66(3): 1212-1220, 2004
4)Rayner HC. et al. : Am J Kidney Dis. 64(1): 86-94, 2014
5)Elder SJ. et al. : Nephrol Dial Transplant. 23(3): 998-1004, 2008
6)Lopes AA. et al. : Kidney Int. 66(5): 2047-2053, 2004
7)Narita I. et al. : Kidney Int. 69(9): 1626-1632, 2006
8)Pisoni RL. et al. : Nephrol Dial Transplant. 21(12): 3495-3505, 2006
9)Takahashi N. et al. : Renal Replacement Therapy. 2:27, 2016
10)髙森建二ほか: Visual Dermatology. 11(7): 708-713, 2012
11)熊谷裕生ほか: 日透医誌. 24(3): 387-395, 2009
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