質的分析とは
質的分析とは、数量によって客観的に評価できないデータ(質的データ)を扱う分析のことです。質的データには話言葉や書き言葉、映画やビデオなどの画像、音楽などが該当します。
これら質的なデータを分析するのは何でしょう。統計ソフトでしょうか。統計ソフトは数字で表せる量的なデータを扱うことはできますが、質的データを扱うことはできません。質的データを分析するのは、研究者自身なのです。
質的分析が用いられる研究テーマ
質的分析は、研究者自身が書き言葉や話し言葉、画像などをよく吟味し、意味付けをしてまとまりをつくり、さらに抽象化して概念をつくり、概念のあいだの関係を見出していく研究です。そのためテーマとして適しているのは、調べたい内容そのものが漠然としているもの、データの主観性が高いものなどです。具体的には相互作用、内的体験、態度、意味などを分析するのに適しています。
以下に研究テーマの具体例を示しておきました。
1.相互作用:例)化学療法を受ける患者同士のピアカウンセリングのプロセス 2.内的体験:例)日帰り手術を受ける患児の体験過程 3.態度:例)乳房切除患者の創部に対する態度 4.意味:例)障害児を養育することの意味
質的分析を構成する共通要素
質的分析には、グラウンデッドセオリーアプローチ、内容分析、KJ法など様々な技法があります。それぞれ得意とするテーマ・分野があり、技法もそれに基づいて工夫されています。 ここではそれらに共通した技法上の特徴を紹介します。
アイディアをもつ
1.テーマ・問題設定
質的な分析を行う研究のテーマは、「調べたい内容そのものが漠然としている」ため、最初の問題意識が漠然としているのが普通です。漠然としているから先行研究は検討しなくていいという人がいますが、それは全くの間違いです。
どうしてその内容を明らかにする必要性を感じたのか、研究の背景について詳述したり、他の研究者によってそれが明らかにされているのかを文献検討したり、また、内容が明らかになったら、看護にどのように役立てられそうかなどについても考え時記述していきます。
2.対象の選定
どんな対象者からどんな方法で情報収集をしたらいいのかできるだけ綿密に計画します。
3.研究方法
調べたい内容に関わる質的データを収集するには、どんな方法が適しているのかを考えます。よく用いられるのが、質問に沿って対象者に自由に話してもらう方法(非構造化・半構造化面接法)です。
面接した内容はあとで「テキスト化」といってすべて文章に書き直すので、あらかじめ対象者に面接内容を録音する許可をもらっておくとよいでしょう。面接法の他に観察法や質問紙法などを用いることもあります。
また補助的にビデオでの撮影を要することもありますが、これらは対象者の特徴や、明らかにしたい内容によって変わってきます。また、データを収集する前に特に気をつけてほしいのですが、皆さんのもつ「主観的な癖」や「価値観」をできるだけ自覚できるようにしておいてください。ちなみにわたしにも「癖」や「価値観」があります。
わたしは自身が仕事人間であるため、仕事に関する質問は得意ですが、専業主婦の方への質問はどうも掘り下げて聴くのが苦手なのです。しかし「癖」や「価値観」は自覚することによって収集するデータや分析の質がよくなります。気をつけるようになるからです。ぜひ誰かに「癖」や「価値観」を指摘してもらえるようにしておきましょう。
データの収集
はじめは少数の対象者からデータを収集します。そうすると研究計画の不備が明らかになるので、そこで変更・修正を行います。その後本格的にデータを収集します。
データをテキスト化する
得られた音声データや観察されたデータを、対象者の行為や出来事のおかれた文脈や全体状況が他者に伝わるように生々しく書きます。
生々しくとは、対象者の声の強弱や緩急、対象者が示している表情や態度、身振りなどを含めて記述するということです。また周囲の情景描写なども必要に応じて記述します。これを「分厚い記述」と言います。質的分析の主な作業は、テキストからの「意味」の汲み取りと抽象化です。
そのためテキスト化の際には、のちに研究者が意味の汲み取りが容易なように、対象者の言葉の重みや意味が伝わるよう、その場の情景をありありと再現することが大切なのです。
コーディング(第一段階の抽象化)
テキスト化が終了したら、いよいよその中から、テーマにあった内容と思われるものを意味を吟味しながら切り出します。そして内容を簡潔に表すキーワードを言葉にしてテキストの脇に書き出していきます。それがコーディングです。以下の手順によって行います。
1.テキスト(データ)に浸る
まず、研究者自身が繰り返しテキスト化されたデータを読み、対象者のおかれた状況や文脈、世界を十分に味わいます。
2.語句をピックアップする
次に、研究テーマに関わると思う内容をピックアップし、アンダーラインを引いていきます。
3.選択した語句に対してコーディングを行う
ピックアップしたひとつひとつの語句に対し、「これは何を意味しているのか」を深く吟味しながら、その結果を端的に表現する短い言葉(コード名)でノートの余白に記入していきます。コードは堅苦しい表現ではなく、日常的に使う表現でOKです。
以下は、面接内容のテキストからコーディングを行った例(一部)です。

資料1.研究課題「癌終末期患者の一時退院における家族介護者の直面する葛藤(一部)」
内容の解釈
1事例をこなすのに結構時間がかかりますが、この調子で事例ごとに、前の段階の1~3を数回繰り返し、コードをためていきます。
カテゴリ化(第2段階の抽象化)
コードがたまってきたら、カードにコード名を記入します。1コードにつき1カードです。似たようなコードがたくさんあってもすべてそれをカードに書き写します。次に内容が似た者同士でまとまりをつくっていきます(カテゴリ化)。次に、カテゴリを総括する名前を考えます(カテゴリの命名)。
概念化(第3段階の抽象化)
カテゴリができたら、必要に応じてさらに抽象化します。カテゴリ名をカードに書き写し、まとまりをつくります。まとまりができたら、それを総括する名前をつけます(概念化)。資料2は、第1~第3の抽象化のプロセスを表にしたものです。質的分析では、分析の結果が妥当なものかどうかを皆に確認してもらう意味で、こういった資料を作成します。

資料2.「癌終末期患者の一時退院における家族介護者の直面する葛藤(一部)」
概念間の関係を明らかにする
最後に、概念間の関係を、意味をよく考えながら図にしていきます。概念図には様々なパターンがあります。その一部を資料3として紹介します。ちなみに資料2は、A)のようなタイプの概念図になると考えられます。

資料3.様々な概念図のパターン
分析結果の表示
分析の過程で作成した資料1~2ですが、それぞれが量的分析での図表に匹敵する重要な資料になります。研究結果を書く時には、これらを図表だと思って解説していく必要があります。
また、解説にあたり注意しなければならないことがあります。質的分析では、「分析の客観性がない」ことを批判されやすいです。質的分析はコンピュータのように、クールに分析できず、研究者の主観に頼った分析だからです。量的分析では、分析に使ったソフトや分析方法を結果の前に紹介するのが普通です。
「これくらい客観的にやったんだよ」ということを示すわけです。質的分析でも同様にできるだけ分析の客観性を示すことが必要になります。
示す内容として重要なのは、データ収集の前に「自己の主観の偏りを分析・内省したこと」、コーディング、カテゴリ化、概念化など抽象化の過程で「専門家のスーパービジョンを受けたこと」です。またこうした工夫こそが質的分析の質を高めることにつながるのです。
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