2017年8月31日、秋田キャッスルホテル(秋田県秋田市)において「こまち麻酔フォーラム2017」が開催されました。
「麻酔科領域の物理学と医療安全」セミナーでは、東北医科薬科大学麻酔科学の河野達郎先生の座長のもと、東北大学病院麻酔科の外山裕章先生、東北大学病院薬剤部の矢内一成先生が講演を行いました。
同会場で行われる日本麻酔科学会北海道・東北支部第7回学術集会の前日ということもあり、会場には熱意ある多くの麻酔科関係者が詰めかけました。
共催:こまち麻酔フォーラム2017/ニプロ株式会社
2017年8月31日、秋田キャッスルホテル(秋田県秋田市)において「こまち麻酔フォーラム2017」が開催されました。
「麻酔科領域の物理学と医療安全」セミナーでは、東北医科薬科大学麻酔科学の河野達郎先生の座長のもと、東北大学病院麻酔科の外山裕章先生、東北大学病院薬剤部の矢内一成先生が講演を行いました。
同会場で行われる日本麻酔科学会北海道・東北支部第7回学術集会の前日ということもあり、会場には熱意ある多くの麻酔科関係者が詰めかけました。
共催:こまち麻酔フォーラム2017/ニプロ株式会社

麻酔の物理と医療安全

東北大学病院 麻酔科 講師 外山裕章 先生
手術での安全な麻酔管理は、マニュアルに従い正確に実施すべきですが、なぜそう操作すべきなのか、その操作がどんな意味をもつのかを理論的に理解できていれば、安全性の担保に効果的です。物理学の法則や数式に基づいて、麻酔管理の現場で起こる事象について、その機序をお話することで、医療安全に寄与できればと思います。
今回は、私たちが日頃使っているシリンジとシリンジポンプについて解説します。シリンジポンプから流れる薬剤の流量には摩擦のほか、チューブの高さや点滴回路の圧力が関係しています。ある面の上に接している物体に力を加えていくと、だんだん力が大きくなって途中からポンと動き始めるという現象が起きます。この最大の力のところを最大静止摩擦力と呼び、その後の力がほぼ一定になるところを動摩擦と呼びます。シリンジのバレルとガスケットの間にも、この現象が起きているのです。
チューブと接続したシリンジが静止した状態でもチューブの先端を30cm程度下げるとサイフォンの原理で内部の薬液が流れ出る可能性があります。ですからシリンジに薬剤を装填したときには、点滴のチューブが床に落ちないように注意が大切です。
次にシリンジポンプから、実際に薬剤がきちんと送られているかについて調べてみました。5mL/hrの流量設定でシリンジポンプを作動させると、最初の3分間はほとんど薬剤が送られていませんでした。これには静止摩擦係数とシリンジポンプのモーターの立ち上がりが影響していると考えられます。1mL/hrの場合はさらに20分程度、薬剤が入っていない状態が起こりました。低流量でシリンジポンプを使うことは、リスクを伴うことがわかります(図1)。

また、50mLの生理食塩液プレフィルドシリンジ製剤(ニプロ製)*を用意し、ニプロ製とA社製の50mLシリンジ(生理食塩液50mLを充填)2種と比較しました。流量設定1mL/hrでは、最初の5分間はニプロ製シリンジが理論値の1mL/hrより多く、A社製シリンジは理論値より少ない結果となりました。プレフィルドシリンジ製剤では両者の中間程度で流れていました。15~20分経過すると安定してほぼ同値となりました。また、5mL/hrでは差はみられませんでした(図2)。これらの結果より、シリンジポンプを流量5mL/hr以下で用いる際には、この特性に留意しておくとよいでしょう。
*注射器にあらかじめ充填された生理食塩液

薬剤師による手術用薬品調製への関与

東北大学病院 薬剤部 主任 矢内一成 先生
東北大学病院の薬剤部では、麻酔科医の負担軽減を主な目的に、手術用薬品の調製業務を行っています。2014年1月より麻酔科麻酔の1例目を対象に、薬剤師2人で調製業務を開始し、同年4月には4人体制で予定手術の全症例に実施しました。
調製業務のスケジュールは以下のとおりです。まず、手術前日22時までに麻酔担当医が「手術時注射指示書」を作成します。22時以降に夜勤薬剤師が受付を行い、薬品集計表を作成、注射剤・麻薬を取りそろえ、術別・手術室ごとに個人の薬品の準備を行います。手術当日は、朝6時30分から早朝調製担当薬剤師4人が、「手術時注射指示書」に基づきクリーンベンチ内で調製を行い、監査を終えて8時30分までに払い出しを行います。
当院の特徴に、手術用薬品オーダー方法の標準化があります。麻酔方法別に使用される薬剤をセット化しており、「手術時注射指示書」上のボタン1つで展開できます。同様に、使用目的別に追加される頻度が高い薬剤もセット化しており、こちらもボタン1つで展開できます(図3)。調製薬品は青いトレーに入れ払い出しをしますが、麻薬の場合は袋とラベルを赤色に区別しています(図4)。


麻酔科医の手術準備時間と業務量を改善
当院の薬剤師による手術用薬品の調製業務に対し、麻酔科医がどのように感じているかアンケート調査を行いました。期間は2015年7~10月、麻酔科医27人、歯科麻酔医8人の計35人を対象とし、28人から回答を得ました。
薬剤師による調製については、86%が良いことだと回答し、「絶対に必要。むしろ実現が遅すぎた」「大変助かっている」等のコメントを得ています。また、調製業務を7項目に分けて行った5段階評価では、「準備時間」と「業務量」に対し高い評価が得られ、改善できたことが示されました(図5)。 あらかじめ使用薬剤を用意することで、廃棄薬剤量の増加も予想されましたが、患者ごとの適切な調製により廃棄量は最低限に抑えられました。調製実績は順調に増えており(図6)、薬剤師による手術用薬品調製は有用な業務であるとわかります。


当院の薬剤部は、麻酔科医からの提案を受け、2017年3月から20mLと50mLの生理食塩液プレフィルドシリンジ製剤を導入しています。このプレフィルドシリンジ製剤の導入前後における手術用薬品の調製時間を調査しました。2017年2月20日~3日3日までを導入前の期間、同年7月24日~8月3日までを導入後の期間として、調製開始から業務終了までに要した時間を測りました。この結果、1指示書あたりの平均調製時間は、導入前に8分程度かかっていたところが、導入後は1.5分ほど短縮されたことがわかりました(図7)。

薬剤師による手術用薬品の調製業務は、麻酔科医の業務負担の軽減に大いに役立っていると考えております。また、生理食塩液プレフィルドシリンジ製剤は調製時間の短縮に寄与できる可能性があると考えています。

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