大きな手術後やがんの終末期などに極めて高頻度にみられる「せん妄」。せん妄は、注意力や意識が低下することで患者さんが転倒・転落したり、幻覚が見えて暴れたりと治療を大きく阻害するものです。特に低活動型のせん妄は見落としがち。本連載ではそんなせん妄へのアプローチ法をやさしく解説します。
▼せん妄についてまとめて読むならコチラ
せん妄とは? せん妄の症状と看護
今春から外科病棟に配属された看護師のAさん。担当患者さんが手術後にせん妄を発症してしまい、日夜悪戦苦闘・・・。これを機に、せん妄について体系的に勉強したいと考えています。
せん妄には種類がある
看護師Aさん:「今回のテーマは、『低活動型せん妄』ですね。実は私、この低活動型せん妄について、ほとんど知識がないんです。。。」
井上先生:「医療スタッフでも低活動型せん妄をよく知らない方は多いので、これを機にしっかり勉強しましょう。
低活動型せん妄は従来から提唱されていたのですが、2013年に改訂されたDSM-5(アメリカ精神医学会)による診断基準に初登場し、ようやく日の目をみることになりました」
看護師Aさん:「では、最近のトピックスなのですね」
井上先生:「その通りです。DSM-5では、せん妄の診断基準に該当する場合には、同時にせん妄のサブタイプを特定するように求めています」
看護師Aさん:「サブタイプ、ですか」
井上先生:「いわゆる『亜型』のことですね。せん妄には、『過活動型せん妄』、『低活動型せん妄』、『混合型せん妄』の3つのサブタイプがあるので、ぜひ覚えておきましょう。
せん妄と聞いて、多くの方は過活動型せん妄をイメージすると思います。とても混乱が強く、点滴を引き抜いたり、徘徊がみられたりといった不穏や問題行動が目立つせん妄です」
看護師Aさん:「せん妄といえばまさにそのイメージです。看護師が対応に困るせん妄ですよね」
井上先生:「そうですね。医療スタッフの疲弊を招いたり、事故や自殺につながったりと、多くのデメリットがあります。
一方、無関心、不活発、動作緩慢のような症状を呈する低活動型せん妄は、医療スタッフから見逃されることの多いタイプのせん妄です」
看護師Aさん:「過活動型せん妄とはまるで逆の症状ですね。私もこれまで気づいていなかったように思います」
次のページは「低活動型せん妄は見分けにくいのに、頻度が高い!」
低活動型せん妄は見分けにくいのに、頻度が高い!
井上先生:「高齢者を対象とした研究を集めたものでは、低活動型せん妄と過活動型せん妄を比べると、低活動型せん妄のほうが少し多いという報告があります。さらに、がん患者さんなどでは、低活動型せん妄が51%、過活動型せん妄が31%と、低活動型せん妄が約半数を占めています(図1)」
図1 せん妄のサブタイプ別の発現率
看護師Aさん:「すごく意外です。過活動型せん妄よりも低活動型せん妄のほうが多いのですか?」
井上先生:「その通りです。それに対して、実際に精神科に紹介があるせん妄の患者さんは、その多くが過活動型せん妄(59%)です」
看護師Aさん:「なるほど。過活動型せん妄は医療スタッフが対応に困るので、精神科に紹介されることも多くなるのですね。
私のように、医療者がそもそも低活動型せん妄に気づいていないということもあるかも知れませんね。低活動型せん妄はなぜ見逃されやすいのでしょうか?」
井上先生:「よいところに気がつきましたね。理由として、低活動型せん妄は症状が目立たず認識されにくいことに加え、治療への影響が少なく医療スタッフがあまり困らないことが挙げられます」
看護師Aさん:「医療スタッフ側として困ることは、“食事やリハビリがあまりすすまない”ぐらいのことでしょうか」
井上先生:「そうですね。また、低活動型せん妄がうつ病と間違えられやすいことも理由の一つですが、これについては別の機会に詳しく解説したいと思います」
看護師Aさん:「もう1つ質問です。低活動型せん妄の患者さんって周りを困らせることは少ないようですが、本人は苦痛を感じているのでしょうか?」
井上先生:「せん妄から回復した患者さんへのインタビュー調査があります。それによると、低活動型せん妄の患者さんも、過活動型せん妄の患者さんと同様に強い苦痛が語られています。低活動型せん妄を医療スタッフが正確に認識し、回復につなげることは、患者さんにとってとても大切なことなんです」
看護師Aさん:「よくわかりました。私も認識を新たにしたいと思います」
井上先生:「今回はここまでです。次回はせん妄を見逃さないために、臨床で使える各種ツールについて取りあげてみたいと思います」
看護師Aさん:「楽しみにしています!」
次回は「せん妄の評価ツール」について解説します。
\ この記事をシェアする /
















