
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
青柳智和先生のYoutubeチャンネルのご紹介
臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、記事に登場する「メンデルソン症候群」についても特別解説中。ぜひご覧ください。
今回の症例|嘔吐後に発熱が・・・どうして心電図検査が必要なの!?
患者像
67歳男性。半年前に精巣上体炎の入院歴があり、今回再発で入院。抗菌薬使用中。
●喫煙歴あり。
●2型糖尿病で罹病期間は約20年。インスリンの使用はなく、メトホルミン塩酸塩(メトグルコ錠)内服中。目、腎臓、末梢神経障害の合併症はなく、HbA1cは7%弱。
●体温は37.5度前後で経過。倦怠感があり、食事摂取量は半分程度。
何が起こったか
本日、昼食摂取中に嘔吐がありました。しかし、意識レベルの低下やSpO2の低下を認めなかったことから、経過を観察することにしました。その後、14時の検温で39.5℃の発熱と頻呼吸、両背側の下肺野からの明らかな水泡音を認めました。すぐに担当医に報告したところ、標準12誘導心電図と胸部CTの検査指示が出ました。
この症例をどう考えるか
担当医からの指示は、心電図と胸部CTでした。
胸部CT検査を行う意味は、みなさんおわかりになると思います。誤嚥性肺炎の有無を判断するために行うものです。誤嚥に伴う肺炎は「メンデルソン症候群1)」といい、強酸性の胃液を原因とする化学性肺炎で、時に治療に苦慮します。実際に、この患者さんはCT画像から誤嚥性肺炎と診断がつきました(図1参考)。
図1 両側の肺野に誤嚥性肺炎を疑う浸潤影の例


それでは、心電図検査の指示が出された理由はわかりますか。嘔吐があり、その後発熱や頻呼吸が現れた患者さんに対し、胸部CTの指示が出されるのは素直に受け入れられると思います。しかし、「心電図を急いで撮ってくれ」と言われたらどうでしょう。疑問を感じるのではありませんか。結論からいうと、この患者さんは心筋梗塞でした。そこから考えると、14時過ぎではなく、嘔吐した後、あるいはもっと前に心電図検査を行うべきだったというのが正しい判断となります。
アセスメントのコツ
●まずは医師の思考を推測してみよう
担当医はどのような点から心筋梗塞を疑ったのか考えてみましょう。チーム医療は、医師の考え方を共有するところから始まります。私たち看護師がチ ーム医療の一員となるためには、「医師の思考回路」つまり「臨床推論」を学ぶことが欠かせません。今回の患者さんは、嘔吐後、誤嚥性肺炎を起こし、発熱や頻呼吸が出現しました。ここまでは難しくないと思います。問題は「なぜ嘔吐したのか」です。
担当医はそこに焦点を当て、推論を瞬時に組み立てています。嘔吐の原因は非常に多く、頭蓋内疾患、心臓血管疾患、消化器疾患、電解質異常、代謝異常、薬剤性、心因性などさまざまです。担当医は、報告内容のみで、嘔吐の原因を心臓血管疾患が原因と予測したわけではありません。性別や年齢、糖尿病の既往など、把握していた患者情報も踏まえて、心筋梗塞の可能性があると判断したのです(検査前確率といいます)。もしも心筋梗塞だった場合、取り返しのつかない事態に進展する恐れがあるため、除外目的で指示を出しました。このとき同時に採血の指示も出ています。
心電図検査の結果、心筋梗塞を否定できない心電図波形が確認されたため(図2参考)、速やかに循環器の医師に相談し、エコー等の結果で確定診断がつきました。「嘔吐の原因は心筋梗塞かもしれない」と考えた担当医は、「(心筋梗塞が疑われるので) 10分以内に心電図を測定する」「糖尿病の既往があるから胸痛は出現しなくてもおかしくない」「採血でトロポニンも確認しておこう」と思考を巡らせ、万一を想定して二重三重のセーフティネットを敷き、見逃しのリスクを排除しています。

●先回りして考え報告できるようにしよう
この事例から看護師は何が学べるでしょうか。嘔吐した後、「〇〇さんが嘔吐し、誤嚥した可能性があります。現在は酸素化の悪化は認められませんが、嘔吐した原因がわかりません。採血やレントゲン、あるいは心電図など必要であれば行いますがいかがですか」と報告できていれば、嘔吐直後の心電図で早期に診断できた可能性があります。今回患者さんは急変しませんでしたが、発熱の前に不整脈が出現し急変していた可能性も十分にあります。私たちの未熟なアセスメントを患者さんの生命力で乗り切っている場合も少なくはないのです。
「嘔吐しました」という報告をその都度医師に報告していたら、医師の業務はパンクしてしまいますが、致死性疾患が除外できなければ報告は必要です。嘔吐したという事実と、考えられるその原因を肯定する所見を同時に伝えられる、今回であれば「嘔吐しましたが、その原因がわからず、不安だったので連絡しました」と連絡できれば、医師は背景を理解し、外来や手術中であっても推論し、必要な検査の指示が出せます。あるいは、特定行為の研修を修了した看護師がいれば、手順書により検査を進められるかもしれません。
看護師の役割の一つは、診療の補助です。医師が診断に結びつく情報を提供できることは重要な診療の補助であり、それは患者さんの治療成績に直結します。今何が起きているのか──症状の理由を見抜き、報告できる、カッコいい看護師になりたいですね。防ぎ得る院内急変がゼロになるまで、アセスメントの重要性をさまざまなかたちでお伝えしていければと思っています。
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
参考資料
1)S.K.Lahiri,et al:Single-dose antacid therapy for the prevention of mendelson’s syndrome. British Journal ofAnaesthesia 1973;45(11):1143?6.
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年7月号 TiaraNo.137より転載しています。
