
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
青柳智和先生のYoutubeチャンネルのご紹介
臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は「慢性心不全増悪の原因(FAILURE)」についても特別解説しています。ぜひご覧ください。
今回の症例|SpO2が低下……指示通りに酸素を投与したのにどこか問題が?
患者像
80歳女性。心房細動および慢性貧血(鉄欠乏性貧血)による心不全で3カ月前に入院加療。抗凝固薬内服中。3日前に発熱および呼吸困難があり、近所のクリニ ックを受診。SpO2の低下を認め、画像所見の結果肺炎と診断され、当院(総合病院)に紹介。抗菌薬投与の目的で内科病棟に入院。
●食事摂取量は半分程度。
●酸素は3L/分で経鼻酸素カニューレを使用。
●バイタルサインは安定。
何が起こったか
入院当日の夜にSpO2が90%まで低下。そのため予測指示に従って酸素投与量を増やしました。2時間後、SpO2はさらに低下し、収縮期血圧が90?Hgまで下がっていました。呼吸数は30回/分で、体温は38.8℃。排尿は夕方から確認できておらず、受け答えはできるものの、閉眼していました。看護師が担当医に状況を報告 すると、「酸素を流しただけ?」と言われ、フロセミド(ループ利尿薬)の静脈内投与と、すぐに行くのでNPPVの準備をしておくように指示が出ました。
この症例をどう考えるか
この患者さんは細菌性肺炎と考えられます。入院時に提出した喀痰培養で肺炎球菌が確認されており、経過や所見と照らし合わせてみると間違いはないでしょう。肺炎の患者さんが入院中に酸素化が増悪することは珍しくはありませんが、なぜ今回は利尿薬を使ったのでしょうか。
結論から言いますと、この患者さんは心不全による肺水腫でした。22時の時点で利尿薬の使用や心不全への介入ができていれば、その後の血圧低下は防げたかもしれません。もちろん、肺炎の患者さんに対して指示通りに酸素を流すことには何の問題もありません。しかしこの症例では、「なぜ酸素化が悪くなったのか?」という視点をもてることが必要だったのです。


青柳智和:A-DROPシステム. 洞察力で見抜く急変予兆〜磨け! アセスメントスキル〜 第2版. 細谷真人 監修. ラプタープロジェクト, 2020, p.189. より引用、一部改変
アセスメントのコツ
●心不全の誘因とリスクを知っておこう
まず「A-DROPシステム」を知っておく必要があります(表1)。これは、外来の患者さんにおける肺炎の重症度評価です。
この患者さんは、高齢で酸素化に障害があったためA-DROPシステムでは2項目が当てはまり、評価基準によると「中等度の肺炎」で「外来または入院治療が必要」となります。そして、状態が悪くなる可能性が非常に高かったと思われます。
そう遠くない過去に、心房細動と鉄欠乏性貧血による心不全での入院歴がありました。心房細動によ って心機能が低下し、そこに鉄欠乏性貧血が加わることで酸素運搬量が減少、組織の酸素需給バランスが崩れて心不全の状態となったということです。心不全は症候群であって疾患名ではないので、基礎疾患と誘因を意識することが大切です。そして、誘因を考える場合は、表2による考え方がよく知られています1)。これによると、肺炎も貧血も慢性心不全の増悪の原因として挙げられています。心臓の基礎疾患を有する人が表2のような状態に陥った場合は、特に注意が必要であるということになります。今回の患者さんは、心房細動があり、鉄欠乏性貧血と肺炎があります。つまり心不全増悪の高リスク状態だと考えられます。

●心不全の誘因とリスクを知っておこう
このような状況下で、看護師はどうすればよかったのでしょうか。例えば私でしたら、次のように報告します。
「本日肺炎で入院してきた80歳の女性ですが、3Lで酸素投与を行っていましたが、22時過ぎから酸素化の増悪を認めました。SpO2低下時の指示があ ったので、酸素を増やし5L/分を酸素マスクで投与しています。ただ、夕方から排尿がなく、受け答えはできますが、非常につらそうです。頸静脈や足の浮腫は今のところ明らかではありませんが、肺野全体から水泡音が聴取でき、入院時より範囲が広くなっている気がします。点滴はおよそ500mL入りました。酸素投与の増量でだけでよいか不安になりましたので、相談したく連絡させていただきました」

青柳智和:慢性心不全増悪の原因(FAILURE). 洞察力で見抜く急変予兆〜磨け!アセスメントスキル〜 第2版. 細谷真人 監修. ラプタープロジェクト, 2020, p.231. より引用
今回のアセスメントのポイントは「肺炎による心原性肺水腫の出現」です。心不全の既往のある患者さんが肺炎を契機に心不全となったことは、理論的に説明できます。しかし、本当に肺水腫かどうかはわからないのに、「肺水腫」という言葉を使うことは避けたほうがよいでしょう。アンカリングバイアス(相手を思い込ませてしまう)がかかり、医師の診断の妨げになる可能性もあります。看護師としては、診断に結びつく多くの所見に気づき、的確に医師に報告することが大切です。
急変時に動けることは看護師像としてカッコいいと思います。しかし、急変させずに先に先に手を打つ働き方はもっとカッコいいと、個人的には思っています。指示を正しく実施し、さらに指示にない情報の収集にも目を向けられると、チーム医療の一員としてさらに輝きが増すのではないでしょうか。
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
参考文献
1)加藤真帆人:心不全とは何だろう? 〜慢性心不全という新しい概念とその管理〜.日大医学雑誌. 2015;74(4). 153-60
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年8月号 TiaraNo.138より転載しています。
