
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
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臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、介護老人保健施設入所者における時間帯別にみた転倒の個人要因についても特別解説しています。ぜひご覧ください。
今回の症例|夜間のトイレ歩行で転倒。頭も足も骨折なし……でも一件落着ではない!?
患者像
85歳女性。認知症はなく、ADLは自立している。息子夫婦と同居。最近倦怠感や食欲不振がみられるようになり、体重が3カ月で3?減少。そのため、消化管の検査および輸血を目的に入院。
上部消化管検査と2単位の濃厚赤血球輸血を行い、検査の結果、びまん性の胃炎が認められた。胃粘膜保護薬が処方され、翌日退院の予定となった。
入院時のバイタルサインは、体温36.2℃、脈拍62回/分、血圧106/66?Hg、呼吸数20回/分。意識レベルは清明で、麻痺など異常な身体所見は認められない。
何が起こったか
夜中の3時過ぎ、患者さんがベッド脇にうずくまっているところを看護師が発見。右大腿部を痛がっており、右前額部に擦過傷を認めました。意識は清明でしたが、転倒時のことは覚えていません。
体温36.1℃、脈拍62回/分、血圧126/72?Hg、呼吸数22回/分。右前額部はわずかに腫脹していましたが、明らかな出血、皮下出血はなく、触ると少し痛いという訴えがありました。右大腿部の腫脹、脚長差はありません。
当直医に報告し、トイレへ行きたいという本人の希望を伝えると、頭部CT検査、右大腿骨および骨盤のX線検査の後、「明日、担当の先生に診てもらってください」と言われ、見守りでのトイレ歩行の許可が出ました。
看護師は念のため車椅子でのトイレ介助を実施。車椅子からは歩いてトイレやベッドに移動できました。その後特に変わりはなく、翌朝担当医に報告すると、心電図モニターと12誘導心電図の指示が出ました。

この症例をどう考えるか
担当医はなぜ心電図の指示を出したのでしょうか?
この患者さんは消化管に問題がなかったことから、退院の予定となっていました。しかし、入院時の脈拍数は、貧血があるにもかかわらず62回/分と正常範囲で、貧血による酸素運搬障害(少ない酸素を全身に運搬するため頻脈になる)を考慮すると、入院時から徐脈傾向であったとみられます。転倒した際に頭部外傷や大腿骨頸部骨折が生じることはそれほど珍しいことではないものの、どうしてもそういった現象に目が行きがちです。
しかし、転倒には必ず原因があります。もし原因が洞不全症候群であったとしたら、翌朝起床後に再度歩行し、再度転倒し、次は頭部外傷に至ってしまったかもしれません。担当医はそれを念頭に置いていたのです。
アセスメントのコツ
●原因を評価することで次の対応につなげよう
看護師は、常に「なぜ?」を自問自答する必要があります。対応した看護師は、転倒後に意識レベルを含めた観察を行っており、頭蓋骨骨折や脳挫傷、あるいは大腿骨頸部骨折は除外できており、特に問題はないように思われます。しかし、肝心要の「なぜ転倒したのか?」についての評価が完全に抜けてしまっています。
状況から考えられる原因は主に3つあります。それは、?床が濡れていて足が滑った、?薬剤の影響、?脳虚血です。
?の場合、床が濡れていたとしたら、これは病院側の過失です。
また、?のように薬剤の影響も十分に考えられます。例えば、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤(ハルシオン?)の副作用としては、意識混濁や転倒、脱力感等の筋緊張低下症状が報告されています1)(表参照)。睡眠導入剤に限らず高齢者は多くの薬剤を服用しており、それらの薬剤の影響で転倒や意識障害を起こした可能性も十分にあると思われます。

そして?であると考えた場合、脳虚血や意識消失の原因はさまざまです。本症例では、その1つとして、不整脈が原因で脳に十分な血液を供給することができず、意識を失い、気づいたら倒れていたということが考えられます。患者さんは倒れたときのことがわかりません。これを「ブラックアウト」といい、電気を消したように突然意識を失うため、本人は状況を覚えていないのです。
離床が影響したかは不明ですが、本症例の患者さんは、入院時の脈拍数が62回/分で、入院時の主訴が倦怠感であり、呼吸数もやや速く、その原因が貧血であ ったと考えると、相対的には徐脈が隠れていると思われます。転倒後も脈拍数は増えていません。状況を把握した担当医は、即座に心電図の指示を出しています。洞不全症候群、あるいは房室ブロックである可能性が十分に考えられたためです。貧血の診断は付いていますが、倦怠感や食欲不振の原因が不整脈に起因する可能性も想定しているかもしれません。
●アセスメント力を磨き役立つ情報を提供しよう
当直医は「明日、担当の先生に診てもらってください」とコメントを残しています。具体的に何を診てもらうべきかはわかりませんが、おそらく心原性の脳虚血の可能性を考えた結果の言葉だと思われます。その場にいた看護師が「原因は何だと思われますか?」あるいは「心電図モニターを装着したほうがよいですか?」などと確認することができたら、答えが得られた可能性もあったでしょう。あるいは、もしかすると丁寧にカルテに記載してあるかもしれません。
いずれにしても、転倒したその原因を解除しない限り、患者さんにはまた同じことが繰り返されてしまいます。本症例では、原因の評価が必要でした。そのうえで、医師が状況を判断しやすいよう、医師の診断に役立つ情報を提供したいものですね。なお、この患者さんは24時間心電図等の検査の結果、洞不全症候群と診断され、後日心臓ペースメーカーの植え込みが行われました。
今回はたまたま頭部外傷や大腿骨頸部骨折は起こしませんでしたが、患者さんも私たち看護師も運に助けられていることが少なくないと感じてしまいます。運で命が左右されるなどということがないよう、看護師としてアセスメント力を磨いていきましょう!
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
参考資料
1)ファイザー株式会社:(薬剤添付文書)睡眠導入剤 トリアゾラム錠 ハルシオン?0.125mg錠/ハルシオン?0.25mg錠(2022年9月5日閲覧)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00000184.pdf
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年2月号 TiaraNo.140より転載しています。
