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アセスメントのコツ

今回の症例|脳梗塞入院初日に尿量が少なくSpO2低下。酸素投与で様子をみていたら……

ティアラNo.141の表紙看護情報誌ティアラ2023年3月号(No.141)掲載誌面PDFを読む
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臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>


青柳智和先生のYoutubeチャンネルのご紹介

臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、正常性バイアスの実験的検討の論文についても特別解説しています。ぜひご覧ください。

YouTube video player

脳梗塞入院初日に尿量が少なくSpO2低下。酸素投与で様子をみていたら……

脳梗塞入院初日に尿量が少なくSpO2低下。酸素投与で様子をみていたら……
患者像

患者像

77歳女性。認知症はなく、ADLは自立しており、息子夫婦と同居。もともと虚血性心疾患があり、10年前に冠動脈バイパス術を受け、ペースメーカーを植え込む。ワルファリン内服を現在も継続。昨夜、本人は口の動かしにくさ、話しにくさを自覚したが、大丈夫だろうと考えてそのまま就寝した。本日朝、明らかな右上下肢麻痺が出現し、救急搬送にて来院。 CT検査の結果(図1)、出血性脳梗塞と診断され、 ICUへ入院となった。
入院時のバイタルサインは、体温36.6℃、脈拍70回/分(オールペーシング:心房と心室両方でペーシングを実施)、血圧102/72?Hg、呼吸数22回/分、SpO296%(酸素流量2L/分、鼻カニューレ)。意識レベルは清明だが、構音障害と右半身の不全麻痺が出現していた。脳梗塞発症から時間が経過していることなどを考慮し、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)の投与は見送られ、保存療法が選択された。

図1 搬送時のCT検査画像

何が起こったか

何が起こったか

入院後、脳圧を下げる目的でグリセリン製剤350mLを投与。夕方の18時にも2回目のグリセリン製剤350mLを使用しました。19時、担当看護師は、 SpO2が94%に低下していることに気づき、リーダー看護師に相談。SpO2以外のバイタルサインに変化がないため、酸素流量を3L/分(鼻カニューレ)に増量し、様子をみることにしました。その後、SpO2は96%まで上昇しましたが、尿量は4時間で50mL程度の流出で、両肺野で湿性ラ音を聴取しました。再度リーダー看護師に相談したところ、尿量や聴診結果は既往に心臓疾患があることが原因だと思われ、SpO2は改善しているので大丈夫だろうという判断となり、再び経過をみることになりました。

しかし、その後も尿量の流出はなく、さらに4時間後SpO2が85%まで低下。呼吸数も30回/分程度になったため、医師に連絡をし、 NPPV(非侵襲的陽圧人工換気)を行うことになりました。

ポイントは、脳梗塞では通常酸素化の増悪は出現しないところ、本症例では最初から酸素を吸入しており、酸素需要が認められていたということです。


この症例をどう考えるか

  この患者さんは脳梗塞(出血性脳梗塞)という診断で矛盾はありません。また、発症からの経過や基礎疾患を考えるとt-PA製剤の適応とはならず、診断と治療に問題はないと思われます。しかし、酸素化不良の状態となっており、早期に発見はできていたものの、早期の対応には至りませんでした。結果的にNPPVの装着となっています。

アセスメントのコツ

●日常ケアのなかのピットフォールを見極めよう

 日常診療では多くのピットフォール(落とし穴)が存在します。それを意識してみてみると、私たち看護師は「酸素投与」に慣れすぎているように感じられます。特に患者さんが高齢だと、酸素吸入をしている様子が視界に入っても「なぜ酸素を流しているのか?」という疑問をもたずにいる場合があります。「指示どおりに酸素が流せているか」という確認はしっかりするのに、「なぜ酸素を流しているのか」という根本的な疑問については思考が停止しているということはないでしょうか。

 今回の症例は、症状と画像所見が一致しており、脳梗塞であることに間違いはありません。しかし、通常は酸素吸入を必要としない脳梗塞において1)、本症例では酸素を必要としており、逆説的に「通常の脳梗塞ではないな」と想像することが必要でした。実際、この患者さんは心疾患の既往があり、その既往歴に関しては、医師も看護師も認識していたでし ょう。ただ、「認識していた」ことと「理解していた」ことには大きなギャップがあったようです。入院時には、胸部単純X線撮影を行い、その画像に心拡大や肺門部を中心とする肺野の浸潤影をみることができます(図2)。入院時の病歴からも、心疾患があり、その影響で酸素投与を必要としていることを看護師は認識していたはずなのです。

図2 入院時の胸部単純X線画像

アセスメントのコツ

●「正常性バイアス」に引きずられない意識をもとう

 グリセリン製剤は、浸透圧の差を利用して脳のむくみを取る薬です。ただし、脳のむくみを取る一方で、結果として循環血液量が一時的に増加します。そのため、心臓の基礎疾患があるとうっ血性心不全を起こす可能性があります2)。本症例では、脳梗塞で入院してきたはずなのに酸素を使用していることで、すでに心臓に負担がかかっていると、まずは評価することが必要でした。そのうえで、グリセリン製剤の使用による循環血液量の増加が呼吸状態の増悪につながっていると考えることができれば、早めに利尿薬などを検討することができたかもしれません。

 人間には、「正常性バイアス」というものがあります。自分に不都合な事象が出現しても、無視したり過小評価し、「大丈夫」と誤って認識してしまうことです。本症例でも、それに引きずられて、酸素化が悪い、尿量が減少しているという事実があっても、「酸素を使って上昇した」「尿量も全く流出していないわけではない」「脳梗塞もそれほど悪いわけではない」といったように都合よく判断してしまった可能性があります。看護師は常に多重業務にさらされています。そうすると、ちょっとした変化があっても、「みなかったこと」と自分に言い聞かせ、都合のよい判断にすり替えてしまう、そんな経験に身に覚えがあるという看護師は少なくないと思います。そんな誘惑に負けないよう「都合が悪いことを無視しない」という意識を心がけていきましょう。


プロフィール

青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。


参考資料

1)Christine Ro?e, MD,et al.:E?ect of Routine Low-Dose Oxygen Supplementation on Death and Disability in Adults With Acute Stroke. The Stroke Oxygen Study Randomized Clinical Trial.JAMA 2017;318(12):1125-1135.
2)太陽ファルマ株式会社:(薬剤添付文書)頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫治療剤 眼圧降下剤 グリセオール注?(2022年11月5日閲覧) https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00050519.pdf

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年3月号 TiaraNo.141より転載しています。

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