
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
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臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、論文をもとに中心静脈穿刺に伴う肺血栓塞栓症について取り上げています。ぜひご覧ください。
意識消失を認めた前胸部痛で前額部に発汗……心筋梗塞で間違いない!?


患者像
66歳女性。社会的に自立。自転車乗車中に転倒し、左上肢を骨折して入院。昨日、全身麻酔で手術を行った。
何が起こったか
本日、朝の回診後に歩行の許可が出たため、本人が1人でトイレへ移動。すると、トイレから「気分が悪い、胸が痛い」とナースコールがありました。看護師が駆けつけると、女性はトイレの中で座 ったまま意識を消失していました。時間は20秒程度と考えられ、呼びかけには反応がありました。女性をストレッチャーでベッドに運ぶと、RRT(Rapid Response Team:院内急変対策チーム)と担当医に連絡。急性心筋梗塞の可能性が考えられ、循環器科医師へも連絡をとりました。意識レベルは清明。心拍数90回/分・整、血圧 110/70?Hg、呼吸数 20回/分、体温 36.5℃。SpO2 が86%であったため、鼻カニュ ーレで酸素吸入を行いました。流量3L/分で開始し、十分な上昇がみられなかったために5L/分に増量。 SpO2 は91%に改善しました。しかし、不快な気分はそのままで、胸痛も持続していました。嘔吐はありません。前額部・前胸部に発汗を認め、顔色不良、末梢冷感がありました。
駆けつけた循環器科医師に、12誘導心電図(図1)をみせたところ、「肺血栓塞栓症ではないか?」と指摘があり、各種採血検査、血液ガス分析、胸部造影CT検査の指示が出ました。D-ダイマーは 74?/mL。
血液ガス分析はpH 7.395、PaCO2 34.8?Hg、PaO2 96?Hg、HCO3- 20.8mEq/L。心電図と造影CT検査(図2)の結果から、肺血栓塞栓症と確定診断がつき、ヘパリンナトリウム 3mLの静脈内投与とイグザレルト錠 15?×2/日が開始となりました。
図1 意識消失後に測定した12誘導心電図の波形

図2 医師の指示により行った造影CT検査の画像

この症例をどう考えるか
突然発症の胸痛および意識障害に対し、病棟看護師は滞りなくRRTと担当医に連絡を行っています。また、所見から急性心筋梗塞を疑い、12誘導心電図およびその他の検査、酸素投与、循環器科医師への連絡を行っており、対応に全く問題はありません。
しかし、強いて言えば、「急性心筋梗塞を疑ったにもかかわらず、結果的には肺血栓塞栓症であった」という部分は振り返っておいてよいかもしれません。
アセスメントのコツ

●「確定診断」と「症候診断」の違いを覚えておこう
診断には、確定診断と症候診断の2つがあります。
診断には、確定診断と症候診断の2つがあります。診断は「医師のみができる行為」で、私たち看護師の役割には「診療の補助」があります。医師が診断を行ううえで役立つ情報を提供できるかどうかは、チーム医療の質を向上させるためには重要ですので、学んでおきましょう。
まずは確定診断ですが、その名の通り診断を確定させることです。病気の種類にもよりますが、例えば、胃の細胞を調べ、がん細胞がみつかれば胃がんと確定できます。ですから、胃がんの確定には細胞診が必要条件となります。一方、心筋梗塞であれば、トロポニンの上昇は十分条件ですが、トロポニンだけでは診断の確定には至りません。最終的にはカテーテル検査が必要です。ただ、全症例でカテーテル検査ができるとは限らないので、症状の程度や種類、心電図や採血などの結果を組み合わせて考慮し、十分条件によって確定することもあります。つまり、死亡診断書に「急性心筋梗塞」と記載があったとしても、心臓カテーテル検査や解剖を行わなければ100%正しいとはいえません。しかし、十分条件がそろっていれば、必要条件はなくても確定診断となります。
もう1つの診断は症候診断です。患者さんの訴える病歴と症状、医師のフィジカルアセスメントやバイタルサインデータから、当てはまる疾患に一致するかをみていきます。難しくいえば「重篤度、緊急性、有病率、治療可能性」を、簡単にいえば、「治療を行う必要性があるか」を判断するものです。
●うまくいった場合も、そうでない場合も振り返りが大切
本症例は、突然の胸痛であり、短時間ではありますが意識を失っています。前額部や前胸部の発汗、ほかの症状もあり、年齢的にも急性心筋梗塞を疑うべきです。よって確定はできないものの、症候診断として、急ぐ必要があるかを判断しています。ただ、結果的に急性心筋梗塞ではありませんでした。
では、心筋梗塞で矛盾する所見は見当たるでしょうか。着目するとしたら、酸素化が悪いことです。通常では、急性肺水腫を起こさない限り、心筋梗塞で酸素化は悪化しません。さらに、肺水腫は酸素吸引を行うことで、とりあえず酸素化は改善します。今回のケースは、酸素を投与したにもかかわらず、酸素化の改善が少し悪かったようです。一方、絶対ではありませんが、肺血栓塞栓症は酸素化の悪化に加え、動脈血二酸化炭素分圧が低値になる1)という傾向があります。そう考えると、どちらかというと肺血栓塞栓症のほうがより可能性が高かったといえるでしょう。
最終的には、すぐに循環器科医師に報告できており、事なきを得ています。ただ、報告の次の対応として、心筋梗塞の場合は心カテ室へ、肺血栓塞栓症の場合はCT室へ向かうことになります。実臨床では、どちらも必ず空いているわけではありません。看護師が放射線科に「病棟に肺血栓塞栓症が疑われる患者さんがいます。CT室空いていますか? 少し空けておけますか?」という提案ができるかどうかで、患者さんの明暗が分かれることもあるでしょう。看護師として先を考えた対応ができていたか考えてみてもいいかもしれません。
うまくいかなかったときはもちろんですが、うまくいった対応でも、振り返ってみると学びがあると思います。積極的にケーススタディを行いましょう!
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
参考資料
1) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)(2023年1月22日閲覧)https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/JCS2017_ito_h.pdf
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年4月号 TiaraNo.142より転載しています。
