
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
青柳智和先生のYoutubeチャンネルのご紹介
臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、SPIDDMの一例を紹介し解説しています。ぜひご覧ください。
患者さんの訴えに耳を傾けたら、正しい診断につながった!


患者像
49歳女性。2型糖尿病および双極性感情障害?型で通院歴がある。家族と同居。1年前に2型糖尿病と診断され、DPP-4阻害薬(シタグリプチン)とSGLT2阻害薬(イプラグリフロジン)を内服。半年前のHbA1cは6.4%。3日前に齲歯(虫歯)で抜歯(3本)をしている。
何が起こったか
意識消失しているところを同居の父親が発見。救急要請し、救急外来受診となった。
血糖482?/dL、尿中ケトン体4+だったため、糖尿病性ケトアシドーシスによる意識障害と診断され入院。入院時のバイタルサインは、意識レベルがJCS ?-300、瞳孔所見は、瞳孔の大きさが3/3?、両眼ともに対光反射あり。体温37.4℃、心拍数 80回/分、血圧103/51mmHg、呼吸数36回/分、SpO2 98%(酸素投与なし)。末梢冷感あり。両側肺野の呼吸音は減弱していたが、副雑音はなし。白黄色の痰がみられた。HbA1cは半年前の値より高い12.6%。気管挿管して呼吸管理を行い、併せてインスリンによる血糖管理を実施し、意識レベルは改善。発症2日目に抜管した。
一連の経過から、怠薬などで血糖コントロ ールが不良になったところに、抜歯による侵襲が加わり、高血糖状態となって、糖尿病性ケトアシドーシスをきたしたと結論づけた。そこで、抜管後に服薬を含め生活指導を行う方針にしていた。ところが、患者さん本人と父親から怠薬はないとの訴えがあり、HbA1c高値の原因がわからなくなってしまった。
この症例をどう考えるか
意識障害と糖尿病性ケトアシドーシスは、人工呼吸管理とインスリン静脈注射で速やかに改善したこと、搬送時のHbA1cが高値であったことから、糖尿病性ケトアシドーシスの原因については、血糖コントロール不良に抜歯による侵襲が加わって生じた高血糖状態と考えられました。しかし、患者さん本人と父親から怠薬はないとの訴えがあり、看護師はその様子から服薬はきちんとなされていたと判断。医師に「おそらく怠薬はないと思います」と相談しました。医師もその意見を受けて、自己免疫性1型糖尿病を念頭に抗グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体の測定を行いました。その結果、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM:slowly progressive insulin-dependent(type 1) diabetes mellitus)であることがわかりました。
アセスメントのコツ
●その考えに「思い込み」「決めつけ」はないだろうか
双極性感情障害はうつ状態と躁状態が繰り返し現れる疾患です。看護師、その他の医療従事者、おそらくは医師も、非精神科に勤務する医療従事者でこの疾患に明るい人は多くはないでしょう。本症例でも、スタッフに「精神疾患+高血糖=怠薬」という思い込み、あるいは決めつけがあったと思われます。すでに知っていることにとらわれてしまう「アンカリングバイアス」が働いたことも考えられます。「糖尿病がある」ことは事実であり、「怠薬で血糖が高い状態のところに侵襲的な治療が行われ、さらに血糖が上昇する」ことにも矛盾がないため、治療にあた ったチーム全体が思考停止に陥ってしまったと言えます。
大切なことは、患者さんの訴えに耳を傾けることです。「薬はきちんと飲んでいます」という言葉に対して、「本当は飲んでいないんじゃないの」と思うか、「飲んでいるのにHbA1cが高いのはおかしい。ほかに原因があるのか」と思うかは、個人の性格に起因するものではなく、医療従事者としての力量によると言えそうです。

●患者さんと真摯に向き合い信じることから始めよう
人はアマノジャクなところがあり、どうしても他人の意見を素直に聞けないところがあります。「精神疾患がある患者さんだから怠薬だろう」と思ったとしても、同時に「それ以外かもしれない」つまりは、「私は違っているかもしれない」と常に考えておく必要があります。矛盾しない仮説があると、思考すること、深堀することをやめてしまうことは、みなさんも経験があるのではないでしょうか。「どうして薬を飲んでいるのにHbA1cが高いんだろう」と患者さんの言動を信じ、それに基づいて考えられるかが本症例のポイントでした。
みなさんは、この女性が診断されたSPIDDMをご存じですか。これは、診断されたときには、ケトーシス、ケトアシドーシスはみられず、インスリンについても当初は必要でなく、3カ月以上たってから必要になってくるタイプの糖尿病です1)。本症例も、ケトアシドーシスが起こるきっかけは抜歯による侵襲であったかもしれませんが、その後の経過を考慮するとSPIDDMで矛盾がないといえます。
本症例の場合、看護師に職業人としての姿勢が欠けていたら「本当は薬を飲んでいないのではないか。食べすぎなのではないか。運動していないのではないか」と疑いをかけ、患者さんのせいにしてインスリンを「仕方なく」導入するということになったように思われます。一方で、知識を有していれば「もしかするとSPIDDMかもしれない、詳しく検査をしましょう」と正確な診断に導き、患者さんをいち早く苦痛から解放してあげられたかもしれません。実際、看護師が医師に相談し、検査を行ったことが正確な診断に結びつきました。患者さんは、医師から「追加で検査をした結果、インスリンが必要なタイプの糖尿病であることが判明しました。高血糖に悩まれていたのはつらかったですね」と声をかけられると、とても明るい表情になりました。
看護師の役割は、療養上の世話と診療の補助です。そして医師の役割は、診断と治療です。今回は、看護師が患者さんの訴えを真摯にとらえ、「自分は間違 っているかもしれない、患者さんの言葉を信じよう」という姿勢が、結果的に人の体とこころを救ったのです。
最後に、糖尿病のある患者さんへの対応として覚えておきたいことを付け加えます。日本歯周病学会では、糖尿病がある場合に歯周外科の処置を行うには、HbA1cは6.9%前後を参考値2)とすることを推奨しています。これも念頭に置き、糖尿病の患者さんについては、罹病期間、HbA1c、治療内容、合併症の有無を確認するという基本原則を、あらためて実践していきましょう。
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
参考資料
1)日本糖尿病学会:緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)(2023年3月9日閲覧)http://www.jds.or.jp/modules/study/index.php?content_id=50
2)須田玲子:CQ6 糖尿病患者に歯周外科治療等の観血的処置を行う際の血糖コントロールの目安はありますか? . 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライ ン 改訂第2版 2014. 日本歯周病学 会 編. 2015, p.55. https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/periodontal-disease-in-diabetic-patients/periodontal-disease-in-diabetic-patients.pdf
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年6月号 TiaraNo.143より転載しています。
