
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
青柳智和先生のYoutubeチャンネルのご紹介
臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、 NSAIDsが原因の小腸穿孔の一例を解説します。ぜひご覧ください。
患者さんが胸痛を訴えたので報告したら、腹部CTという指示が……!?


患者像
80歳男性。5年前から糖尿病を発症し、経口血糖降下薬を服用。過去に喫煙歴。運動は散歩程度。慢性的な腰痛のため現在は散歩もほとんどできていない。腰痛が悪化し、1カ月前から接骨院で電気治療を受け、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を内服していた。しかし、改善が乏しく、ADLの低下と食欲不振がみられるようになってきたため、経過観察を目的に入院。入院時のバイタルサインに異常所見はなく、身体所見は脊柱叩打痛を認めるのみだった。胸部単純X線、心電図、入院時の一般採血でも目立った異常は認められず、HbA1cは7.4%。
何が起こったか
入院2日目。朝食および昼食をほとんど摂取しておらず、13時ごろ「胸が痛い、みぞおちのあたりが痛い、吐き気がする」という訴えがありました。バイタルサインに変化はありませんでしたが、年齢や症状、糖尿病歴や喫煙歴から急性冠症候群を疑い、プロトコールに従って標準12誘導心電図を測定し、SBAR*1に則って医師に報告しました。
すると医師は、「外来がまだ終わってないんで手が離せないんだよね」と言いながら電子カルテを確認し、「腹部CTのオーダー入れておいたので撮っておいて」と言って電話を切りました。
腹部単純CTの結果、十二指腸粘膜に肥厚がみられたことから(図1)、その日の夕方に緊急で上部消化管内視鏡検査を行い、AGDML(急性胃十二指腸粘膜病変)と診断されました(図2)。直ちに絶食となり、 NSAIDsの服用を中止。4日後、内視鏡検査で胃粘膜の改善を確認したため(図3)、食事を再開。それとともにADLも改善し、すぐに退院となりました。
図1 腹部単純CT画像

マーキングした箇所が十二指腸
図2 当日の内視鏡所見


この症例をどう考えるか
80代の男性で、糖尿病の既往と喫煙歴があり、胸痛、心窩部痛、吐き気の症状がみられたことから、「急性冠症候群」を疑って何ら問題はありません。あらためてSBARに従った看護師の報告内容を確認してみましょう。
●Situation(状況)
80歳の男性の患者さんで糖尿病、喫煙歴のある方です。
●Background(背景)
1カ月前より腰痛があってNSAIDsを服用していたようですが、あまりよくなっていないようで、昨日入院してきました。朝食、昼食ともほとんど食事はとっておらず、先ほど8/10程度の胸痛と心窩部痛、吐き気を訴え始めました。
●Assessment(考察/アセスメント)
状況から考えて急性冠症候群は除外できないと考え、万が一を考えて連絡しました。ただし、バイタルサインは安定しています。心電図は撮ってあります。
●Recommendation(提案)
急変のリスクもあり得ると思っているので診に来てください。
これらの内容をみてみると、看護師の判断と医師への報告は適切であったと思われます。
しかし、報告を聞いた医師は「急性冠症候群」はほとんど考えていないようでした。万一見逃したら、患者さんは死亡し、自らは診断ミスで訴えられるなど大変なことになったかもしれないにもかかわらずです。なぜ医師は急性冠症候群を積極的には考えなかったのでしょうか。この段階では、医師は心電図の確認は行っていません。
アセスメントのコツ
●「○○だけ」にとらわれてはいないだろうか
確かに、急性冠症候群「でも」矛盾はありません。しかし、そぐわない点もあります。それはバイタルサインが安定していること。急性冠症候群であれば、徐脈や血圧低下、呼吸数の増加などの変化が出現することが多くなります。そして、検査前確率*2を考えた場合に、「長引く腰痛」「NSAIDsの内服」「食欲不振」「上腹部痛」という情報から「長期のNSAIDsの内服により、消化管に潰瘍ができているのではないか」と考えることもできます。看護師の立場としては、急性冠症候群を疑ったことは正しいと思います。しかし、結果的には急性胃十二指腸粘膜病変であり、医師の診断が正しかったわけです。
看護師の仕事は診断ではなく、診療の補助として医師が診断するうえで必要な情報を届けることです。急性冠症候群「だけ」に目を捕らわれると、必要以上に人手を要してしまったり、業務の優先順位を間違えるかもしれません。「急性冠症候群の可能性はあるけど、NSAIDsによる消化管潰瘍であるかもしれない」と一歩引いて広く考えることも、業務を行ううえでは大切かもしれません。

●経験を積むことで「俯瞰する」という視点を身につけよう
ある程度看護経験のあるみなさんであればおわかりかと思いますが、「一歩引く」つまりは「俯瞰してみる」ということは、意外に難しいものです。ましてや、状況の把握ができないところに、さらに状況が進行的に悪化していると、ますます視野は狭くな ってしまいます。結論を言えば、俯瞰できるようになるためには、経験を積むしかありません。そして、どのように経験を積むかによっても、行き着くまでの道のりは変わってきます。
物事の考え方には「演繹法」と「帰納法」というものがあります。詳細は省きますが、簡単に言うと、演繹的に考えるとは論理を積み上げることであり、帰納法とは経験的に考えることです。経験的に考えることは論理に負けるよう感じるかもしれませんが、どちらも正しいのです。論理性と経験、この両方を意識しながら経験を積むことが大切になります。そして、常に患者さんから学ばせてもらうという姿勢が重要です。
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
*1 わかりやすく相手に伝える報告で活用できるコミュニケーションツール。「Situation(状況)」「Background(背景)」「Assessment(考察/アセスメント)」「Recommendation(提案)」の頭文字をとって「エスバー」と呼ばれる。
*2 ある疾患を想定して診断検査を行う前に、どのぐらいその疾患の可能性があるかを示す確率。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年8月号 TiaraNo.144より転載しています。
