
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
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臨床に役立つアセスメントのコツを10分程度の動画で紹介しています。今回は、左下肢麻痺と腰痛を主訴に受診した急性大動脈解離の一例を解説。ぜひご覧ください。
突然の胸痛で心電図はST変化あり……なのに、なんで左半身麻痺があるの!?

患者像
80歳女性。既往として高血圧と高脂血症がある。 3年前に大動脈解離(スタンフォードB型)を発症。保存療法が選択された。2年前には右上腕骨骨折により手術。その際には、深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症を合併した。現在のADLは自立。10日前に転倒し、左上腕骨を骨折し、手術目的で入院。現在は術後9日目で、術後の経過は良好。
何が起こったか
リハビリを行っているときに、突然胸痛の訴えがありました。痛みの程度は9/10。意識状態は、JCS I -1、GCSはE4、V4、M4で合計12点。バイタルサインは、体温36.6℃、脈拍56回/分、呼吸数20回/分で、血圧は右上肢108/78?Hg、左上肢141/66?Hg。SpO2 91%(室内気)。眼については、右共同偏視あり、瞳孔不同なし、眼瞼結膜蒼白あり。胸部のアセスメントでは、心音の異常は不明、呼吸音は清明で副雑音はありませんでした。腹部での異常所見はなし。下肢の浮腫や左右差はみられなかったものの、左半身麻痺が認められました。
この症例をどう考えるか
まずは症候診断をしましょう。重篤度、緊急性、有病率、治療の可能性を評価します。バイタルサインは個々にみるとすごく悪いというわけではありませんが、強い胸痛があり、加えて共同偏視と半身麻痺があります。重篤度と緊急性は高いといえるでし ょう。考えられる疾患は、心筋梗塞や脳卒中で、だとすれば有病率は低くなく、対処可能な病態です。医師に連絡する、RRT(rapid response team /院内急変対応チーム)を呼ぶといった行動が必要です。
しかしその行動が取れたとしても、「バイタルサインは大丈夫なのですが、リハビリ中に左半身麻痺が出現して歩けなくなりました」などと、目の前の事象だけを報告してしまいがちな人は少なくないでしょう。この内容では不十分です。報告の際にはMECE(mutually exclusive and collectivelyexhaustive /ミーシー)を考慮することが重要。
これは「漏れなく、ダブりなく」という考え方です。先の報告では、主訴である胸痛が抜けており、目につく半身麻痺だけを述べています。もしこの後意識がなくなったとしたら、胸痛という事実はなかったことになるおそれがあります。また、共同偏視の報告も抜けており、血圧の左右差はあるのに低下はみられないということで、バイタルサインは大丈夫と評価しています。さらに、SpO2は確実に低下しているのに評価に入っていません。人にはカラーバス効果という認知バイアスがあり、意識している情報を取得しやすい傾向があります。リハビリ中だったので「麻痺」というキーワードのほうが「胸痛」よりも印象に残りやすかったのかもしれません。
結局、この患者さんは大動脈解離(図1)で、その後手術を行って救命できました。しかし、意識消失により胸痛というキーワードが消え、麻痺があったために脳梗塞を疑うことになっていたら、診断が遅れていたことも考えられます。
アセスメントのコツ
●診断に役立つ情報を「漏れなく、ダブりなく」伝える
事実は客観的に捉えることが大切です。今回の症例では、「突然出現した持続する強い胸痛」「血圧の左右差」「SpO2の低下」「右共同偏視」「左半身麻痺」が重要な情報で、それ以外はノイズ(雑音)と考えてよいでしょう。眼瞼結膜の蒼白はありますが、それだけでは感度、特異度が低く、優先順位は高くありません。
医師の役割は、とにもかくにもまずは「診断」です。看護師は「診断に役立つ情報」を「漏れなく、ダブりなく」提供することが重要になります。
それでは、情報をもとに診断を予測してみましょう。突発的で、最強で、持続する胸痛という症状から考えられる疾患は「急性冠症候群」「大動脈解離」「肺血栓塞栓症」「緊張性気胸」「特発性食道穿孔」です。この患者さんの場合、ST変化も確認されました(図2)。では、急性冠症候群なのでしょうか。血圧の左右差は急性冠症候群だけで説明するのは厳しいといえます。大動脈解離は、共同偏視や麻痺も含めて矛盾はありません。既往歴もあります。肺血栓塞栓症はどうでしょうか。突然の胸痛とSpO2の低下が認められ、循環動態の不良に伴う半身麻痺もなくはありません。しかし、過去の既往を考えるとかなりあやしいといわざるを得ません。緊張性気胸や特発性食道穿孔は有病率が低いので、最初に除外されるでし ょう。そう考えていくと、確かに大動脈解離で間違いなさそうです。
図1 症例患者のMRI画像

●「診断の補助」に役立つ情報提供の仕方を念頭に置く
「でも、診断は医師がするものでは?」と考える人もいるかもしれません。確かに「診断」は医師の役割です。そしてその診断を補助するのが、私たち看護師の役割なのです。先に挙げた報告例に代えて、看護師が「上腕骨骨折術後でリハビリ中の80代女性で、突然発症の持続する強い胸痛があり、血圧の左右差、 SpO2の低下、右共同偏視と左の半身麻痺を認めます。既往歴として大動脈解離と肺血栓塞栓症があります」と伝えることができれば、医師は「急性冠症候群」「大動脈解離」「肺血栓塞栓症」をすべて疑います。これらの場合循環動態不良による脳虚血はあるので、この状況下で単独の脳卒中は考えません。
結果的にどの疾患であったのかは気にする必要はありません。看護師は医師が診断に必要な情報を「漏れなくダブりなく」伝えることが重要です。ポイントは、疑わしい疾患を類推すること、そしてその疾患の特徴的な症状や身体所見を知っておくことですね。
図2 症例患者の心電図

プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年10月号 TiaraNo.145より転載しています。
