
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
呼吸音は正常だったので、苦しそうだけど重症とは思っていなかったら……

患者像
80歳男性。身長160?、体重48?で、明らかなるい痩がみられ、最近まで重喫煙者(喫煙指数=1日の喫煙本数×喫煙年数が600以上)だった。既往歴に慢性閉塞性肺疾患(COPD)があり、在宅酸素療法(1L/分)を施行。気管支拡張薬の吸入と去痰薬を内服。高血圧と肺高血圧により、血管拡張薬、ループ利尿薬も服用している。
脳梗塞(アテローム血栓性)を発症し、その治療目的で入院した。7病日目で、現在は抗血小板薬を服用中。右半身の不全麻痺および軽度の構音障害はあるものの、意志の疎通は可能で、リハビリテーシ ョンも行われ、介助を得ながらトイレ歩行をしている。転院先を検討中で、「リハビリを行って自宅へ帰る」と高い意欲をみせている。
何が起こったか
いつも通り20分程度のリハビリを行った後、看護師が介助を行い歩行によりトイレへ移動しました。排便後、「息が……苦しい……しい……」と息も絶え絶えの様子でナースコールがありました。看護師が駆けつけると、男性は閉眼し、自力では立てない状態でした。意識はしっかりしているものの、顔面は蒼白、チアノーゼが出現。SpO2は80%、呼吸回数は30回/分で、38.6℃の発熱があり、粘稠性の喀痰がみられました。
すぐに担当医に報告し指示を得て、CO2ナルコーシスによる呼吸停止に注意して酸素投与を実施。さらに、胸部単純X線および喀痰のグラム染色を行いました。酸素を投与しても呼吸停止はきたさず、呼吸音を聴取したところ副雑音は認められませんでした。しかし、SpO2と呼吸困難は改善しなかったため、第2報を医師に伝えました。すると「ウィーズ(末梢の細い気管支の閉塞・狭窄によって生じる喘鳴)はどうか?」と聞かれたため「ありません」と伝えると、「気管支拡張薬の吸入は行っていないのか!?」と言われ、医師が血相を変えてやってきました。そして、気管支拡張薬の投与後、およそ3分程度で高調性連続性副雑音が吸気と呼気で聴取できるようになり、徐々にSpO2と呼吸困難が改善。喀痰のグラム染色の結果をみて、抗菌薬が投与されました。
この症例をどう考えるか
この患者さんは脳梗塞で入院したわけですが、厳密には「COPDの既往のある脳梗塞の患者さん」というくくりが正解です。ついつい主病名だけでその患者さんの病気を判断しがちですが、重要な既往歴、併存症は把握しておくべきです。
高齢者が入院中に肺炎を起こすことはめずらしくありませんが、今回の症例は、肺炎を契機にCOPDの急性増悪、つまり閉塞性換気障害が出現しています。気管支拡張薬の吸入が間に合わなければ、重篤な状態に陥っていた可能性があります。
アセスメントのコツ
●すべての所見を総合的にみることで症状を見極めよう
患者さんの様子から呼吸状態が悪いことはわかると思いますが、問題は「どの程度」悪いかです。この患者さんは極めて重篤ですが、それはどの情報からアセスメントできたでしょうか? そのヒントは、「『息が……苦しい……しい……』と息も絶え絶えの様子でのナースコール」という部分です。これを「会話の一語区切り」といい、重篤な呼出障害が出現していることを示しています。炎症で気管の内腔が狭窄し、息を吐くことも吸うこともできなくなっています。
この所見は必ず医師へ伝えるべきですが、聴診所見が乏しいという点に注意しなければなりません。普通は気管狭窄が認められる場合、高調性連続性副雑音が聴取されるため、比較的異常を判断しやすくなります。しかし今回のように副雑音が聴取できないとなると、正常であると評価してしまいがちです。これは、サイレントチェストという異常所見。COPDの既往があり、重喫煙者であり、呼吸困難がみられ、 SpO2が低下しており、会話が一語区切りで、サイレントチェストであれば、ほぼ間違いなくCOPDの急性増悪でしょう。これらの所見を全て伝えれば、医師は正しく指示を出すことができると思われます。
COPDの急性増悪については、ABCアプローチといって「Antibiotics(抗菌薬)」「Bronchodilators(気管支拡張薬)」「Corticosteroid(ステロイド)」の投与を行うことが基本です。炎症の原因であることが多い細菌性肺炎の治療までをセットで考えることが重要になります。今回の症例のような患者さんは、高確率で吸入気管支拡張薬や吸入ステロイドを持参しています。病棟で吸入の準備をするよりも、個人のものを使ったほうが早いので、薬剤情報を常に把握しておくことも必要ですね。
●CO2ナルコーシスのリスクには用手人工換気で対応しよう
また、症例のようなCOPDの患者さんについては、もう一つ注意しなければいけないことがあります。それは、CO2ナルコーシスのリスクを意識するあまり、酸素投与を躊躇してしまうことです。CO2ナルコーシスによる呼吸停止は確かに怖いものですが、用手人工換気で対応することができれば全く問題ありません。ですから、呼吸状態の悪い患者さんに対して酸素投与を躊躇すべきではありません。
ただし今回の症例では、上気道は開通していますが下気道は閉塞しています。バックバルブマスクを揉むと異様な肺の抵抗を感じます。酸素投与はOK、バックバルブマスクもOK、ただ肺が堅い……「これはまずい!」という感覚も実臨床では必要ですね。これも医師に伝えるべき所見です。医師の知りたい情報を提供できる看護師になりましょう。
図 症例患者さんの状態(CTおよびX線画像)


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年4月号 TiaraNo.148より転載しています。
