
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
発熱と意識障害、項部硬直が出現! 髄膜炎を疑って腰椎穿刺かと思ったら…?


患者像
75歳男性。約50年前に結核で左上葉切除、5年前に狭心症で経皮的冠動脈インターベンション(ステント留置)を施行。現在は、抗血小板薬、硝酸薬、Ca拮抗薬を内服中。転倒して左大腿骨転子下を骨折して入院。全身麻酔(局所麻酔併用)による骨接合術を行った。
手術にトラブルはなかったが、術後のADLの拡大が不十分で、リハビリテーションの介入以外はほぼ寝たきりの状態である。意思の疎通は取れるものの、動作は緩慢で食事はほぼ摂取できていない。昨日(術後 7病日目)から経腸栄養を開始した。
何が起こったか
術後 7病日目の夕方、シバリング(身震いなどにより体温調節を行おうとする生理現象)が出現し、39.7℃の発熱を認めました。看護師が声をかけると、「ここは……? わかりません……。へへへ」と会話はできるものの、見当識は失われている様子でした。
呼吸数は24回/分、脈拍 112回/分、血圧は、133/67(87)mmHg。SpO2が90%と低下を認めたため、予測指示に従って酸素を3L/分(カヌラ)投与したところ、速やかに97%まで上昇を認めました。異常な身体所見としては、肺野全体で水泡音が聴取でき、さらに、項部硬直、持続開口(閉口障害)がみられました。
この症例をどう考えるか
あなたなら、この状況をどのように医師に報告しますか? 「〇〇さんですが、熱があり体が震えています」と報告しても、医師は何の疾患か類推できず、即座に次のアクションを起こすのは難しいでしょう。本来であれば、何の熱なのかを報告できるのが理想ですが、それは難しいですよね。
考え方としては、まず、発熱が必ずしも感染症とは限らないということ。ただし、感染症であった場合はその後敗血症に移行する可能性があるため、常に感染症を念頭に置いておく必要はあります。また、気になる所見として、水泡音と項部硬直があります。水泡音をきたす発熱には肺炎があり、項部硬直をきたす発熱には髄膜炎があります。この患者さんはどちらかになるのでしょうか。
高齢者の術後ということを考えると、肺炎とするのは矛盾がありません。そのうえで、両側から水泡音が聞こえることを考えると、心原性肺水腫は否定はしておきたいところです。また、髄膜炎の可能性はありますが、入院中の髄膜炎は頻度としては高くはありません。ということで、結果として、この患者さんは肺炎(図)および尿路感染症という診断がつきました。では、なぜ首が堅くなっていたのでしょうか?
図 症例患者さんの肺野(X線画像)

アセスメントのコツ
●目の前だけに捉われず広い視点で考えよう
この症例からの学びは、一本釣りをしない、すなわち最初から一つの疾患に決めつけないということと、いつも通りに考えるということです。高齢者の術後ですから、肺炎であってもおかしくはありませんが、項部硬直はその症状としては合いません。髄膜炎であれば、発熱、意識障害、項部硬直は現れますが、頻度や発症機転が合いません。そして、通常は何のきっかけもなく髄膜炎にはなりません。
いやいや、足の手術なので腰椎穿刺(脊椎麻酔)をしているんじゃないの? と思った方は相当アセスメント能力が高い人です。実はこの患者さん、術前の麻酔科医の診察で項部硬直が指摘されており、脊椎麻酔や硬膜外麻酔は行わず、全身麻酔と局所麻酔で麻酔管理を行うという方針で手術が行われました。つまり、項部硬直は術前からあったもので、今回の発熱と同時に出てきたものではなかったのです。
項部硬直をきたす疾患としては、くも膜下出血や髄膜炎がありますが、そのほかにも変性疾患としてパーキンソン病や進行性核上性麻痺があります。この患者さんは、入院時に診断はついていませんでしたが、嚥下障害や筋強固があったため、その後進行性核上性麻痺と診断されました。嚥下障害1)とそれに伴う誤嚥性肺炎も矛盾はないという判断でした。
●患者さんの真の状態を見抜けるようになろう
この患者さんは、単純に考えれば「左大腿骨転子下骨折の術後」です。しかし、真実の姿は「進行性核上性麻痺による運動障害を伴う左大腿骨転子下骨折の術後」となります。前者は問題なくリハビリが進みますが、後者は難渋します。患者さんの病態を正しく理解し、きたしうる合併症を待ち伏せ、予防する、あるいは早めに対処するというのが真のアセスメントです。熱が出たから抗菌薬、歩けないからリハビリという対処療法ではなく、患者さんの状態を正確に見抜く力が私たちには求められています。例えば、高齢者が転倒しても不思議には思わないと思います。しかし、実際には転倒するにも理由があるのです。単純な筋力低下ではないかもしれません。整形外科の術後なので神経診察は不要と考える人も多いかと思いますが、「そもそもなぜ転んだのか」と考える余裕が生まれれば、医療がもっと楽しく感じられるかもしれません。
付け加えると、進行性核上性麻痺は治療が困難です。しかし、MRIによって診断はできます。根本的な治療が難しかったとしても、対処する相手がわかればやりようはありますよね。看護師としてできることを考えたいものです。

参考資料
1)市原典子:進行性核上性麻痺患者における嚥下障害の特徴と対策.医療. 2005 ; 59( 9 ). 491-496
プロフィール
青柳 智和(あおやぎ ともかず)
水戸済生会総合病院や近森会近森病院などでICU、ER、手術室、一般病棟、RRT(ラピッド・レスポンス・チーム)、PICC (末梢挿入中心静脈カテーテル)チーム、看護師特定行為研修制の創設を経験。2006年から行っている臨床で必要とされる基礎看護教育のセミナー「出直し看護塾」は9万人を動員。診療看護師。看護学修士。医学博士。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年3月号 TiaraNo.147より転載しています。
