
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
元気がなく食欲もないので、経管栄養を始めたものの……
患者像
75歳男性。身長165?、体重48?で、るい痩がみられる。10年前よりCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と2型糖尿病により、吸入で気管支拡張薬と経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬)を内服している。自宅で転倒し、右大腿骨頸部骨折と診断されて入院した。大腿骨頭置換術を行い、術後のリハビリテーションを実施しているものの、術後から食欲が減退しており、リハビリは進んでいない。ほぼ寝たきりの状態である。
何が起こったか
男性は名前を呼ぶと反応はあり、バイタルサインにも明らかな異常は認められません。にもかかわらず、食事量は増えませんでした。そのため、経口摂取に加えて経管栄養を行うことになりました。まずは経口摂取を試み、食事量が不十分な際には、経管栄養の投与量を増やして水分と栄養素の必要量を確保することにしました。同時に、血糖が200 〜280mg/dLとやや高めであったため、DPP-4阻害薬に加えて、超即効型のインスリンと持効型のインスリンの併用も行いました。その際、極端な高血糖あるいは低血糖は確認できませんでした。
しかし経管栄養を開始しても、意識レベルの低下は持続するか、緩やかに悪化が進むかという状態でした。そのため、経口摂取を継続することで、誤嚥あるいは窒息が生じている時間があると判断し、経管栄養のみで水分とエネルギーを補給する方針になりました。200kcal/200mLの経腸栄養剤を、朝・昼・夕の1日3回、2パックずつ投与。1日の投与総量は1200kcal / 1200mLです。一方で、男性は数年前からCreが1.1mg/dLとやや高めの状態であったため、腎血流量を維持するために細胞外液補充液500mLを点滴していました。また入院時には、血清アルブミンが1.8g/L、血清Naが128mEq/Lと、それぞれに低値を示していました。

この症例をどう考えるか
疾患としては、右大腿骨頸部骨折、COPD、2型糖尿病が確定しています。問題となるのは、基礎疾患に加え、るい痩、低アルブミン血症、腎機能障害、意識レベル低下、食事摂取困難、低ナトリウム血症、 ADL低下がみられ、褥瘡が発生するリスクが高い状態であることです。大腿骨頸部骨折については手術が済んでおり、COPD、糖尿病に関してはひとまずコントロールはできています。そう考えると、現在意識障害が最大の問題点であると考えられます。
アセスメントのコツ
●元気のない高齢患者さんがいたら「SIADH」を疑おう
結論からいえば、本症例は「SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)」でした。高齢者の電解質異常の発生は非常に多く、入院中の高齢患者さんにおける低ナトリウム血症の発生頻度は30 〜 42%1)という報告もあります。長期入院の患者さんに多く、補正が行われないと予後が悪い2)とされています。
アセスメントのコツとしては、まず看護師が「低ナトリウム血症は頻度が高く、予後の悪い疾患であり、そのなかにSIADHという病態がある」という認識をもつことが必要です。症状としては、倦怠感や食欲の低下、脱力、傾眠など。さらに、体液量の極端な減少あるいは増加を認めない状態がみられ、極端にいえば「脱水や浮腫はないものの、元気がない」と言い換えることができます。臨床で活躍する看護師のみなさんであれば、これらの症状を呈する高齢患者さんはイメージしやすいのではないでしょうか。
最終的な診断は、症例によっては判断が難しいこともありますが、血清ナトリウム値が低く、血漿浸透圧が280mOsm/kgを下回っていて、さらに、尿浸透圧が100mOsm/kgを上回り、尿中ナトリウム濃度が20mEq/L以上であれば、SIADHを強く疑うことができます3)。「SIADH」と聞くと「なんか難しそう」と眉をひそめる人もいると思いますし、実際その診断は簡単ではありません。しかし、看護師としての対応は至極単純です。「元気のない患者さんがいたら、SIADHを疑う」ことです。医師に検査を依頼し、血清ナトリウム値、血漿浸透圧、尿浸透圧、尿中ナトリウム値がわかれば、それだけで十分に判断することができます。とりあえず、意識障害と低ナトリウム血症が確認できたら、浸透圧その他の値をみるようにしましょう。
表 SIADHの診断基準

●主病名にとらわれず、すべての問題点に目を向けよう
今回の症例から皆さんに学んでもらいたいことは、SIADHという病態は非常に多くみられるということ。そして、対応が遅れれば虚弱が進み、時として致命的に社会復帰が阻害されるということです。どうしても、主となる病名に看護や医療の視点が向きがちになりますが、すべての問題点に目を向け、それらを解決することが、医療の質を向上させるためには重要です。最前線にいる看護師が、このような問題点に気づき、診断につながる判断ができるか、私たちの役割は重要なのです。
症例患者さんについては、細胞外液補充液の継続に加え、1日3回食塩各1gずつを経管栄養に追加することで、低ナトリウム値は改善し、意識障害も治まりました。このような対応から、多くの経腸栄養剤は塩分含有量が少ないということも覚えておきましょう。

参考資料
1)Upadhyay A, et al:Epidemiology of hyponatremia.Semin Nephrol. 2009 ; 29(3) : 227-38.
2)田部井薫:水電解質代謝. 日腎会誌 2008 ; 50(1):21-4.
3)間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会, 他:間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年版. 日本内分泌学会雑誌 2023 ; 99(suppl) : 21-3.
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年8月号 TiaraNo.150より転載しています。
