
臨床で出合った疑問「?」や予想外の結果「!?」を、ついそのままにしていませんか。そんなとき的確なアセスメントができたなら、今よりも一歩進んだ対応が可能になります。さまざまな症例を通して、看護師が身につけておきたいアセスメントのコツを解説していきます。

執筆:青柳智和先生<水戸済生会総合病院 看護師特定行為研修室長/株式会社ラプタープロジェクト代表>
局所麻酔でミッドライン挿入後……右手に力が入らない!?
患者像
90代女性。高血圧症、脂質異常症で内服による治療を30年以上行っている。数カ月前から右下肢に間欠性跛行(歩行中に痛みや痺れが生じ、少し休むと回復する)が出現し、徐々に歩行ができなくなり、複数回の血管内治療および抗血小板薬の投与を行っていた。一方で、右下肢末梢の壊死が進んでおり、第1および第2趾指の断端形成術を行うため今回入院となった。
何が起こったか
壊死が生じているため骨髄炎の予防目的で抗菌薬の投与を開始することになりました。しかし、静脈の怒張が不十分であったことから、医師の指示により末梢留置型中心静脈注射用カテーテル(ミッドライン)での投与となりました。特定行為研修を修了した看護師がエコーを用いてミッドラインを右尺側皮静脈に挿入しました。局所麻酔は1%リドカインを約2mL使用。局所麻酔からカテーテル留置までの時間は10分程度で、出血や神経損傷を示す所見は現れず、手技を終えました。しかし、終了直後に患者さんから「右手に力が入らない」との訴えがありました。
(事例:水戸済生会総合病院)

この症例をどう考えるか
静脈の怒張が十分でないとき、エコーを用いた血管穿刺が看護師の間でも一般的となってきました1)。上腕の血管を穿刺する場合、動脈や神経の誤穿刺を起こしにくい尺側皮静脈(図1)が選択される場合が多く、今回の場合も手技を実施した看護師は右の尺側皮静脈を選択しました。「右手が動かしにくい」という患者さんの主訴に対しては、直前に神経付近を穿刺していること、あるいは局所麻酔を使用していることから「穿刺あるいは局所麻酔が原因」と考えるのが普通でしょう。しかし、神経には感覚神経と運動神経があります。仮に穿刺によって神経損傷が生じた場合、穿刺部位から損傷されるのは感覚神経と考えられ、現れるのは痛みやしびれです。この症例の場合も、運動神経が損傷されることは考えにくく、神経損傷を疑った場合でも「動かしにくい」という運動機能障害の出現は矛盾します。そのため、穿刺や局所麻酔が原因ではないと考えられました。
図1 尺側皮静脈(右)の位置

アセスメントのコツ
●穿刺による障害は神経障害と決めつけず症状を掘り下げる
結論からいうと、この患者さんの「右手に力が入らない」という訴えは、ミッドラインの穿刺直後に発生した一過性脳虚血発作(TIA)によるものでした。TIAは、一過性の脳虚血に伴って短時間のみ神経症状が出現し、通常は24時間以内に症状がなくなるという病態です。
先にも述べたように、本症例では、ミッドラインの挿入中に神経の誤穿刺を示すような反応はなく、痛みも局所麻酔のために行った皮膚の穿刺時のみに現れただけでした。局所麻酔による運動障害は、例えば神経ブロック(伝達麻酔)のように神経を直接穿刺して局所麻酔を注入すれば起こり得ますが、今回はそれにあたりません。しかし、症状は運動神経が障害されていることを示しています。たとえ手の神経支配の範囲(図2)が複雑で、正中神経、橈骨神経、尺骨神経領域の感覚障害が出現していたとしても、それらが同時に障害されることは、今回の手技では考えにくいといえます。
患者さんに構音障害や右下肢の麻痺の出現はありませんでした。「そんなことがこのタイミングで起こるのだろうか」と看護師は半信半疑に思いながらも、右上肢の単肢不全麻痺と判断し、神経内科医に診察を依頼しました。入念な身体診察の結果、左大脳半球の脳梗塞が疑われ、拡散MRIおよびMRAの検査を行いました。拡散MRIでは高吸収域は確認できず脳梗塞は否定されましたが、MRAでは左中大脳動脈の途絶が確認されました(図3)。
一般的に左中大脳動脈が途絶すれば広範囲の脳梗塞が出現し、構音障害や右半身麻痺が出現します。ですから、今回の症例は画像所見の割には症状が軽微で、臨床所見と合わないということになります。しかし、患者さんは高齢で、長年高血圧や脂質異常があり、全身の動脈が高度な動脈硬化を起こしていることは想像に難くありません。事実、足の血管は閉塞し、組織は壊死をきたしていました。脳動脈も同様に動脈硬化を起こし、側副血行路でぎりぎり脳循環を支えていたと考えられます。たまたまミッドラインを挿入したタイミングでTIAが検出され、MRIとMRAの検査からほどなくして麻痺は完全に消失しました。その後、形成外科医により抗血小板薬が1種類追加となりました。
図2 手の神経支配の範囲

図3 左中大脳動脈が途絶しているMRA画像(例)

●アセスメントの力は患者さんだけでなく看護師自身も守る
今回の症例からの学びは2つあります。麻痺が出現していた時間はおよそ1時間程度で、ミッドライン挿入直後でなければ誰も気づかず、TIAは確認されないままで抗血小板薬の追加投与はなかったということ。そうなると、その後に起こり得る脳梗塞の発症を予防できなかったかもしれません(抗血小板薬の追加のみで予防できるとも限りませんが)。そして重要なことは、「ミッドライン挿入後の右手の麻痺」という症状の表面的な部分のみをみて評価していたら、神経損傷のインシデントとして処理され、適切な検査や治療が行われない可能性があったということ。確かに穿刺や局所麻酔の影響によるインシデント、アクシデントの可能性もありました。しかしさらに深く考察し「身体所見が合わない」ということをアセスメントできれば、本症例のように患者さんを救い、その知識は私たち看護師自身を守ることにもなります。
参考資料
1)山根友絵, 他:日本における看護師の超音波検査機器活用に関する文献検討. 豊橋創造大学紀要 2023;27:25-37.
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年2月号 TiaraNo.153より転載しています。
