
地域包括ケアシステムのなかで、看護職はどのような役割をもち、どのような現場で活躍しているのでしょうか。地域でのさまざまな看護のかたちを再確認していきます。今回は「公衆衛生看護」です。

執筆:中田 晴美 先生<昭和大学保健医療学部看護学科公衆衛生看護学 准教授>
公衆衛生看護・行政看護職とは
公衆衛生看護の目的は、地域で生活する新生児から高齢者まであらゆるライフステージ、さまざまな健康レベルにあるすべての人々(個人・家族・集団・組織)を対象に、その人の生活と健康の保持・増進を予防の観点から支援することです。さらに、地域全体を対象として、住民の健康状態および社会環境をアセスメントし、住民の健康を守るまちづくりを推進していきます。
公衆衛生看護を担う行政看護職は、主に都道府県や政令指定都市、中核市、特別区の保健所と市町村保健センターに所属しており、その大半が保健師です。2018年末における保健師の就業場所は、「市区町村」が 2万9666 人(56.0%)と最も多く、次いで「保健所」が8100人(15.3%)となっています1)。
行政看護職は、自治体の公務員として公共の利益のために勤務する側面と、多くの専門知識を有する専門職として勤務する側面の双方を担っているのです。
行政看護職の仕事の内容は、勤務する場所によって異なってきます(図1)。
図1 保健所での活動と市町村での活動の分担

1)保健所
保健所は、専門的・広域的・技術的機能を有する公衆衛生の第一線機関です。医師、薬剤師、管理栄養士など、さまざまな専門職と協働して住民の健康と安全を守っています。主な看護活動として、感染症・難病・精神保健、市町村への支援、災害等健康危機管理業務があります。昨今では、新型コロナウイルス感染症発生時の患者さん本人と家族への療養支援や感染拡大防止のための啓発活動、災害発生時の心のケアなどの活動が注目されています。
2)市町村保健センター
市町村保健センターは、住民の健康増進や健康問題を解決するための身近で頻度の高いサービスを提供しています。主な看護活動として、母子・成人・高齢者保健や地域づくりという業務があります。例えば、母子保健での両親学級、新生児家庭訪問、乳幼児健康診査、成人保健での各種健康診断後の保健指導、高齢者保健での介護予防教室や自主グループ活動への支援など、多岐に渡る業務に携わります。
さらに、日頃の活動を通して明らかになった地域全体の健康問題を解決するための施策化に参画し、地域の特性に応じたケアシステムを構築するという行政看護職特有の仕事もあります。
近年では、DVや児童虐待などの複合的な問題を抱えるケースへの対応、健康危機管理など、役割が多様化しています。その場合には、保健所と市町村保健センターの看護職が協働して組織的に公衆衛生看護活動に取り組んでいます。
求められるスキル
行政看護職には「対人支援技術」というスキルが求められます。例えば、保健指導を行う際には、さまざまな対象者のヘルスアセスメントに対応できる幅広い知識と観察力、カウンセリング技術などが必要です。社会資源を導入するためには、対象に応じた制度の知識や、関係職種と連携体制を構築しておくことも重要です。また、集団に対して行う健康教育では、企画力や効果的な教材の工夫といったプレゼンテーション能力が必要となります。
さらに、地域全体の健康問題を分析する「地域診断(コミュニティヘルスアセスメント)技術」が重要です。そのためには、系統的に多くの情報を収集するためのICT活用能力、情報分析に必要な疫学・保健統計の知識、全体を俯瞰して捉える視点を身につけることが大切です。
地域とのかかわり
「地域住民は支援の対象ではなく主体であり、地域の健康問題解決に向け共に考え、活動する仲間である」という考え方が公衆衛生看護の基本です。これに基づき、住民自らが自分の健康を守る「自助」の育成、住民同士がつながりをもって支え合う「互助」や「ソーシャルキャピタル」の醸成、住民の組織化が現代社会の喫緊の課題とされています。そのため、行政看護職には、地域に出向き、住民および関係機関と協働して「地域のあるべき姿」を達成していくようなかかわりが期待されています。
行政看護職に今後求められること
行政看護職は、地域で生活するすべての人々と地域全体を対象に活動していますが、対象者や健康問題は多様化してきています。そのため、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」「コウモリの目」といった多角的な視点を駆使し、多様な場面に柔軟に対応できる行政看護職が求められています(図2)。「虫の目」によ って身近な場所から住民を注意深くみつめ、「鳥の目」で地域全体の健康問題を俯瞰的に捉え、世の中や時間の流れを捉える「魚の目」で、新型コロナウイルス感染拡大など人々の健康へ影響を与える社会環境の変化を把握し、一方で、物事を逆の視点から捉える「コウモリの目」をもち合わせることが大切です。行政看護職には、常に生活者の視点に立ち、住民に寄り添い、健康と安全を守る身近な存在であり続けることが求められているのです。
図2 行政看護師に求められる多角的な視点

プロフィール
中田 晴美(なかだ・はるみ)
聖路加看護大学看護学部看護学科卒業。東京都葛飾区で保健師として行政看護に従事。東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科にて博士(看護学)を取得。2004年東京女子医科大学看護学部専任教員。2019年度より現職。介護予防に関する研究や講演会活動等にも従事。
参考資料
1)厚生労働省 政策統括官付参事官付行政報告統計室:平成 30 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(2021年7月5日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/dl/kekka1.pdf2)厚生労働統計協会:第1編 わが国の社会保障の動向と衛生行政の体系 第2章 衛生行政活動の概況、国民衛生の動向2020/2021 67(9)、 2020、p28-34.
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2021年10月号 TiaraNo.133より転載しています。
