
地域包括ケアシステムのなかで、看護職はどのような役割をもち、どのような現場で活躍しているのでしょうか。地域でのさまざまな看護のかたちを再確認していきます。今回は「施設看護」です。

解説:川上 嘉明 先生<東京有明医療大学 看護学部看護学科 教授>
施設看護とは
施設サービスには、老人保健施設、特別養護老人ホーム等の介護保険施設、有料老人ホームなどがあります(図1)。私は特別養護老人ホームで施設長をしていましたが、同時に、看護師として施設看護も手伝っていました。そのなかで、施設看護に期待され、特に独自の業務として実践したことは、次のとおりでした。
(1)利用者の急変時における初期対応(夜間のオンコール対応含む)
(2)感染症の対応・施設内管理
(3)施設内での看取りの対応、医師への連絡・連携
(4)施設利用者の健康モニタリング、医療的ケアの実践
なかでも、施設利用者の生命や健康が急激に変化する状況については、看護師が先頭に立って対応する必要があります。施設により施設看護の役割は異なりますが、左記の(1)から(4)は共通の実践内容となります1) 。

図1 施設等の種類と利用者の要介護度のおおまかな分布および看護師必置の施設
施設サービスの実際と施設看護職の役割
施設サービスにおいて、看護職は主にどのような役割を果たしているのか、施設で行われている実態からご説明しましょう。
1.急変時における初期対応
施設サービスのなかで、利用者の急変はつきものです。意識障害、急激な発熱や血圧低下、誤嚥または窒息、転倒による外傷など、さまざまな急変が発生します。突然の心肺停止も避けて通ることができません。
施設内に常勤医がいれば連携して対処しますが、医師がいない、または夜間で医師に連絡がとれない場合、看護職が、(1)緊急性をアセスメントし、(2) 状況により、救急車出動の要請と家族らへの連絡を依頼し、(3)救急蘇生(BLS)を行い、障害となっている原因を除去しながら、医療機関につなげられるようにします。
事後には、家族らへの説明が必要です。また、施設内での、または救急搬送後のいわゆる「突然死」(瞬間死あるいは発病後24時間以内の内因死)の場合、検視が行われることがあります。タイムラインに従い、状況や対応に関する事実を整理し、記録しておくようにします。
2.施設内で発生する感染への対応
感染性胃腸炎、インフルエンザ、疥癬などの感染症は、新規入所する利用者がもち込むこともありますが、多くはショートステイの利用者、または職員や家族等の面会者が媒介します。施設の高齢者は、免疫力が低下した易感染宿主の集団ともいえますので、新型コロナウイルス感染症で経験されているような施設内の集団感染も発生します。
看護職は、平時から職員や家族らへの感染症対策をアップデートして、予防に努めることがベストです。また、感染症が疑われる利用者は早急に隔離し、ケアにあたる職員が病原体を媒介しない管理手順を迅速に構築することが求められます。
私も施設内集団感染を経験しましたが、プロトコ ールに従い、迅速に感染経路を断つゾーニングなどの厳しい管理が重要です。その管理がうまく作用すれば、目に見える効果が得られることを実感しています。
3.施設内での看取り
施設内での看取りが増えています2)。基本的に施設の看取りでは、点滴や酸素投与などの医療処置は限定的であり、そうした処置を行わないこともあります。看取りでは、関係する専門職らと家族との合意形成の積み上げが基本となります3)。
看取りを初めて経験する家族は、衰えていく利用者の心身の状態に戸惑います。看護職は、死に至るまでの変化を伝え、できれば家族にもケアに参加するよう勧めます。最期の時間を予測することは不可能なことが多く、夜勤を担当する介護職員、そして家族とも連絡の手順を確認しておきます。
そのほかにも、利用者の日常的な健康管理や医療処置は、看護職が中心となって行います。覚醒度が悪い、食事や飲水の進みが悪いなど、利用者の変化についての情報は、日ごろから直接ケアをしている介護職員から提供されます。「いつもと違う」とい った介護職員のちょっとした気づきが、利用者の急変の前兆を示すことは少なくありません。看護師には、介護職員が気軽に相談できる寛容な姿勢も大切です。

施設看護職に今後求められること
施設看護では、その専門性を生かしながら、介護職員やその他の専門職、家族らと互いを尊重したよい関係性を維持し、協働するスキルが求められます。看護職がこのような働きを果たすことが、「利用者が満足した生活を送り、穏やかに死に至ることができるよう支える」という施設サービスの大きな目標につながると考えています。
プロフィール
川上 嘉明(かわかみ・よしあき)
看護師。社会福祉士。介護支援専門員。千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。病院看護師、訪問看護師、在宅介護支援センター長、特別養護老人ホーム施設長として約20年の臨床経験を積む。2010年から現職。近著に「はじめてでも怖くない 自然死の看取りケア」(メディカ出版)、「家で死んでもいいんだよ」(法研)がある。
参考資料
1)日本看護協会:介護施設等における看護職員に求められる役割とその体制のあり方に関する調査研究事業報告書. 2017(2021年8月6日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-1230000-Roukenkyoku/16_kanngokyoukai.pdf
2)厚生労働省:人口動態統計 2019(2021年8月6日閲覧)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=7&year=20190&mont h=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&result_back=1&tclass4val=0
3)川上 嘉明,浜野 淳,小谷 みどり,他:介護職員の看取りに対する認識と認識に影響する要因─混合研究法を用いた探索的研究─,Palliative Care Research 2019;14(1):43-52.
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2021年12月号 TiaraNo.134より転載しています。
