
これまで、地域包括ケアシステムのなかで看護職が活躍する各現場をみてきました。今回はそのフィールドである「地域包括ケアシステム」について、あらためて確認していきます。

解説:乙黒 千鶴 先生<東京有明医療大学 看護学部看護学科>
地域包括ケアシステムって?
現在日本の高齢化率は29.1%(2021年9月15日現在)1)で、年々増加し続けています。2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が控えています。みなさん聞いたことがあるでしょう。
後期高齢者は元気に活躍する人がいる一方で、身体的には有病率がぐんと上がる年代でもあります。病気になると病院を受診するわけですが、昔のように病気=病院ではなく、高齢になっても住み慣れた家で最期を迎えたい、できる限り家で過ごしたいといった在宅療養の希望が増えています。また、高齢者全般の住まい方の選択肢も多様化してきています。住み慣れた家で暮らし続けるという希望を叶えられる社会を作るには、どのようにすればよいのか ──その実現のために登場したのが「地域包括ケアシステム」です。
図1 日本の人口ピラミッドの変化(1990、2015、2025、2065)−平成29年中位推計−

(出所)実績値(1990年および2015年)は総務省「国勢調査」をもとに厚生労働省作成、推計値(2025年および2065年)は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)
1990年および2015年の総人口は年齢不詳を含む。参考資料2)より引用
地域包括ケアシステムの背景・目的・仕組み
地域包括ケアシステムが登場した背景には、(1) 2025年問題により後期高齢者人口が増大すること、(2)少子化が進みマンパワーが不足することがあります(図1参照)。「総人口は減少する一方で、75歳以上の後期高齢者は増加する」という時代が続くことで生じる、医療・介護・福祉分野でのマンパワー不足が喫緊の課題になっているのです。
各地域における「地域包括ケア」の実践主体であり窓口になるのは「地域包括支援センター」です。
地域包括ケアは、高齢者が重度な要介護状態とな っても住み慣れた家・地域で自分らしく暮らし続けたいという願いの実現に向け、地域全体で取り組むという新しいかたちの高齢者ケアです。ここでいう地域は、おおむね30分以内にサービス提供できる日常生活圏域(中学校区域)とされ、その市区町村の地域包括支援センターの3専門職種(保健師等、社会福祉士、主任ケアマネジャー)が主体となって、支援サービスをコーディネートしながら地域づくりをしていきます。
高齢者が今後も安心して地域で暮らし続けられる仕組みを作り、その尊厳の保持と自立支援を目的に、現在は2025年に向けて地域包括ケアを進化させている段階といえます。
図2 地域包括支援センターの包括的支援事業の業務

参考資料3)をもとに筆者が作成
地域包括支援センターの業務
地域包括支援センターは主に「介護予防支援事業」と「包括的支援事業」の2つを行います。
(1)介護予防支援事業
保健師等(看護師含む)が行う介護予防の取り組みです。介護保険を利用していない地域の高齢者に対して、健康に対する意識づけや小さな目標を達成するための動機づけを行うことで、今の健康な状態が維持されることにつなげていきます。介護予防というと、すぐに体操教室を連想するかもしれませんが、それだけではなく、さまざまな事業を通して高齢者の心と身体の健康の保持を支えていきます。
(2)包括的支援事業
介護予防ケアマネジメント業務、総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的継続的ケアマネジメント支援業務があります(図2参照)。
介護予防ケアマネジメント業務では、保健師等が、地域の要支援1・2の高齢者に対して介護予防ケアプランの作成を行います。看護職だからこそ、少し先の状態を見通し、予防の視点をもって要介護に移行しないようプランを立てていきます。
総合相談支援業務では、3専門職種が住民からの相談に幅広く対応し、必要な機関などにつなげるなどの支援を実施します。
権利擁護業務では、成年後見制度の活用促進、高齢者虐待への対応など、高齢者の権利を守るための取り組みを、地域の機関や社会資源を利用しながら進めていきます。
包括的継続的ケアマネジメント支援業務では、地域のケアマネジャーが抱える困難事例を一緒に解決できるように支援していきます。
それぞれの職種が専門性を発揮し、役割分担しながら包括的に地域高齢者を支える活動をしています。
地域包括ケアシステムのなかでの看護の役割
地域包括ケアでは地域づくりが必須になります。みなさん「地域づくりって?」と思われるかもしれませんね。簡単に言うと「切れ目のない関係とつながりを築くこと」です。ネットワークという言葉が当てはまるでしょうか。そのネットワークがサービスをつなげ、高齢者の在宅療養の不安や心配を減らし、安心して暮らせる地域(場所)を作り出していくことを目指します。
高齢者支援におけるネットワークでは、機関と機関、機関と個人をつなぐ役割が必要です。特に病院などの医療とスムーズにつなげるには、その役割を担う看護職の存在は大きくなります。高齢者支援は、起こった事象ごとに解決していけばいいわけではなく、トータルでその人をみて、必要なサービスを利用し、今ある課題を解決していくことが大切になります。病気と生活の両側面から、その人を客観的に捉えていかなければなりません。そのようなアセスメント能力が鍛えられているのは看護職です。今地域では看護職の力に大いに期待を寄せています。
プロフィール
乙黒 千鶴(おとぐろ・ちづる)
北里大学看護学部看護学科卒業。社会福祉法人町田市福祉サービス協会にて保健師として地域保健福祉活動に従事。東京都立大学(旧首都大学東京)大学院都市環境科学研究科にて博士前期課程修了。2011年日本赤十字看護大学看護学部看護学科、 2017年東京有明医療大学看護学部看護学科専任教員。
参考資料
1)総務省:統計トピックスNo.129 統計からみた我が国の高齢者.2021、9.(2022年1月13日閲覧)https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics129.pdf
2)厚生労働省:平成29年度 厚生労働白書 −社会保障と経済白書−、図表1-1-1 人口ピラミッドの変化(1990、2015、2025、2065)−平成29年中位推計−(2022年1月13日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/02-01-01-01.html
3)厚生労働省老健局:第83回社会保障審議会介護保険部会資料2「地域支援事業等の更なる推進」(令和元年10月9日)(2022年1月13日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000556110.pdf
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年4月号 TiaraNo.136より転載しています。
