
医療機関や介護福祉施設を有する特定医療法人社団研精会および社会福祉法人新樹会では、新型コロナウイルス感染症対応の最前線で奮闘する急性期病院とともに、医療従事者として社会に貢献するため、法人内の3病院で大規模個別接種に取り組んでいます。各施設の限られたマンパワーをサポートしたのは、日本航空株式会社(以下JAL)の客室乗務員(以下CA)たち。その舞台の1つとなった稲城台病院の様子をご紹介します。
「今できることをしたい」稲城市の大規模個別接種を開始


東京都の稲城市に1965年に開院した稲城台病院は、精神科を中心に、50余年にわたり南多摩地域の医療に貢献してきました。現在は、精神科に加え、認知症センター、リハビリテーション科(回復期、摂食嚥下)、内科(療養病床)を有しています。しかし、地域における医療機関としての認知度は高いといえない状況にありました。
「精神科病院と聞くと、どうしても特定の人のためのものとして捉えられます。そのため、地域の人たちにとって、当院は馴染みのある存在とはいえなかったようです。また私たちも、患者さんと向き合う日々のなか、自ら地域とかかわる具体的な発想には至っていませんでした」
看護部長の成田小百合さんはこのように話します。ですから、法人本部が地域の新型コロナウイルス感染症対策への貢献を決めたとき、自分たちも医療従事者として地域に貢献できることをあらためて確認したといいます。


2021年春、同院は稲城市との協力のもと、大規模個別接種を実施するための体制づくりを開始。65歳以上の高齢者のワクチン接種が急がれていたことから、低リスクの人を主な対象に、なるべく多くの接種を実施することを目指しました。実際の稼働開始は7月下旬で、週2回1日2時間を原則としました。「当初は効率よくできるか不安もありましたが、始めてみると順調に進み、多い日は400件もの接種を行うことができました」と成田さん。JALのCAとの協働が、力強い後押しになったと話します。

看護師とCAが協働することでお互いに受けた刺激
今回の接種事業に際して心配されたのが、病院の通常業務との両立。ですから、CAの出向の場を模索していたJALと連携できたことは、大きな収穫でした。
CAたちは、接種会場の設営、椅子やテーブルの消毒、接種者の受付業務全般、会場内の誘導、接種時の付き添いなど、接種業務を幅広く担っています。そこには、これまでのフライト業務で培われた接客スキルだけでなく、チームで働くための情報共有や安全に対する意識などが生かされています。
「CAさんは、指揮系統が明確で、統制の取れた動きもできます。そういう意味では、看護職と似ている部分が多いと感じました」(成田さん)
一方でCAからは「接種者がリラックスできるような声かけや、気分が悪くなった人への冷静な対応などに触れ、看護師のみなさんから刺激をもらいました」という声が聞かれました。



大規模個別接種への取り組みが病院にもたらしたものとは


大規模個別接種への取り組みは、2022年度も継続していますが、これまでの実績は、同院の職員たちの自信、そして成長にもつながっているようです。
「会場で予診や接種に携わった師長たちからは不安が消え、『任せてください』と言われるまでになりました。さらに、この業務を主任、スタッフにも経験させたいと取り組みを始めています」と話す成田さんには、スタッフの今後への期待が感じられます。
また、CAという異業種との連携から得られたものもありました。5病棟(認知症治療センター)師長の内田和彦さんは「CAさんの所作や振る舞いの美しさを見て、身の引き締まる思いがしました。同じように接遇を提供する者として、人の目にどう映るかによっても信頼感が左右されることに気づかされましたね。病棟スタッフにも合間をみて見学するよう促しています」と話します。
その専門性から閉鎖的になりがちな精神科病院が取り組んだ大規模個別接種。成田さんは「私たちにできることがあれば、今後も地域に発信していきたい」と話します。地域の人と広くかかわる機会を得たことで、病院と地域の互いの理解が深まり、絆を結ぶことにつながっていきそうです。
DATA
特定医療法人社団研精会 稲城台病院
東京都稲城市若葉台3-7-1
https://inagidai-hp.com
開設 ●1965年
病床数 ●382床
職員数 ●317名 うち看護職員数162名(2022年5月1日現在)
看護体制 ●受け持ち制、一部機能別 [病棟構成]精神科230床(急性期・回復期)、認知症60床、リハビリテーション科48床、療養型31床

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年7月号 TiaraNo.137より転載しています。
