
先端医療や救急医療、そして災害医療において地域の中心的な役割を果たしている大分大学医学部附属病院。2020年に新型コロナウイルス感染症が発生した早期から感染患者への対応を始め、職員はこれまでにない経験をしてきました。特に看護職は幅広い役割を担うことになり、さまざまな困難を乗り越えています。2021年12月、看護部は1冊の冊子をまとめました。そこからは、多様な経験を重ね新たな思いを確認した看護職の姿がみえてきます。

専門病棟の稼働で経験した看護職の実際を記録に残したい
大分大学医学部附属病院では、新型コロナウイルス感染症重点医療機関として専用病棟20床を開設。陰圧室を有する6階新病棟を転用し、同病棟スタッフがそのまま対応に当たりました。同院はECMO(対外式膜型人工肺)による治療が可能な施設であったため、受け入れは中等症以上の患者さんが中心で、特に夜勤では6〜7人の看護職を要するケースも(通常3人)。不足する人手は、他病棟の看護職に期間限定で異動してもらうことで補充しました。
「受け入れが少ないうちに、患者数を想定して人員を確保する仕組みを先手先手で構築しました。とはいえ、異動に応じてくれたスタッフも、スタッフを送り出した病棟も大変だったと思います。院内の各部署・職員の協力があってこそ実現したものです」
副病院長で看護部長の冨永志津代さんはこのように話します。そんなことを実感していた頃、2021年3月に日本看護協会から発刊された「新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート」にヒントを得た副看護部長の荒金郁代さんから「当院でも記録を残しては」という提案がありました。コロナ禍で看護職は何を考え、どう判断し、乗り越えたか── 今後に引き継げるものを残すべきと考え、看護部として冊子の作成を行うことにしたそうです。



さまざまな場面で尽力した職員にはそれぞれの思いがあった
2021年12月に完成した冊子「新型コロナウイルス感染症対応 未来への軌跡─看護の真価を追求して─」では、6階新病棟看護職に加え、それぞれの立場からコロナ禍に対応した病棟、集中治療部、手術部、外来ほかの職員が寄稿しています。
「2020年に入職し最初の配属が専用病棟だったので、当初は十分に技術が習得できないのではと不安を感じました。でも今は、先輩たちのおかげで感染対策に自信がもてるまでになりました」と話すのは6階新病棟看護師の井阪麻瑞美さん。一方、同松原結菜さんは「一気に重症化し意思決定支援が必要になる患者さんも多い。防護服越しで表情が見づらいこともあり、その気持ちに寄り添い、意思を引き出せたのか」と自身の迷いを吐露していました。寄稿者のなかには、県外医療機関や宿泊療養施設への派遣を経験した看護職、看護教育担当者もおり、さまざまな場面で新型コロナウイルス感染症に対応してきた人たちの体験や心の動きがわかります。
冊子の挿絵を担当した手術部看護師の小畑悠香さんは「同じ病院にいても他部署の状況はわからない。言葉に残すことでそれが目に見えるかたちになり、今後の財産になると思いました」と話します。



冊子の作成により看護職がみつめ直したこととは
看護部に留まらず、組織が一丸となって困難を乗り越えたことは、コロナ禍がまだ終わりのみえない現状にあって、今後も大きな支えになりそうです。
冊子を作ったことで、あらためて確認できたことがあると冨永さんは話します。
「これまでは、管理者として所属する看護職を守らなければと思ってきましたが、冊子づくりを通じて触れた多くの声のなかに、一人ひとりの成長と看護職としての力強さを見出しました。その力を信じて、今後は職員に任せることも必要だと思いましたね。教えられた気がします」
また、荒金さんは「コロナ禍での看護の実情を伝えたいと冊子の作成を発案しましたが、どのような状況下でも変わることのない看護の普遍性を再確認できたような気がします」と、冊子を作った意義を感じていました。さらに、冊子で紹介した現場の状況や苦労、思いを一つの実績として、他院の看護職にも共有してもらえたらとも話します。
県内で唯一の特定機能病院として、今後も新たな社会変化に対応を迫られる場面があるだろうと冨永さん。そんなときも、この冊子を“困難を乗り越えた証”とし、自信をもって立ち向かっていく同院の看護職たちの姿がみえてきます。


DATA
大分大学医学部附属病院
大分県由布市挟間町医大ヶ丘1-1
https://www.med.oita-u.ac.jp/hospital/
開 設 ●1981年 病 床 数 ●618床
職員数●1555名 うち看護職692名(2022年8月1日現在)
看護体制 ●一般病棟7:1
日本医療機能評価機構認定病院/都道府県がん診療連携拠点病院/高度救命救急センター/基幹災害拠点病院/地域周産期母子医療センター/大分県難病診療連携拠点病院

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年10月号 TiaraNo.139より転載しています。
