
医療安全元年*を契機に医療安全への社会の関心が高まり、国によるさまざまな施策が加速しました。そのなかで大きな役割を担ってきたのがインシデント報告による情報分析。自治医科大学附属さいたま医療センターは早くからその重要性に着目し、「報告文化」を根付かせるための取り組みを続けています。取り組みの成果と、報告から改善策へとつなげる医療安全管理室の動きを紹介します。

インシデント報告は医療安全には欠かせない情報
医療安全への社会的関心の高まりを受け、国がその管理体制の拡充を推進するなか、自治医科大学附属さいたま医療センターではいち早く専任部署を設置し、現在は医療安全・渉外対策部医療安全管理室(以下、医療安全管理室)が中心となって対策に取り組んでいます。
部署が設置された当初から活動の中核として定めていたのがインシデント報告の収集と活用です。「インシデント報告は医療安全を推進するために欠かせない貴重な情報です。私たちは先代の医療安全管理者たちの取り組みを引き継ぎ、報告数を増やしながら報告文化を根付かせること目指しました」と話すのは医療安全・渉外対策部副部長の亀森康子さん。その結果報告数は数を延ばし、年間2万件を超えるまでになりました(図)。

数を増やすために、軽微なことでも気づいたことは報告することを周知させ、報告者に対する表彰を実施してインシデント報告のネガティブなイメージを払拭。一方で、パソコンによる報告システムを導入し、報告しやすい環境づくりを行いました。また、医師が個人で判断せずに済むよう医療行為で発生した有害事象の報告基準(30項目)を策定したこと、研修医に対し医療安全講義を行っていることも大きな効果をもたらしています。
「医師や研修医からの報告が多いのは当センターの特徴。検査部など多職種にインシデント報告が浸透してきたことも実感しています」(亀森さん)


より多く収集しより生きるかたちで活用を
医療安全管理室室長補佐の大庭明子さんは「報告数が最も多いのは看護師で、報告については現場で起こったことをみんなで共有し改善につなげるためのツールとして考えるスタッフが増えています。自らの実践の振り返りにも役立てているようです」と看護師の変化について話します。報告の内容は医療安全管理室が事象を確認・検証し、取りまとめ、各部署にフィードバック。さらに、週1回のセンター長報告、月1回の医療安全管理委員会、週1 回の医療安全管理室による巡回などで改善策を検討し実施しています。インシデント報告が現場の改善に結びつき安全管理が循環している様子がうかがえます。
「医療安全管理室でまとめたデータには各部署の権限をもつ担当者がアクセス可能。自部署のデータを分析し、診療科や特性に合わせて個々で主体的に活用するケースも増えています」と大庭さん。報告文化の定着が、職員の医療安全に対する意識をより高めているようです。


医療従事者としての基礎をつくるインシデント報告
報告事例については検討会も実施。医療安全・渉外対策部部長で医療安全管理室室長の齊藤正昭さんも外科医として腹水濾過濃縮再静注法(CART)に関連したインシデント事例について手順書の作成や確認方法の変更に携わりました。
「インシデントには報告がなければ気づかれずに流れていってしまう事象もある。それを掘り起こすという意味でもインシデント報告は重要。当センターでは医療安全を医療従事者の大切な基礎として捉えており、研修医に対する講義を実施しているのもその一環です」(齊藤さん)
報告の件数と質を担保することが今後の課題という齊藤さん。研修医への講義でインシデント報告の講義を自ら担当し課題の解決を目指しています。
医療安全管理室には、先の3名に加え、主任看護師の山岸八重乃さん、事務担当者の5名が配置され、他部署にも医療品医療安全管理者や医療安全推進担当者など協力してくれるメンバーがいます。「活動にはマンパワーが必要。仲間がいるから現在のような動き方ができる。当センターにおける医療安全の重要性を認識し医療安全管理室としてすべきことを行っていきたいですね」と亀森さんは話します。医療安全管理室の今後の歩みに期待が寄せられます。
* 1999年に患者取り違えや薬剤の誤投与など医療上の過失による事件が立て続けに起こり、医療安全に対して社会的関心が高まったことから同年がこう呼ばれている。



DATA
自治医科大学附属さいたま医療センター
埼玉県さいたま市大宮区天沼町1-847
https://www.jichi.ac.jp/center/
開設●1989年
病床数●628床
職員数●1610名うち看護職員854名(2024年4月現在)
看護体制●一般病棟7:1
日本医療機能評価機構認定病院/エイズ拠点病院/災害拠点病院/地域周産期母子医療センタ ー/地域がん診療連携拠点病院/指定小児慢性特定疾病医療機関/救命救急センター/難病診療連携拠点病院/地域医療支援病院/がんゲノム医療連携病院

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年4月号 TiaraNo.154より転載しています。
