
患者さんと家族を支援する取り組みがコロナ禍で看護のやりがいを思い出させてくれた
医療現場では新型コロナウイルスの感染蔓延によるさまざまな影響が出ています。面会制限もその1つ。感染予防からやむを得ず行っているものですが、患者さんや家族にとってはつらいことです。このような現状を受けて、東京都看護協会では「オンライン面会支援事業」を始めました。その発案者である会長の山元惠子さんに話をうかがいました。

山元惠子さん<東京都看護協会 会長>
患者さん家族の手紙から始まった「オンライン面会支援事業」
「オンライン面会支援事業(以下、面会支援事業)」の始まりは本会に届いた1通の手紙です。それは、コロナ禍で入院されている自身の親と1年半会えずにつらい思いをしているという女性からのものでした。そのなかに「死んでからでないと会えないのか」という1文があり、それが心に刺さりました。面会制限は、患者さんや家族に会えないつらさを与えるだけでなく、治療・療養への意欲も奪います。一方で、看護職には、本来提供すべき看護の一部である面会支援ができないという失望感をもたらします。それらを解消したいとこの事業を考えました。
今回の新型コロナウイルスによるパンデミックでは、奮闘する医師や看護職ら医療従事者に注目と期待が集まり、本会にもさまざまな企業や団体からたくさんの支援が寄せられました。そこで、本会ではそれを原資に「新型コロナウイルス感染症対策支援事業」として、2020年度から6分野*でさまざまな取り組みを実施しています。面会支援事業はその1つで、各施設がオンライン面会システムを確立できるよう、ハードとソフトの両面からサポートしています(表)。

患者さんと家族の涙が看護職に教えてくれたもの
実際に面会支援事業を行ってみて、想像以上の手応えが感じられました。私が足を運んだ施設では、 1年半ぶりに顔を見て話すことができた患者さんと家族が涙を流して喜ぶ姿に出会えました。また思っている以上に、家族が患者さんと長い時間会えないことで認知症が進行するのではと不安を感じていたこともわかりました。
この体験は、長期入院をされている方と家族が、定期的に顔を合わせることで、いかに安心と絆を得ているかを再認識させてくれました。面会支援事業に参加した施設の関係者も同じ思いをもったようで、看護職が日常ケアに対するやりがいを取り戻す機会になったという報告を受けています。
やりがいは必ず次のやりがいにつながります。この1年半余りの間、感染対策に奔走してきた看護職は、疲弊し、ともすれば道を見失ってしまった人もいるかもしれません。面会支援事業は患者さんと家族のために始めたものですが、看護職のモチベーシ ョンアップを後押しするためにも必要なものであったのではないかと感じています。
コロナ禍で得た気づきをこれからの看護につなげて

コロナ禍を乗り越えるなか、あらためて看護職不足が課題になりました。しかし、その解消のためには、ただ多くの学生を教育すればいいというものではありません。看護職、そして看護分野を支える有効なシステムの構築が必要です。それには、看護の質を高めると同時に、職業としての質も高めることが重要でしょう。
とはいえ、日本の看護は世界に誇れるものだと思います。知識や技術に加え、繊細さやホスピタリティ(思いやり)を備えています。これからは、日本の優れた看護を世界に伝えていくことも視野に入れていくべきだと考えています。若い世代が力をつけて、世界に向けてどんどんアピールしていってほしいですね。
Profile●プロフィール
出身は富山県。看護師として、国立国府台病院、国立療養所中野病院、国立小児病院で臨床経験を積み、国立小児病院と国立大蔵病院統合の準備室では、子どもとお母さんのための病院づくりに尽力し、現在の国立成育医研究センターの設立に寄与した。この経験を基に働きながら大学院に進み「電子カルテシステムとリスクマネジメント」、さらに博士課程では「経鼻栄養チューブ挿入のリスクマネジメントと教育システム」の論文をまとめ、国内では看護職としてはじめて危機管理学博士を取得した。また、ライフワークとして、ビエンチャン市(ラオス国)の住民健康診断活動のボランティア支援を継続的に実施。これにより2018年に第一回未来のいしずえ賞を受賞した。2010年富山福祉短期大学教授就任を経て、2016年6月より現職
*「医療用物資無償提供」「看護職員応援派遣事業」「教育・研修、情報提供、自治体支援」「ワクチンチーム運営・管理」「看護職支援」「看護人材確保」の6分野
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年3月号 TiaraNo.135より転載しています。
