
さいたま市民医療センターは、2018年10月に災害医療訓練・研修会を実施しました。医療危機管理支援機構の協力を得て2015年から実施しているもので、今回が4回目となります。災害時に傷病者の受け入れ先となる病院に求められる知識や備えを実践的に学ぶプログラム「Disaster ABC 病院災害訓練コース」により行われた訓練・研修会の様子をお伝えしましょう。
災害対策本部・トリアージ・治療、実践に結びつく演習が中心
10月28日の研修会当日、開始時間の9時を前に会場となる院内大会議室には、院外からも含め41名の参加者が集合しました。

座学によって災害医療の基本と演習で活用する知識を学ぶ
開会のあいさつを経て、NPO法人医療危機管理支援機構(以下、支援機構)の5名の講師による講習がスタート。最初に「災害医療概論」についての講義があり、参加者は災害医療の基本や被災地となったときの心構え、そして大規模災害への体系的アプローチ「CSCATTT」について学びました。さらに「トリアージタグの扱い方」「通信・情報管理」と講義は続きました。ここまでの講義時間は約2時間。座学はこれで終了です。

実践さながらの演習の様子

模擬患者の症状に従いトリアージタグに記入
座学に引き続いて行われる演習では、発災後傷病者の受け入れを行い病棟や他医療機関につなぐまでを実践で学んでいきます。参加者は3グループとなり、まずは全員で「災害対策本部の立ち上げと役割」についての説明を受け、グループワークによりその動き方や情報管理の仕方を学習。その後グループに分かれ、1)災害対策本部での通信・情報管理、2)トリアージ、3)治療(外傷診療、院内・広域搬送含む)という3つのステップごとに、講師の指示やアドバイスを受けながらロールプレイングを行いました。
そして、最後に研修のまとめとして、1)〜3)を通した全体訓練が行われました。全体訓練では状況の提示以外講師によるサポートはなく、すべて参加者が自ら考えて対応にあたらなければなりません。掛け合う声もいつしか真剣味を帯びてきます。
そして16時、1時間15分に及ぶ全体研修は終了。各講師からの講評があり、修了証を受け取って散会となりました。

1) 災害対策本部:被害状況の連絡を受け、他施設との調整を図る

2) トリアージ:模擬患者の訴え・症状による判断が求められる

3) 治療:模擬患者に診断をつけ重症度の判断を行う
災害時に求められるのは全病院職員が対応できること
今回の研修参加者の内訳は、医師8名、看護師18名、その他のメディカルスタッフ9名、事務職員6名でした。これは医療機関に勤務する職員構成とほぼ同じです。
「災害時には院内の全職員で対応しなければなりません。職種によりできることは変わってきますが、それぞれが自分の役割を認識し、状況を判断して自ら動けるようにすることが必要です。このプログラムは、災害医療のスペシャリストではない病院職員が、主体的に傷病者を受け入れるために必要な知識と技術を学ぶためのものなのです」と話すのは、同センター救急総合診療科科長の坪井謙医師。自身も支援機構のメンバーです。同センターに入職した2011年から、院内で「Disaster ABC 病院災害訓練コース」訓練ができないか模索していたといいます。
「当院の施設をみたとき、災害時の傷病者受け入れに最適な構造と設備があることに気づいたのです。まさに東日本大震災を経験した直後で、地域が災害に対する力を備えることの重要性を再認識したところでしたから」(坪井医師)そして2015年から念願の院内での研修を開始。同センターでは、今回の研修参加者を含め計175名の職員が受講したことになります。「それでもまだ全職員の3割。全員受講に向けて頑張ります」と坪井医師は意欲をみせます。
研修で得た知識や技術は、繰り返しの訓練や実践で確認し、いつでも活用できるようにしておくことが大切です。研修会は現在年に1回の開催となっていますが、部署内では今回のプログラムに沿って1)〜3)の内容を学ぶ勉強会が行われています。

(左から)湯川愛看護師、江原由美子看護師、坪井謙医師
職員の意識にも変化が、看護部主催による災害研修もスタート
研修は職員の意識にも変化を与えています。研修会を支えているメンバーである外来係長の江原由美子看護師と病棟係長の湯川愛看護師も研修によってさまざまなことを感じ、ほかの職員も災害医療に対する関心が高くなったように思っています。
「もともと救急看護や災害看護に関心をもっており、心肺蘇生の講習にも携わってきました。でも最初に研修を体験したとき、普段から救急患者さんに対するトリアージを行ってきた自分でさえ、被災した傷病者の受け入れについての知識のなさを痛感しました。ほかの外来看護師も同じ思いをもったようです」(江原看護師)
「災害支援ナースに登録していたことから、研修に携わることになりました。災害時受援側になった場合、組織力のある看護師が中心となって初動対応をしなければなりません。みんなにも、自分たちの病院でこういった研修が行われていることを、上手に活用してもらいたいと思います」(湯川看護師)
職員の関心の高まりを感じた看護部では、2018年度から年に2回の災害看護研修を始めました。傷病者の初期のふるい分けに用いられるSTART法トリアージ、その後の重症度判定を行うPAT法(生理学的評価)について学びます。院内の希望者が対象で、初回研修には30〜40名が参加しました。
近年多くの災害が発生しているなか、今回の研修会では、災害に強い地域をつくるためにすべきことを考えている医療者の姿をみることができました。
社会医療法人 さいたま市民医療センター
埼玉県さいたま市西区島根299-1
https://www.scmc.or.jp
NPO法人 医療危機管理支援機構
https://meccso.jp
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2019年2月号 TiaraNo.120より転載しています。