
ニプロ株式会社およびビー・ブラウンエースクラップ株式会社による「新潟県感染対策セミナー」が、2019年5月11日に燕三条地場産業振興センター リサーチコア(新潟県三条市)で開催されました。感染管理ネットワーク新潟(ICNN)の支援協力のもと、青木美栄子先生(新潟大学医歯学総合病院感染管理認定看護師)をプランナーに迎え、臨床現場での具体的な実践と、地域に目を向けた感染対策の考え方をテーマに講演が行われました。その内容をご紹介します。

ご登壇いただいた先生方。(前列左から)加來浩器先生、青木美栄子先生。(後列左から)佐藤孝江先生、小柳浩子先生、塩入久美子先生、早川陽子先生
1部 講演:カテーテル関連血流感染防止と針刺し防止の両立 座長:青木美栄子先生<新潟大学医歯学総合病院 感染管理認定看護師>
マニュアルの整備や周知、適切な医療器材の選択など、感染対策において重要となる臨床での取り組みについて、3つの医療機関での実践が報告されました。

講演は実践事例から疫学の活用法まで幅広いテーマで行われた。自施設でも活かせる内容に参加者の表情は真剣そのもの
末梢静脈カテーテル関連血流感染防止への取り組み −院内マニュアル改訂とアンケートを活用した看護師への周知活動− 講師:信楽園病院 感染管理認定看護師 佐藤孝江先生
2011年以降、血液培養検査でのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)*1の検出が徐々に増えてきていたことを受け、感染対策チーム(ICT)は、2015年にカテーテル関連血流感染(CRBSI)症例について情報収集や管理方法を確認し、院内マニュアルの見直しを行いました。「血管内カテーテル関連感染防止CDCガイドライン2011」をもとに、留置針の交換時期や穿刺部の消毒方法など、2017年2月に改訂を実施。院内感染対策委員会、看護師長会議、看護部リンクナース委員会で報告するほか、ポスター掲示や広報誌で院内全体への周知を図りました。
その後、2017年と2018年に看護師を対象にアンケート調査を実施し、マニュアルの活用状況や周知状況を把握したところ、2018年には血液培養検査でのCNS検出件数が26件から17件に減少。佐藤考江先生は「ICTによる一連の介入がCRBSI対策の教育につながった」として、今後は手技や手順の確認・評価を行いたいと結びました。
*1 カテーテル関連血流感染(CRBSI)の代表的な原因菌
患者・職員に安全な輸液材料導入への取り組み−安全機能付き静脈留置針の変更経緯− 講師:新潟県済生会三条病院 感染管理認定看護師 早川陽子先生
以前から輸液材料について問題を感じていた感染対策室では、留置針とドレッシング材について医療安全と感染管理の両面から問題点を洗い出しました。「自己あるいは自然抜去」「圧迫による皮膚トラブル」「(ドレッシング材が)未滅菌」「静脈炎の発生」「血液曝露のリスク」などが挙がり、これらを改善する製品の導入に向けて取り組みを開始しました。
まず院内感染対策委員会と医療安全対策委員会で製品の変更を提案。血液暴露のリスク軽減、固定力のアップ、刺し直しの減少というメリットが認められ、新たな製品への変更が承認されました。医師や看護師に対し体験型の製品説明会を開いた後、2013年11月から新たな製品の使用を開始。同時に固定手順の写真付きマニュアルで周知を図りました。
「導入後は使用状況や効果の調査を行い、輸液回路での抜去回数や留置針による針刺し件数が減少したことが確認できました。一方で、針刺しはゼロではなく、さらに血液曝露のリスクもあるため、正しく安全に使用するための指導の継続が必要だと考えています」と早川陽子先生。皮膚が脆弱な患者さんの固定については、皮膚・排泄ケア認定看護師と連携を図りながら手順化を行いたいとしました。
安全機能付きインスリン針の導入経緯 講師:長岡赤十字病院感染管理認定看護師 塩入久美子先生
感染管理室は、2007年から10年にわたるデータをもとに、針刺し切創の原因となっていた医療器材のなかから、安全機能が付いていないペン型インスリン針に注目して分析を実施しました。
その結果、使用後の針が自動収納される機能が付いた器材を使用することでリスクの低減が予測されたため、その導入に向けて動き出しました。コストの上昇、従来針と異なる使用感に対する違和感などが問題となりましたが、使用者を医療者に限定して使用数を減らし、院内全部署に対し説明と演習を実施することで違和感を解消しました。その結果2017年7月から使用開始となり、導入後新たな器材については針刺し報告がなく、今後は従来品と併せて、発生状況の追跡を行っていく方向です。
塩入久美子先生は「新規器材のスムーズな導入には、事前にサンプリングを行い、それを評価し、問題解消のための演習を行うことが重要。文書のみではなく、対面で説明することが理解と周知を早めると思います」と話しました。


質疑応答では時間のある限り講師の先生方が参加者からの質問に答えた。質問に答える塩入久美子先生(写真左)と早川陽子先生(写真右)
2部 特別講演:アウトブレイクの気づきから対応まで−疫学を最大限に活用する方法− 座長:三条総合病院 感染管理認定看護師 小柳浩子先生 講師:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症疫学・制御研究部門 加來浩器先生
「アウトブレイクとは通常より多い患者発生のこと。感染管理者による『いつもと違う』という気づきが早期発見には重要です」と加來浩器先生。その際、疫学の3要素である「時」「場所」「ヒト」でデータを分析することが有効だといいます。そのためには、まず院内でのサーベイランス*2・システムを構築することが必要。目的、対象、指標、報告要領の観点からルールを決め、施設内全体で統一された方法によるサーベイランスの実施がポイントです。
サーベイランスには、インディケータ・ベース・サーベイランス(IBS)とイベントベース・サーベイランス(EBS)があり、IBSはインフルエンザやカテーテル関連血流感染の監視・分析に用いられています。EBSは新興感染症、バイオテロなど予想外のイベントへの応用が期待されるもので、迅速なリスク評価を行うことができます。加來先生は「疫学を感染対策に最大限に活用・応用してほしい」と訴えました。
*2 疾病の発生状況やその推移などを継続的に監視することにより、疾病対策の企画・実施・評価に必要なデータを系統的に収集・分析・解釈し、その結果を迅速かつ定期的に還元するものであり、疾病の予防と制御に用いられる。(CDC 1986)

展示されているニプロの製品に興味津々の参加者たち

セミナーが行われた燕三条地場産業振興センターリサーチコア
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2019年12月号 TiaraNo.125より転載しています。