
大阪府堺市にある堺市立総合医療センターと大阪労災病院、馬場記念病院が協力し「出前でレクチャー」という取り組みを行っています。これは、3病院に所属する専門看護師や認定看護師がもつ知識や技術を、地域全体で活用することを目的とするもの。地域に貢献したいそんな思いから始まった取り組みの様子をご紹介します。
専門看護師・認定看護師を活用し地域全体の医療・看護の質の向上を
その名のとおり講師が地域に出向き講義を行う「出前でレクチャー(以下、レクチャー)」。地域の病院や訪問看護ステーション、介護施設などからの依頼を受け、レクチャーに参画する3病院に所属する専門看護師*(CNS)や認定看護師*(CN)が講師となります。この取り組みは2017年4月から始まったもので、その発端は市内の看護部長会での話し合いでした。
堺市は市域がそのまま二次医療圏であるため、地域での医療施設や介護施設間のつながりが、市の医療を支える基盤になることはいうまでもありません。全国的傾向に違わず堺市でも高齢化が進んでいますが、患者さんは入院や退院を繰り返しながらも、住み慣れた地域で過ごすことを望んでいます。
これを受け、構築が進められている地域包括ケア体制には、市全体として市民の健康な生活を考え、市域の医療施設と介護施設全体で患者さんや利用者さんと語りあえるつながりが必要とされています。いま私たちにできることは何か──その思いを強めた堺市立総合医療センター副院長・看護局長の谷口孝江さんが自院の専門看護師にアイデアを求め、この取り組みが生まれました。
「スムーズな医療・看護の継続のためには、各病院・施設がより力をつけることが重要。CNSやCNのスキルを地域全体で活用する方法を考えました」と話すのは、堺市立総合医療センター慢性疾患看護専門看護師の田中順也さん。企画段階から稼働した現在もレクチャーに中心的にかかわっており、加えて大阪労災病院母性看護専門看護師の三宅知里さん、馬場記念病院感染管理認定看護師の森田恵美さんが各院の担当として取り組みを支えています。

地域に出かけて講義を行う「出前でレクチャー」

講義の参加者は10-50人で、時間は60-90分間。看護師を中心に医師や他職種、介護士などが対象となっている
* 日本看護協会による認定資格
ベッドサイドケアから倫理まで依頼内容によって講師を選定
講師として地域に派遣されるCNS・CNは3病院で合計66名に上ります。
「基本的に月ごとに担当病院を決めており、依頼の内容に合わせてCNSやCNを選定しています。担当病院に該当する領域の人がいないときは、残りの2病院から派遣します」(田中さん)
受付窓口は堺市立総合医療センター看護局で、「出前でレクチャー受付方法」の専用用紙により依頼を受け付けます。希望領域や研修対象者などの詳細を確認したうえで、担当病院の教育担当者へ連絡。教育担当者が調整して研修を担当するCNS・CNを決めます。そしてその後は担当するCNS・CNが依頼先と細かい打ち合わせを行い、研修の内容を決めていく流れになっています。
多くみられる研修テーマは「意思決定支援」「褥瘡・スキンケア」「精神疾患患者への支援」「がん看護」など。「乳がん患者のための補正下着について」といったより細かいテーマでの依頼もあります。
「感染管理や呼吸器関連など日常的に行われるケアについての依頼では、現場で今知りたいこと、悩んでいることなど具体的な内容を希望されることも多いですね」と三宅さんは話します。他院で講師を務めるのはレクチャーが初めてで、受講者の熱心さが身近に感じられるといいます。これは急性期病院のCNS・CNが地域の病院や訪問看護ステーション、施設の現状を知ることにもつながっているそうです。

各院の代表者は年2回定期的に集まるほか、必要に応じて打ち合わせをもつ

レクチャーの依頼は受け付け時に専用用紙によって内容を確認
地域へ貢献するだけでなく教える側も教えられることが
2017年度に4件、2018年度には16件の講義が行われており、レクチャーが地域に認知されてきたことがわかります。森田さんが所属する馬場記念病院では、取り組みに加わる以前にレクチャーを依頼したことがあるそうです。
「当院で乳腺外来を立ち上げたのですが、乳がん看護認定看護師がおらず、外来看護師が乳がん患者さんとのかかわりに悩んでいました。そこでレクチャーを依頼。すると受講後には看護師たちの看護が変化したのです。研修での学びを生かし、初診時や検査時などにも看護師が必ずかかわるようになり、その後のケアもスムーズになりました」(森田さん)
レクチャーを行った病院・施設からはお礼の手紙をもらうこともあるといいます。今後は、依頼先の実際の症例を検討したり、可能であれば演習も行いたいと3人は話します。自分たちの行っているケアが本当に適切なのか、迷いをもっている病院や施設のスタッフは少なくありません。そういう人たちにとってのベストなケアを探る手助けができればと考えています。
「レクチャーを行うことは、地域に貢献するだけでなく、教える側が地域から教えられることも多い。急性期病院が医療・看護を地域へとつなぐ際に必要な視点を得ることができます。レクチャーを行うことが自分たちの看護の見直しへつながることにも着目し、多くのCNS・CNにも携わってもらいたいと思っています」(田中さん)
今後もレクチャーを継続し、地域の医療・看護の底上げを図ると同時に、地域の病院や施設との連携を深めていくことを目指していくそうです。

レクチャーを支える各院の代表者。(左から)三宅知里母性看護専門看護師、田中順也慢性疾患看護専門看護師、森田恵美感染管理認定看護師
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2020年2月号 TiaraNo.126より転載しています。