
埼玉県総合医局機構では、県内に勤務する医療従事者を支援するために2017年から「地域医療教育センター」を始動させました。さまざまなシミュレーターや医療機器、仮想の病室や診療室を備えた専用の施設で、医療従事者が研修・講習会等の目的で利用するほか、センターの企画による研修も実施しています。年々利用者を増やしているその施設の実際をご紹介します。
医師の不足・偏在解消のため埼玉県総合医局機構を組織
高齢社会となり医療ニーズが高まるなか、医師不足・偏在はわが国における深刻な問題となっており、埼玉県もまた例外ではありません。しかし同県には国公立大学の医学部がないことから、行政がほかの機関と連携して医師の確保を図っていく必要があるとし、そのコントロールタワーとして埼玉県総合医局機構(以下、機構)が2013年に組織されました。行政のほか、埼玉県医師会、埼玉県立大学、県内医療機関、県内医科大学、関係団体が参画しています。
機構の取り組みは「医師の確保・派遣」「医師の支援」が2本柱です。
「医学生への奨学金の貸与、研修医・専攻医への研修資金の貸与、医師バンクの運営などの一方で、医師のキャリア形成支援、女性医師の復職支援、そして地域医療教育センターの設置・運営を行っています。事業ごとに、医師確保・派遣委員会、医師キャリア形成支援委員会、地域医療教育センター委員会を設け、参画している団体・機関の多職種の方々から意見をいただいて、内容を検討・実施しています。地域医療教育センターについては、看護職の視点も積極的に取り入れています」と話すのは、埼玉県保健医療部医療人材課主幹の川野辺健志さん。機構では、特に著しく不足する産科、小児科、救命救急センターの医師の充足を目指しており、奨学金や研修資金の貸与については、一定要件を満たすと返還が免除になります。制度の利用者は着実に数を増やし、2030年には制度を利用した医師は400名を数えると予測しています。

埼玉県内で勤務する医療従事者のための「地域医療教育センター」

センターの利用には所定の申請書による申請が必要
取材当日に行われていた「埼玉県専任教員養成講習会」の様子。看護教員を目指す皆さん
地域医療教育センターではリアリティある研修が可能
機構の取り組み「医師の支援」の象徴的な存在となっている地域医療教育センター(以下、センター)は、2017年にオープンしました。これは、県内医療機関に勤務する医療従事者のための教育・研修施設。教育・研修の方針として「医師の確保が困難な『産科』『小児科』『救急科』の人材育成」「在宅医療など多職種連携によるチーム医療に関する教育」「地域医療を担う県内医療従事者の研修の実施」を掲げています。医師に限らず、看護職、理学療法士、薬剤師などさまざまな職種の利用が可能です。
センターは、JRさいたま新都心駅と歩行者用デッキで結ばれている埼玉県立小児医療センターの8階に位置しており、交通の便に恵まれた立地です。講義・ディブリーフィング室、研修室、カンファレンス室、シミュレーター訓練室(仮想病室、診察室)から成り、用途に応じて使用することができます。
高規格シミュレーター、気管支・消化器内視鏡シミュレーター、呼吸音聴診シミュレーター、超音波診断装置などが導入されており、そのほかさまざまな医療機器を装備。特に、救命救急や集中治療などの高度医療教育・研修に活用できる高規格なものも含め、シミュレーターは160種余りを有し、リアリティのある研修が可能になっています。
「オープンから2年余りになりますが、利用件数は増えてきています。2017年度の272件が、2018年度には410件となり、1日1件以上利用されていることになります。利用人数も2018年度には1万4489人を数えました」センターの利用状況を説明してくれた地域医療教育センターの松村浩さんは、利用人数の内訳にも言及しました。研修医を含む医師が2017名、看護職が7146名、薬剤師が602名、そのほかの医療職が4724名で、看護職にも積極的に活用されていることを示してくれました。
「医師の場合は救急蘇生、縫合、マイクロ手術、超音波診断など、看護職は注射、吸引、体位変換、感染管理、救急蘇生などで利用されることが多いですね。当センターでは自主企画による研修も実施しています。その内容は多岐にわたり、多職種がメンバーとなっている地域医療教育センター委員会が年度ごとに計画しています」(松村さん)
2018年の実施例としては、小児2次救命処置研修(PALS)や母体救命公認研修(J-CIMELS)、内科救急研修(JMECC)などの協会・学会認定取得研修、医療安全研修(Team STEPPS)、急変患者対応シミュレーション研修、在宅医療研修、胎児心エコー勉強会、高規格シミュレーター教育プログラムなどが挙げられます。

学会認定資格取得のための「母体救命公認講習会」。医師、助産師、看護師らが受講

多職種が参加しての「医療安全講習会(Team STEPPS)」の様子
さまざまな用途での利用実績 看護職も積極的に活用を
センター内は白を基調とした明るい雰囲気。更衣室もあり、休憩などに利用できるラウンジを挟んで、研修スペースが効率よく配置されています。取材当日は、看護教員を目指す人のための「埼玉県専任教員養成講習会」が行われていました。2019年8月までに利用した団体数は145団体に及ぶといいます。
「県内医療機関の新人看護師研修や埼玉県看護協会による再就業技術講習会、多職種による症例検討会などさまざまなかたちで利用されています。看護職の皆さんにも学びの場としてどんどん活用してもらえたらと思っています」(松村さん)

実際の診察室を模したセンター内の研修室

(左から)松村浩さんと川野辺健志主幹
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2020年4月号 TiaraNo.127より転載しています。