

2020年初めに新型コロナウイルス感染症が確認されて以来、わが国でも日々感染防止対策を最優先に考えた施策が実施されました。そのなかで、感染拡大防止と重症化のリスク軽減に対する大きな武器となるのがワクチン接種。「東京ワクチンチーム(TVT)」は、そのワクチン接種を加速させるため、東京都医師会、東京都歯科医師会、東京都薬剤師会、東京都看護協会がチームとなり設立されました。そして、主に中小企業で働く人々を対象に、1年間にわたり実績を上げてきました。今回は、この4師会のリーダーがこれまでの活動を振り返りました。
東京ワクチンチームの誕生と活動に向けて思うこと
わが国では、2021年2月から医療従事者を対象としたワクチン接種が始まり、以後、高齢者や基礎疾患のある人、18〜64歳の人へと接種が進められました。そんななか、職域接種(企業や学校単位で実施する接種)が行われ、中小企業では医師や看護師の確保が難しいという現状がみられたのです。
「東京ワクチンチーム(TVT)」が発足したのは2021年6月。その始まりは、東京都医師会の尾?治夫会長が東京商工会議所の三村明夫会頭から「東京都内の中小企業でワクチン接種に遅れが生じている」という相談を受けたことです。そこで尾?会長が、東京都歯科医師会、東京都薬剤師会、東京都看護協会に声をかけ、チームとして取り組むことを提案しました。その背景には、以前この4師会で連携し受動喫煙防止対策を進めた実績がありました。


「同年4月から歯科医師によるワクチン接種が可能になり、取り扱いに注意を要する薬剤の管理をお願いできる薬剤師がいて、医師をフォローし自らも接種が可能な看護師も加えることができれば、大きな力になれるのではないかと考えました」(尾?会長)
歯科医師は、通常の治療で筋肉注射を打つことはなく、今回の措置は特例です。東京都歯科医師会の井上惠司会長は「話をいただいたとき、すでに東京都看護協会での講義や実技研修を受けた会員が約600名いました。その資源を役立てられればと思ったのです」と話します。
東京都薬剤師会の貞松直喜常務理事は「医療法上ワクチン接種はできないまでも、薬剤師として何かできないかと模索していた時期でした。ですから、 TVTの話を受け、永田泰造会長がすぐに参加を伝えました」と言います。薬剤の専門家として人々に安心を与えることを最大の目標としたそうです。
医師を補助する立場であり、通常業務でも注射を実施する機会の多い看護師も、筋肉注射の手技を用いたワクチン接種から新たな学びがあったと東京都看護協会の山元惠子会長*1は話します。「実施に際しては、歯科医師とペアとなって問診担当と打ち手として協力し合い、薬剤師のワクチン管理を得て接種に専念することができました」と、活動を振り返りました。
TVTが対応した接種者は、1回目・2回目で1万8797人、3回目が6500人に上り、合計2万5000人余りを数えています。チームが順調に稼働したことがうかがえます。


TVTの活動を経験して4師会として協働できることを
4師会では、TVTによる活動から、今後の連携も視野に入れていました。
コロナ禍で自宅に閉じこもりがちになった高齢者にフレイル*2が増えていることが気になっているという尾?会長。「フレイルで健康な歯が保てなくなると嚥下障害や認知力の低下につながる。また、服薬困難になると薬剤師の助けが必要になる。医師による治療はもちろん、訪問看護が求められるケースも増えます。これからは、専門職が協力しなければ、その人らしい生き方を適切に支援できないと感じています」と話します。これを受け、井上会長は「各地区の歯科医師会では訪問診療を行っており、すでに機材は揃っている」とし、今後はオーラルフレイル*3の予防に取り組みたいと意欲をにじませました。
貞松常務理事は、非対面がノーマルになるなか、より専門職間の情報交換・共有が必要になると述べました。
「薬剤師は、治療上の服薬指導をメインとしてきましたが、今後は地域包括ケアや治療後の健康サポ ートが大切になります。また、新型コロナウイルス感染症の後遺症や治療薬の副作用などまだわからないことも多い。今回のように連携し取り組んで行けたらと思います」
山元会長は、東京都看護協会による「オンライン面会支援事業」について触れ、「医療機関での面会が未だ制限されるなか、直接でなくても心が通い合う面会を実現させるなど、家族も含めた対策を4師会で連携して行えるといいですね」と話しました。
一方で、災害対策も4師会によるチームのテーマになると話すのは貞松常務理事。都市直下型地震がいつ起こるかわからないとされる現状を視野に入れたものです。尾?会長は「JMAT(日本医師会災害医療チーム)もあるので、一緒に活動できる仕組みづくりもしていきたいですね」と話します。さらに「東京都看護協会では災害時支援ネットワークシステムを活用し、災害支援ナースを派遣する体制を整備しました。現在約1000名が登録しています。今後もその育成を進め、多職種と協働していけるように準備することが使命だと考えています」と山元会長。
高齢化に伴い医療・介護を必要とする人が増加するなか、各職能団体が協働し支えることは重要です。 4師会のリーダーの皆さんは、TVTを経て、その思いを一層強くしたように感じられました。


*1 2022年5月取材時 *2 心と身体の働きが弱くなってきた状態 *3 口腔機能の軽微な低下や食の偏りなど。身体の衰えに結びつく
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2022年10月号 TiaraNo.139より転載しています。
