
公益社団法人東京都栄養士会では、都民の健康増進や疾病の予防を目指し、管理栄養士の活動の場を模索しながら、多様な取り組みを行っています。栄養講座や栄養相談など地域での事業を積極的に展開し、近年では離島へも活動を広げています。そのなかで、必要性が浮き彫りになったのが情報通信機器を利用した遠隔栄養食事指導。離島に限らず、今後より多くの場面での活用が期待される取り組みの内容をご紹介します。


継続が重要となる栄養指導続けられる仕組みづくりを
東京都栄養士会は、現在(1)災害時の栄養ケア、(2) 地域包括ケアシステムにおける栄養ケアを事業の中心に据え、力を入れています。離島に暮らす人々に対する栄養ケアに取り組んだ背景にも、(2)の動きがありました。
同会では、厚生労働省が行う栄養ケア活動支援整備事業などの支援も得て、さまざまな取り組みを行 っています。「地域住民に対する栄養療法を通じた支援事業」のなかでは、離島での栄養指導を始めています。2021年には7月と11月に4日間、利島(利島村)で栄養講座と個別栄養相談を実施し、指導人数はのべ44名を数えました。
利島は、東京都の島しょ部、伊豆諸島のなかにある島。伊豆大島として知られる大島(大島町)のすぐ南西に位置します。人口は320名(2022年7月1日現在)。診療所(医師1名、看護師2名)、保育園、小学校、中学校が1施設ずつあります。主に学校給食を担当する管理栄養士はいますが、高齢者に対する栄養指導の経験は十分ではありません。村から相談を受け、栄養指導を実施することになりました。
「栄養指導は継続することが大切。繰り返し行うことによって、定着し、継続していきます。しかし、離島は移動に時間がかかる。利島の場合、東京都内から大型船で所要時間約9時間。天候の影響を受けることもあります。このように離島での対面指導は、物理的にハードルが高い面がある。そこで次の段階として、情報通信機器を利用したシステムを考えることにしました」と西村一弘会長は話しました。


「ニプロハートラインTM」を利用し効率的な栄養指導が可能に
このようにして始まった遠隔栄養食事指導への取り組みは、栄養指導を必要とする患者さんに対し、ニプロハートラインTM(情報通信機器による遠隔診療等支援システム)を活用し、食事の写真やバイタルサインデータを共有しながら、対面で指導を行うもの。テレビ電話やビデオ通話による遠隔診療等と異なり、システム上で写真やデータが随時共有できるところがポイントです。患者さんが食事内容の写真をシステム上にアップしておけば、その写真をみて食事内容の評価が可能。定期的に測定しているバイタルサインデータもみられるので、必要に応じてチェックできます。このようにして事前準備ができるため、概ね初回30分、2回目以降は20分(以上)と限られた時間内で行う栄養指導が効率的に進められるようになっています。
利島で行った試験運用では、診療所の医師、患者さん、管理栄養士(西村会長)を結んで指導を実践し、順調に行うことができました。
情報通信機器を使っての栄養指導料は、2020年度診療報酬改定で一部、2022年度改定では初回から算定が認められるようになりました。そういう意味でも、情報通信機器による栄養指導はより導入しやすくなってきています。
離島ならではの特徴を踏まえ的確に評価できる人材の育成を
離島ならではの特徴を踏まえ的確に評価できる人材の育成をにくい地形です。ウォーキングを楽しむという感じではありません。娯楽も多いとはいえないため、出かける機会が限られ、どうしても活動が低下しがち。また、生活に必要なものは船での輸送に頼る部分が大きいので、常に食材が潤沢とは限らず、食事の栄養のバランスが保てないこともあります。こういった島の特徴を考慮して、村の人々の生活習慣に合った指導をしていくことが必要でした」と話します。
同時に、遠隔で的確な指導ができる人材を育成しなければならないともいいます。遠隔指導では、食事の写真を見て、栄養の質や量を正しく評価しなければなりません。そこには知識と経験が求められ、評価の精度をより向上させるための教育を行うことが大切になってくるそうです。同会では、栄養食事指導実務者研修会など、管理栄養士の栄養指導・栄養管理技術向上のための育成事業を実施しています。今後は、そのなかに遠隔指導に特化したプログラムがお目見えするかもしれません。
利島では、継続的な遠隔栄養食事指導にはまだ至 っていませんが、その試みは他の離島で花開く兆しもみえてきました。御蔵島(御蔵島村)や父島・母島(小笠原村)から同会に問い合わせがあり、どのような栄養食事指導が実施可能か、検討を行おうという動きもあります。
糖尿病をはじめ高血圧や脂質異常などの生活習慣病に加え、摂食・嚥下困難、低栄養(フレイル)、がんなど、栄養指導を必要とする患者さんは広がっています。栄養指導が介入することで、高齢者の介護度も変わってくるといい、介護度を上げずに状態を維持できれば、健康寿命を延ばすことにつながります。遠隔栄養食事指導への取り組みはその一助となるもの。同会では、その可能性を確かなかたちにしていこうとしています。
Interview 栄養士は栄養にかかわる専門職その力をもっと活用してほしい
話:公益社団法人東京都栄養士会 西村一弘会長

地域に求められる栄養ケアに向けて
今回ご紹介した遠隔栄養食事指導の取り組みは、私たちが現在力を入れている?地域包括ケアシステムにおける栄養ケアにおいて、一つの重要なツールになると思っています。地域包括支援センターのケアマネジャーに行ったアンケートでは、管理栄養士による地域での栄養評価や栄養相談に対するニ ーズが予想より多く、離島での栄養指導につながっていきました。現在は、糖尿病の重症化予防とフレイル予防を求められることが多くなっています。
専門職としての力を多職種連携に生かしたい
医療分野と同様に栄養ケアにおいても多職種連携は欠かせないものです。1人の患者さんや利用者さんを専門職が協力して支えることが、現在の医療・介護・福祉のあり方になっています。
管理栄養士が働く職域は7分野(行政、病院、学校給食、研究・教育、勤労者支援、地域活動、福祉)ありますが、栄養ケアの重要性と実績はまだまだ周知されていません。私たちがもっとアピールしていくことが必要なのだと考えています。そして、管理栄養士が各職域でもっと輝けるよう、ほかの専門職の皆さんとの連携の仕方を模索し、新たな取り組みに挑戦していくことが必要なのだと思います。看護師の皆さんは、栄養面で困ったこと、わからないことがあったら、ぜひ管理栄養士に声をかけてください。私たちの専門性を活用してもらえたら嬉しいですね。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年4月号 TiaraNo.142より転載しています。
