
社会の超高齢化、財政のひっ迫、人材不足……医療の厳しい行く末を考えたとき、その活用に期待が寄せられるのがDX*1やAI*2。第27回日本看護管理学会学術集会ランチョンセミナー「看護管理者として医療のこれからを考える−医療DX・AI活用に向けて−」(2023年8月26日 東京都千代田区・東京国際フォーラム)では、このDXやAIの活用に看護管理者としてどのように取り組んでいけばよいかを間瀬照美先生とともに考えました。これからの看護を考えるとき参考にしたい内容の一端をお伝えします。
*1 digital transformationの略称。デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変えること。
*2 arti?cial intelligence

進む技術革新により変わる医療にDXやAIは欠かせないもの
8年後には空飛ぶクルマが救急搬送やドクターカ ーに使用されるかもしれない──講師の間瀬照美先生(横浜市立みなと赤十字病院副院長兼看護部長)は、技術の革新とともに医療も変わることが予測されるとしました。そのうえで「看護管理者には、どうしたら持続可能な医療を提供できるのか、先見性をもって取り組むことが求められています」と述べました。
いまの日本の医療は多くの課題を抱えています。新型コロナウイルス感染症対策により国の借金は増加。苦しい財政状況にあり、今後の診療報酬改定も厳しいものになることが予測されます。看護職だけをみてもその確保は難しく、2024年の医師の時間外・休日労働上限規制開始を前にタスクシフトもままなりません。
間瀬先生は、そこで注目されるのがデジタル技術を活用したDXやAIの導入だといいます。人から人へのタスクシフトが限界だと考えられるいま、これからの医療を考えていくには欠かせないものだとして期待を示しました。

![[講師]横浜市立みなと赤十字病院副院長兼看護部長 間瀬照美先生](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/c2fcb7ed37924beb8fb9402cf40ee7ce/p4_3-c8b757ca9d39.png)

施設として取り組むDX化 横浜市立みなと赤十字病院の場合
引き続き、DXやAIの導入に向けた進め方について、間瀬先生は自院の現状を例に話を進めました。
同院でまず取り組んだのが、医療DX*3におけるインフラともいうべきWi-Fiの全館使用化(現在進行中)。また、遠隔診療によるレントゲン読影について東京に新たなサテライトを設置しました。さらに、起案書などの電子化を図り、データ保管をサーバからクラウドに移行することも決めています。
*3 保健・医療・介護を進める各段階において発生する情報やデータについて、共通化・標準化などを図ることで、国民自身による予防を促進し、良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること。
「入退院支援クラウドサービスや外国語対応アプリの活用なども行っています。一方、AIについてはまだ導入に至っていません。看護職の腰痛対策としてのロボットスーツと、院内メッセンジャーとしての自走式ロボットの導入を検討したのですが、現状では実用に適さず、費用面でも難しいものがありました」(間瀬先生)
ほかには、電子カルテの音声入力化、電子カルテに対応したスマートホンの導入、患者モニタリングの自動化なども視野に入れているといいます。
「しかし、これらの実現には多大な費用が発生します。設備修繕費や施設の改築・新築に伴う費用、増大する人件費などを抱える当院と同じように、多くの病院でも財源をいかに確保するかが大きな課題となっているでしょう」と間瀬先生は述べ、厳しい現状を明かしました。
これについて間瀬先生は、厚生労働省が進める「医療DX令和ビジョン2030」に触れ、国が医療DX化に本腰を入れ始めていることを強調。そこでは、行政だけでなく、医療界、医業界、産業界が一丸となって取り組んでこそ実現できるとしており、今後の展開を注視していきたいと話しました。


看護管理者はどのように取り組むか押さえておきたい6つのポイント
看護管理者としてはどのようなことを進めていけばよいのか、間瀬先生は、(1)教育、(2)設備・システムの整備、(3)ユーザビリティ、(4)セキュリティの確保、(5)コスト、(6)情報の標準化・PHR*4の6つを挙げて解説しました。「たとえDX化を進めても正しく使用しなければ効果は得られません。そのためにはシステムの理解や使用法のスタッフ教育が重要です。また、そのシステム・設備を漏れなく整えておくことも必須。使いやすさのための操作マニュアルや運用方法の整備も欠かせません」と間瀬先生。さらに、安全性を担保する危機管理対策を備えておくこと、電子カルテの標準化とPHRに向けて情報を管理することも必要になるとしました。費用の問題については、融資やクラウドファンディング、自治体や国の補助金など、資金の確保を模索する努力は続けなければならないと話しました。
さらに間瀬先生は、身近なDX化の一例として、スマートホンを使用しバイタルサイン測定値等を電子カルテに自動送信できる医療機器データ通信サポ ートシステムHN LINE ?(ニプロ株式会社)を挙げ、導入した場合のコストとメリットを具体的に数字で示しました。そして、仮定した条件のもとメリットがコストを上回るという結果が得られました。
「DXやAIの活用による業務の効率化、医療安全の向上は、患者さんに大きなメリットをもたらします。看護管理者は10年後の未来をみていかなければならない。しかし看護にはDXやAIには託せないものもあります。それを確実に伝えながら“未来の看護のために未来を変える”看護管理者を皆さんと一緒に目指していきたいと思います」と間瀬先生は述べました。
座長を務めた渡邊輝子先生(神奈川県済生会横浜市東部病院看護部長)は「私自身も、DXやAIの導入でバイタルサイン一つとっても『測定する』から『判断する』へと看護職の役割が変わっていくことを感じています。看護管理者として、変化を恐れずに進む姿勢が必要になるでしょう」と結びました。
*4 personal health recordの略称で、生涯型電子カルテのこと。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2023年12月号 TiaraNo.146より転載しています。
