
東京都の北多摩エリア南部にある医療法人財団慈生会野村病院は、同じエリア内の日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックと連携し、入院患者さんの口腔内の評価・治療・ケアを積極的に行っています。2013年から始まったその取り組みは、10年を超えた現在も継続中。コロナ禍を経て、新たなかたちへと進化させながら、患者さんの回復を後押ししています。その連携と取り組みの内容をご紹介します。



医科と歯科の思いが結びつき北多摩エリア南部で連携を開始
東京都三鷹市にある医療法人財団慈生会野村病院は、1953年の創立以来地域の医療を支えてきました。そんな同院でも、社会の流れに違わず患者さんの高齢化は進んでおり、口腔内環境に問題がある患者さんの入院が増えています。
「口腔内の汚染は、誤嚥性肺炎をはじめとするさまざまな全身疾患の要因になります。また、何らかの障害により咀嚼機能が低下し食べられなくなってしまうと、健康やQOLに大きな影響を与えます。高齢者にとって口腔内の環境を整えることは重要であり、これは今や医療には欠かせない考え方です」
こう話すのは太田勝子看護部長。この考えに基づき、同院では看護師による摂食嚥下ワーキンググル ープ(以下、WG)を中心に、入院患者さんの口腔内環境を整える取り組みを行っています。口腔ケアや食事介助技術などについてWGが検討を重ねながら勉強会を実施してきました。
同院がこのような取り組みを継続するなか、 2012年10月に日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック(以下、多摩クリニック)が三鷹市に隣接する小金井市に開院しました。多摩クリニ ックの菊谷武院長は「地域のなかに入って、地域に根差した歯科診療を行いたいと思っていました。摂食嚥下リハビリテーションを中心に、障害のある方や病気療養中で歯科治療が受けにくい方などの診療を、医科と連携を図りながら行いたいと考えていたのです」と話します。そのため、紹介を頼りにいろいろな地域連携会議に参加して、つながりをつくっていったそうです。
「そんなとき、野村病院の野村幸史理事長から『連携体制を構築して一緒にやっていけないか』と声をかけていただきました。迷いなく手を結ぶことにしました」(菊谷院長)

10余年を経てよりよい方法を検討口腔ケアの効果アップも目指す
こうして、野村病院の入院患者さんに対する多摩クリニックの介入は2013年8月から始まりました。この医科歯科連携は、10年余を経た現在も順調に進められています。コロナ禍には一時的に休止しましたが、この間に自分たちが行っている口腔内の評価・治療・ケアを見直しました。その結果を受け、2023年度からは新たな方法を取り入れ、患者さんにより有益な医療が届けられるよう動いています。
野村病院で現在WGの中心として活動しているのは金井里美看護主任。摂食嚥下障害看護認定看護師でもあります。「歯科の介入については、対象を回復期リハビリテーション病棟の患者さんに絞ることにしました。以前は、患者さんが入院する際に同意を得るかたちで進めていましたが、それだと同意が得られない場合介入ができない。治療目的の疾患に加えて診療を行うことになるので、患者さんにご理解いただくのは難しい面もありましたね」と話します。
対象病棟は絞りましたが、その一方で、入院患者さん全員に対し、看護師による口腔アセスメントを実施することにしました。アセスメントには多摩クリニックで用いているOHAT(オーハット)*を採用。共通のツールを使用することで、週に1回(金曜日)来院する多摩クリニックのスタッフは、そのデータをもとに診療・処置を効率よく進めることができます。また、アセスメント結果から患者さんの問題点を共有でき、看護師はより効果的な口腔ケアにつなげることができます。
「高齢患者さんの場合、認知機能の問題などでうまくケアが行えないこともあります。口を開けてくれないなど実施上の問題点については、看護スタッフから聞き取りを行い、WGが勉強会を開いて、その解消に努めています」(金井主任)
野村病院と多摩クリニックでは、月に1回、医科歯科連携にかかわるスタッフによるカンファレンスを行い、症例を検討するなど定期的な振り返りを行 っています。多摩クリニックは、高齢者の口腔内の状態と疾患の関連性などを野村病院のスタッフに伝えているとか。「再入院のリスクを減らす退院指導に役立ててもらえるのではないかと期待しています」と菊谷院長は話していました。
* Oral Health Assessment Tool。オーストラリアの歯科医師Dr.Chalmersらが要介護高齢者用に開発した口腔アセスメントシート。口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8つの項目についてスコア化して評価する。東京医科歯科大学の松尾浩一郎教授が日本語版(OHAT-J)を作成。



連携を通して得たものをベースにこれからも進化し続けたい
野村病院と多摩クリニックが連携の先に何を目指しているのか、最後にうかがいました。
「高齢者の健康状態を維持・改善するためには食べることが重要。そして食べるためには『食べられる口』を保たなければなりません。入院中に患者さんを少しでもよい状態にして在宅にお返しできるよう、何をすべきか追求し続けたいですね」(太田看護部長)
「野村病院との取り組みが、精神科や神経内科、看取りを行う訪問診療との連携にもつながっています。私たちがどのような役割を果たせるのか、それぞれの連携モデルを構築し地域に伝えることが、大学附属医療機関としての務めだと思っています」(菊谷院長)
診療科を超えたこの連携は、両者のこれからの歩みにも確かな力を与えてくれているようです。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年4月号 TiaraNo.148より転載しています。
