
第26回日本医療マネジメント学会学術総会において、ランチョンセミナー「医療経営トピック〜デジタル化の事例をふくめ〜」(2024年6月22日 福岡県福岡市・福岡国際会議場/ニプロ株式会社共催)が行われました。講師を務めた長英一郎先生が、自身で足を運んだ先駆的・特徴的な取り組みを行っている医療機関を紹介。その様子をリポートしながら、これからの医療経営に求められるヒントについても解説しました。その内容をお伝えします。
![[座長] 大坪俊夫 先生 福岡赤十字病院 副院長](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/45d0c2c856094a01a27c8392b1beb159/02-2-78252022ac4c.png)
[座長]
大坪俊夫 先生 福岡赤十字病院 副院長
![[講師] 長英一郎 先生 東日本税理士法人 代表社員・所長](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/de61e57e6e7048098b52f86ae1df0f6d/03-2-7ca0ef21635a.png)
[講師]
長英一郎 先生 東日本税理士法人 代表社員・所長
進む医療のデジタル化ネパールの病院でも遭遇
「みなさん、こんにちは」──座長を務める大坪俊夫先生(福岡赤十字病院副院長)からの紹介を受け、会場前方にあるスクリーンから話しかけたのは生成AIで作られたアバター。講師である長英一郎先生(東日本税理士法人代表社員・所長)は、まず自らのアバターを受講者に見せることで、今回のセミナ ーで取り上げるデジタル化の進化を示唆しました。そして、ネパール視察で訪れた現地病院で、予想以上にデジタル化が進んでいた現状も紹介。なかでもパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)*1は、患者さんと医師の双方が自分のスマートフォンで内容を確認できるようになっており、その情報は日本よりも詳細だったといいます。この際長先生は、近年外国人材の雇用先として人気が高いベトナムやインドネシアに代わり、今後はネパールやミャンマーが有望になってくるという予測も示しました。
*1 病院や薬局ごとに保存・保管している個人の医療データ。情報連携技術のモデル構築にも活用されていく動きがある。

医療が抱える問題解決のため現場が行っている取り組みの事例
長先生は、引き続き国内で行われているさまざまな取り組みをリポートしました。
(1)病院給食のセントラルキッチン化
2024年診療報酬改定で「入院時の食費の負担額の見直し」が図られたものの、病院給食の現状には厳しいものがあると長先生。調理員不足が深刻で、委託先が給食業務から撤退するといったことは少なくないといいます。そのようなかで、セントラルキッチンの導入が進んでいる様子を紹介しました。ニュ ークックチル方式*2では食事を冷凍で配食することから、食事の提供時間にしばられず調理員の勤務時間を9時〜17時など一定にすることが可能に。そのため調理員が確保しやすく、病院側が調理員を雇用する必要もありません。また、コスト重視の一方で、食事の楽しさを重視し外食産業の会社によるセントラルキッチンを選択することで、メニューを工夫しサービス向上を図った例もあるといいます。
(2)稼働率を上げる取り組み
さまざまな取り組みにより、入院ベッドの稼働率と同時に外来の稼働率を上げている病院の事例が紹介されました。まずは、病院案内や入院案内などデザイン性・機能性の高い広報ツールの提供、面会の時間制限の撤廃、地域の農家によるマルシェの定期開催などを通して、かかりつけ医として人々との信頼を深め、結果的に入院希望を増やしているH病院(福岡県)の例、そして、他施設とのオンライン診療に全身状態が観察可能な大画面テレビを用いて実際に近い診療を行っているO病院(佐賀県)について話をしました。このとき、医療機関への導入が進むコマンドセンター*3についても話題を提示し、稼働率を可視化することでも職員の目標意識が高まるとしました。さらに、看護師が立ち合うことで精度の高い遠隔診療を可能にし、夜間救急など医師の業務が立て込んでいるときに実施しているY病院(佐賀県)の例も紹介しました。
最後は稼働を低下させないために、防災に向けて設備投資を行ったT病院(福岡県)について話しました。同院では、豪雨被害によってMRIやCTなどの高額医療機器を浸水させた経験から、止水壁や止水板を整備し水害への備えを強化しています。
(3)アメーバ経営の導入
アメーバ経営は、組織を小さな集団(アメーバ)に分け、その集団ごとに独立採算で運営する経営手法です。これを医療機関として導入しているS病院(福岡県)の例を紹介。例えば、看護部門は病棟単位、その他はリハビリ部門、臨床検査部門のように細分化し、部門ごとに利益を図ります。働く人員の時間あたりの付加価値(労働生産性を示す)を経年比較しながら、職員のコスト意識や業務価値の向上、業務方法の工夫を産み出しています。「導入は簡単ではありませんが、システムを構築できれば効果が見込める」と長先生は話しました。
*2 調理済みの食品を短時間で冷却し、チルド状態(0〜3℃)で保存した後、再加熱して提供する調理システム。
*3 電子カルテなどの院内情報システムに紐づくデータをリアルタイムで分析・可視化し、必要なケアをタイムリーに提供するために管制塔としての役割を果たすシステム。



生成AIの機能を検証しデジタル化の可能性を実感
長先生の話は、これまでの事例のなかでも触れてきたデジタル化の話題へと続きました。デジタル化はマンパワーを補うために今後の医療経営に欠かせないものとし、アメーバ経営でも活用されているRPA*4について解説。RPAは、人間の手では時間が掛かってしまう作業をソフトウェアロボットに代行させて業務の効率化を図ります。S病院では300部門の実績表を3時間で作成しているといいます。最近は、 AI技術によって人間の判断が必要な複雑な業務も自動化できるようになってきています。
セミナーの冒頭で生成AIの機能を示した長先生は、最後に当日の録音音声から生成AIにセミナーの議事録を作成させる試みを行いました。使用したのはGemini 1.5 Pro(Google)。どのような内容にしたいか指示を与えることで、希望に沿った議事録が作成可能です。受講者はその様子をリアルタイムで確認することができ、セミナーは熱気を残して終了となりました。
*4 事務的業務を中心に、単純な繰り返し作業をはじめとした定型業務を自動化するもの。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年10月号 TiaraNo.151より転載しています。
