
輸液・シリンジポンプのDX化が現場にもたらす効果〜ポンプとナースコールを連携させることにより生じる価値〜
2024年度診療報酬改定で医療整備体制加算が新設されるなど医療DX*1が推進されるなか、医療現場で行った導入例についての検証結果を報告するランチョンセミナー「輸液・シリンジポンプのDX化が現場にもたらす効果〜ポンプとナースコールを連携させることにより生じる価値〜」が第55回日本看護学会学術集会で行われました(2024年9月27日 熊本県熊本市・熊本城ホール)。昭和大学横浜市北部病院の2名の講師がそれぞれの立場・視点から行った報告をご紹介します。

会場内は最後まで熱気にあふれていた

告吉ゆかり先生
独立行政法人 地域医療機能推進機構 人吉医療センター 看護部長

栗山一葉先生
昭和大学横浜市北部病院 看護師長

柿沼浩先生
昭和大学江東豊洲病院 臨床工学室 技士長
医療の現場において医療DXの導入はすでに始まっていますが、その内容や進め方は各医療機関によ ってさまざまです。昭和大学横浜市北部病院では、手術ロボットや決済の自動化、遠隔診断・治療などを実施しており、服薬支援ロボットの導入も決まっています。このようななか、同院では看護業務の効率化の方法として輸液ポンプとナースコールの無線連携について効果を検証しました。
検証を行った病棟は内科と外科が混合した急性期病棟で、 2023年度平均病棟稼働率90.6%、平均在院日数8.65日とベッド稼働率が高く、診療科が混在することから患者さんの年齢や重症度が幅広くなっています。それらに建物の構造上の影響や人員配置などの理由が加わり、アラーム音が聞き取りにくい、移動距離が長く対応に時間がかかるなど、輸液ポンプのアラーム対応には課題が生じていました。
そこで、課題解決の方法と業務の効率化を探るため検証を実施するものとしました。

参加者は講師の話に熱心に耳を傾けており、医療DXについての関心の高さをうかがわせた
昭和大学横浜市北部病院 看護師長 栗山一葉先生
栗山一葉先生は看護師の立場から、当該病棟に勤務する看護師の心理状態を中心に取り組みの効果をみていきました。
まずは無線連携を行う前後で看護師へのアンケートを実施。「アラーム内容が遠隔でわかること」に対し、事前アンケートでは87.5%の人が期待しており、事後アンケートでは便利と答えた人が93.1%に増え、「速やかに対応できるようになった」という声が聞かれました。一方で「患者さんと輸液ポンプの紐づけ作業が煩雑」「ポンプ返却時の紐づけ解除作業を忘れる」などの声があったため、紐づけ作業とその解除を看護補助者に委譲。タスクシフトを行いました。
栗山先生は、こうした取り組みの前後で「患者さんへの貢献につなげられる」が 10.7%増加、「アラ ーム対応への焦りを感じる」が17.3%減少という回答結果を示し、無線連携の実施が看護師の意識に影響を与えたことを示唆しました。また利便性以外にも「チーム内での業務が調整しやすくなった」「予測して輸液管理ができるようになった」「対応が速やかになったため、特に夜間はほかの患者さんに迷惑をかけることが少なくなった」などケアの質向上につながる声が聞かれたことも紹介しました。
これらの結果を踏まえ、医療DXは現場の効率化だけでなく、患者さんの利便性や医療の質の向上に大きく貢献することを実感したという栗山先生。「医療DXは看護師のスキルを磨く機会を増やし、ケアの質を向上させるだけでなく、労働環境の改善にも寄与する。これによって看護師としての専門性をさらに高められるのではないかと思います」と結びました。

栗山一葉先生
昭和大学江東豊洲病院*2臨床工学室技士長 柿沼浩先生
臨床工学技士である柿沼浩先生は、看護師のアラームへの対応時間に着目して取り組みを分析しました。
当該病棟では、1カ月あたりのべ800〜 1200回のアラームによる呼び出しがあり、そのなかで回数が多い輸液完了警報、閉塞警報、気泡警報について、連携前後での変化を評価しました。警報発生から解除までを対応時間として平均対応時間を比較したところ、いずれも連携前後での対応時間が短縮。輸液完了警報と閉塞警報については有意差*3があると判断されました。日勤帯・夜勤帯別の比較についても同様でした。
「データから閉塞警報に対しては特に早い対応がなされていることがわかります。この警報の場合アクシデントも考えられるため、看護師は警報内容を確認して迅速に動いたものと考えられます」と柿沼先生は述べ、看護師が警報内容を確認して優先的に動いたのではないかと推測しました。
また、月あたりのナースコールの呼び出し数のうち、輸液ポンプのアラームによるものが6〜9%を占めていることが連携により確認されました。柿沼先生は「患者数が多い、重症度が高いなどのケースでは、看護師が負担を感じることが推測される割合だと思います」といい、連携によって警報内容を共有することでチームでの対応が可能になり、負担軽減につながるとしました。

柿沼浩先生
これらのことから、輸液ポンプとナースコールの連携は、看護師の業務効率が上がる、対応時間が速やかになるなどの効果が認められると柿沼先生。さらに、電子カルテと連携させることで、一層の業務効率アップが期待できると述べました。
講演後、会場からは輸液ポンプの設置状況や管理の方法、コストなどについて質問がありました。さらに座長を務めた独立行政法人地域医療機能推進機構人吉医療センター看護部長の告吉ゆかり先生が、新しい取り組みを行う際に上がりがちなネガティブな声への対応の工夫や、連携による効果について感じていること、情報セキュリティなどについて、両講師に質問を行いました。
そのうえで「医療DXについてはどの病院でも考え、取り組んでいかなければならない問題です。よりよい病院環境や看護環境をつくっていくために、本日の検証をぜひ参考にしてほしいと思います」と会場に呼びかけました。

会場からの質問にも丁寧に回答

告吉ゆかり先生
*1 保健・医療・介護を進める各段階において発生する情報やデータについて、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化などを図ることで、国民自身による予防を促進し、良質な医療やケアを受けられるよう社会や生活の形を変えること。
*2 検証当時は昭和大学横浜市北部病院に在籍。
*3 統計上、ある事柄が起こる確率が偶然であるとは考えにくいこと。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年4月号 TiaraNo.154より転載しています。
