
医療DX*1 の推進が加速するなか、医療機関ではさまざまな取り組みが模索されています。そして新しい試みの導入には効果の検証が必要。第55回日本看護学会学術集会ではランチョンセミナー「通信機能付きバイタル機器を用いたデータ通信サポートシステムの看護業務への効果と課題」(2024年9月28日 熊本県熊本市・熊本城ホール)が行われました。熊本大学病院の中西智子先生による調査結果についての発表をご紹介します。

産学連携制度を活用した通信機能付きバイタル機器の評価検討
今回の発表は熊本大学の学術コンサルティング制度による検証結果を活用しています。中西智子先生(熊本大学病院看護部情報担当看護師長/医療情報技師)は「学術コンサルティング制度は、企業などの幅広い課題・要望に対し、熊本大学の教職員が助言や指導、新事業の創出支援、技術調査、課題解決を行う新たな産学連携制度です」と説明し、今回実施した通信機能付きバイタル機器(HN LINE?/ニプロ株式会社)に対するコンサルティングの目的について「IoTを用いたバイタル記録の自動化が看護業務の効率化と医療安全面に寄与するかを評価検討すること」としました。また、今回の発表については「HN LINEが有する5つの機能(バイタル/早期警告指示管理、血糖管理、輸液管理、心拍管理、身長・体重連携)のうちのバイタル測定(バイタル/早期警告指示管理)に対する検証部分のみを抽出した」としました。

![[講師]中西智子先生<国立大学法人熊本大学病院看護部 情報担当看護師長>](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/144da389ea7947b0bffecf399c75277e/nakanishi-55beab498f23.png)
調査を行ったのは、高度急性期医療を提供するA病院。4病棟の111名の看護師と1万5294名の患者さん(入院期間:2023年5〜6月、8〜9月)が対象となっています。通信機能付きバイタル機器の利用は初めてで、2023年6月に操作説明会を行い、7〜12月にHN LINEを各部署に5台ずつ導入して調査が実施されました。同院では、看護師2名がペアで患者さんを担当しており、検温では1人が測定、もう1人がパソコンまたは携帯端末で記録を行っています。
中西先生は、機器導入前のバイタル値の記録状況、導入後の機器利用率、業務の効率化、業務時間の変化などについての詳細な調査結果を述べ、導入前後に行った看護師に対するアンケート結果についても比較しました。


機器導入による看護師のベネフィットと患者さんのリスクの可能性
これらの調査結果として、中西先生は「機器の導入によって、記録の効率化と誤入力・入力漏れについて明らかな改善を認めました。また、時間外記録時間の割合が削減しました」と述べました。その一方で、時々発生した通信速度の低下や端末起動エラー、送信/認証エラーなどについては看護師からの改善要望があり、メーカーによって機器やシステムの改良が実施されたことを報告しました。
さらに、中西先生は機器導入による看護師のベネフィット*2 と患者さんのリスクについて述べました。
「誤入力や入力漏れが減り、適時記録が可能に。さらに、患者誤認を防ぎ、業務の効率化が図れる。このように看護師にとってのベネフィットは多いでしょう。しかし、ケアの改善が行われないままラウンド時間が短くなった場合には、患者さんの状態判断に負の影響が生じるリスクがあると考えられます」
これを踏まえ、今回調査の対象とならなかった機能の早期警告指示管理にある「早期警告スコア(NEWS)」を活用することによるリスク軽減の可能性にも触れました。
最後に今回の調査について、「看護業務効率化取り組みガイド」(日本看護協会)を参考に考察を述べ、効果が認められる評価の視点として、倫理的な視点(バイタル測定中の患者コミュニケーションが容易に)、医療安全(記録の正確性と適時性の向上。患者誤認の削減)、働きがいの視点(看護業務効率化に対する看護師の満足度の向上)、費用対効果(時間外労働時間[記録時間]の短縮)を挙げました。また、看護の専門性や法律的、制度的な視点などほかの評価項目と併せて、それぞれの課題についても明確にしました。

中西先生の発表を受け、座長を務めた熊本県看護協会会長の本尚美先生が会場に呼びかけたところ、多くの質問が上がりました。
〇同様の機器を使用した記録の取り組みが定着しない現状がある。よい働きかけを教えてほしい。
中西先生:機器の操作に手間取ったりエラー体験が生じたりするとネガティブな反応につながりやすい。管理者も巻き込んで先導してもらうほか、エラーが起こった根拠を示すことも取り組みに向けた動機づけになると思います。
〇導入を予定しているが、業務を簡便にすることで看護師のアセスメント能力が下がるのではという危惧がある。うまくバランスをとるにはどうしたらいいか。
中西先生:急変予測、急変対応が一番問題になってくると考えられます。機器で得た情報を利活用するという視点からの新たな知識やBLSについてのシミュレーション研修など教育をしっかり行うことが大切ではないかと思っています。
このようなやり取りを受け、本先生は「看護職が限られた人材でその専門性を発揮できる働き方を推進し、質の高い看護を提供し続けるためには、ICTの活用はもう欠かせないものになっています。データを示し、その結果をベネフィットとリスクの視点で考察した中西先生のお話は、参加されたみなさんのIoTの導入・定着を進めるための手掛かりになるのではないかと思います」と講演を結びました。
*1 保健・医療・介護を進める各段階において発生する情報やデータについて、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化などを図ることで、国民自身による予防を促進し、良質な医療やケアを受けられるよう社会や生活の形を変えること。
*2 英語の「benefit」が語源。「利益」「恩恵」「便益」を意味する。心理的・機能的な利益も含まれる。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年6月号 TiaraNo.155より転載しています。
