
第29回日本看護管理学会学術集会においてランチョンセミナー「『病人を観察する』とは〜観察したことを黙認するな、行動せよ/看護師判断力の強化とシステムの活用〜」が行われました(2025年8月23日 北海道札幌市・グランドメルキュール札幌大通公園)。
東京慈恵会医科大学附属病院から2名の講師が、看護師の観察と判断をサポートするシステムの活用を通して得られた効果等について講演。その内容をお伝えします。




東京慈恵会医科大学附属病院では、2021年の新型コロナウイルス感染症専用病床の確保のためICU入床予定の患者さんの一部が一般病棟で管理されることになり、患者さんに不利益がないようRRS*1担当に集中ケア認定看護師を専従で配置してチームの強化を図りました。同院のスタットコールは年におよそ40件、RRS発令件数は20件程度でした。
同院では看護師の平均年齢が27.9歳で、病棟勤務の7割が看護歴5年目以下。多くがコロナ禍により十分な臨地実習が受けられず、入職後自ら実践力や判断力を鍛えている発展途上の状態です。そこで、看護師の経験不足を支援したいと考え、通信サポートシステム(HN LINE?ニプロ株式会社)の試験運用を行い、どのような効果があるか確認することにしました。このシステムでは、ベッドサイドで使用する医療機器のデータが計測時に転送・評価されます。2023年度にRRS発令件数が多かった3病棟について、2024年2月19日〜3月8日の間に各病棟で1週間ずつ運用を実施しました。
*1 rapid response systemの略で、院内迅速対応システムと訳される。重篤な症状を未然に防ぐため、多職種によるチームが入院患者の悪化の予兆を早期に捉え介入する。東京慈恵会医科大学附属病院では2012年から導入。
「病人を観察する」とは観察したことを黙認するな、行動せよ 東京慈恵会医科大学附属病院看護部長玉上淳子先生
玉上淳子先生はまず、「認識の三段階構造*2」をもとに、看護師の行為には認識が欠かせないと述べました。そして看護師には、実際に起こっている現象を受け止め、多くのなかから最適な情報を捉えて認識し、看護技術を選択して実践するという思考過程があるとしています。「現象を認識することが実践に結びついており、認識するためには観察する力が必要。新人教育ではそれらを訓練することが重要になります」といいます。
さらに、今回使用したシステムではNEWS*3による数値化が行われることにも触れ、試験運用を体験した看護師からは「NEWSの結果と自分たちの認識が一致していた」「数値を伝えることで医師と共通認識がもてた」という声が聞かれ、RRSの発令件数も50〜70件に増えたことを報告しました。玉上先生は運用の目標として「患者さんの状態が客観的に把握できるようになる」「自身の観察に自信が持てるようになりRRSへの依頼につながる」という2点も掲げており、その成果が得られたことを示しました。
「何かが変と感じても、行動に移せず個人のなかで止まってしまっていた情報が、数値化されることで行動につながる。システムの活用はそのきっかけにもなったと思います」と玉上先生は述べ、今後も「観察・認識したことは黙認せず、行動につなげること」を課題として看護師たちに提示していきたいと述べました。
*2 庄司和晃著「科学的思考とは何か」(明治図書,1978)による認識の三段階連関理論
*3 national early warning scoreの略。急性期疾患の予後予測スコアでバイタルサインを数値化して急変リスクを示すもの。
「病人を観察する」とは看護師判断力の強化とシステムの活用 東京慈恵会医科大学附属柏病院*4主査右近好美先生
試験運用を経てNEWSによる数値化が看護師の判断を後押しすることを実感した右近好美先生は、システムに搭載されていたNEWSを同院が導入を進めてきたNEWS2*5に置き換えて数値化を継続していくことにしました。NEWS2の活用に際しては「『スコアリング(数値化)する』『スコアに応じて対応する』『スコアを再評価する』という3点を押さえることが患者さんの変化を見逃さず対応するための重要なカギになります」と右近先生。さまざまな事例を通し、NEWS2による数値化と看護師による観察が患者さんの予後を変えるということ改めて強く感じたといいます。 右近先生は、その一方で数値化の限界についても述べました。「表情、顔色、姿勢、呼吸音、訴えなど、患者さんの状態には数値ではわからないものがあり、看護師が見たり、聴いたり、五感でキャッチした情報が重要になる。NEWS2ではわからない変化を補うのが観察なのです」といい、看護師の直感と観察がNEWS2の数値が0だった患者さんの生命の危機を回避した事例を紹介しました。 「患者さんに対し『何かおかしい』と感じる看護師の直感は過去の観察経験の積み重ねに基づくもので、単なる勘ではありません。それを他者に的確に伝えることは難しいことですが、観察を繰り返し、言語化し、周囲と共有して、患者さんの変化の兆候を捉え、何が重要なのかを見極められるようになることが、行動や報告につながります」と右近先生は話し、RRS専従看護師として看護師への教育にも携わっている立場から、判断力はトレーニングによって培われることを訴えました。 右近先生は、最後に「数値からみえるリスクと観察で読み取る変化を掛け合わせることで、患者さんの状態が正確に捉えられ、予後の改善を可能にするのだと思います」と結びました。 講演を受け、座長を務めた札幌医科大学附属病院副院長・看護部長の團塚恵子先生は「経験を補うため通信サポートシステムを活用する一方で、看護師の観察力や判断力を強化していく必要性を感じました。気づいたことを黙認せず、チームで共有し、行動につなげる姿勢が患者さんの安全と確実な診断につながるのだと思います」と述べ、システムと看護の力を両立させることの大切さを確認してセミナーを締めくくりました。
*4 試験運用時は東京慈恵会医科大学附属病院に在籍。*5 NEWSの更新版で、2型呼吸不全患者の評価がより正しくできる。





本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年1月号 TiaraNo.158より転載しています。
