
第6回日本フットケア・足病医学会年次学術集会で、ランチョンセミナー「患者のやる気を引き出す検査データの活用」が行われました(2026年2月27日 大阪府大阪市・ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター/共催:ニプロ株式会社)。
足疾患の治療・ケアはさまざまな診療科、多職種によって行われます。足疾患に専門的にかかわる橘優子先生が、多くの医療者に役立つより実践的な講義を展開しました。
患者さんの理解を深めることでアドヒアランス=やる気を高める
講師の橘優子先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院足の疾患センター 副センター長)は、「アドヒアランスという言葉はご存知でしょうか。これは納得して自ら治療に取り組む*1ということ。つまりやる気です」と述べ、アドヒアランス=やる気を高めるために着目すべき点から話を進めていきました。
シンガポールでの研究*2によると、アドヒアランスに影響を与える因子として、患者関連因子、社会経済的因子、治療関連因子、医療システム因子が挙げられています。橘先生は「介入が一番困難ですが、介入によって変えられるのは患者関連因子ではないかと思います」といいます。特に同因子に含まれる「病変に対する洞察力」は重要で、自分の状態や放置した場合のリスクを自分事として深く理解している状態のこと。リスクの主観的認識、治療メカニズムへの納得、行動が治癒につながるという自己効力感という3要素で構成され、治療へのモチベーション、治療に対する認識と強い関連性があります。
「つまり患者さんは『このままだとヤバいからこうしろと言われていて(治療提案)、それをやったらよくなる(無事でいられる)ということか』と合点がいったら、行動に移せるということ。この思考のプロセスがないと行動にはつながりません」(橘先生)
さらに、同研究ではアドヒアランスを高めるための支援として、多職種チームによる心理的サポート、テクノロジーによる可視化、社会的サポートを推奨しています。橘先生は、テクノロジーによる可視化について「知覚や痛みを失った患者さんが、自分の状態を把握するためにツールを活用すること」と述べました。
足病変はトラブルの複合体で、自覚のない症状が積み重なっていくことで起こります。糖尿病足病変には、しびれや変な感覚など自覚できる陽性症状と、感覚低下やアキレス腱反射の消失など自覚のないまま生じている陰性症状があり、陰性症状は進行すると知覚が消失するので注意が必要となります。「医療者は進行を抑制するために対応するわけですが、患者さんにしてみれば、自覚のないものに対してああしろこうしろ言われることになる。確かにそれを継続していくことはなかなか難しいでしょう。ですから、症状を見える化することで患者さんに自覚を促すことが有効だと考えています」と橘先生は話します。
*1 WHO(世界保健機関)では、アドヒアランスについて「患者が医療従事者の推奨する治療方法に同意し、行動が一致すること」としている。
*2 Gwyneth WY Ng,et al:A Systematic Review and Classification of Factors Influencing Diabetic Foot Ulcer Treatment Adherence,in Accordance With the WHO Dimensions of Adherence to Long-Term Therapies. The International Journal of Lower Extremity Wounds, 2024.
![[座長]](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/3682dfb31daf4cea945cbe23ba88691f/tanaka-22b398d4-40d.png)
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検査結果をどう読むかに加えデータの“見える化”を実施
引き続き、データを得るのに必要な検査の解説をしていきました。下肢虚血の状態を知るために行うABI検査、CAVI検査、サウンドドップラー検査、SPP検査、神経機能をみるタッチテスト、振動覚、アキレス腱反射、DPNチェックについて、データが表す事象とその読み取り方が具体的に示されていきました。
神経機能の検査では、知覚・痛覚定量分析装置(Pain Vision?/ニプロ株式会社)を使用することで、これまで客観的評価が難しかった「痛み」を可視化し、そのデータを治療に活用している例も紹介されました。中田実千代先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院足の疾患センター 臨床検査技師)が壇上でデモンストレーションを実施。会場内から希望者が登壇、被験者となり実際に装置による測定を体験しました。
この装置は、電気刺激を用いて痛みの強さを数値で示すもの。痛みの程度を数値によって確認でき、処置前後のデータを比較することで治療の効果を確認するツールにもなるといいます。橘先生は胼胝(タコ)による激しい痛み訴える患者さんや足底腱膜炎の患者さんの例を示しました。
さらに、体幹機能検査として平衡機能計による測定を紹介。図に現れた結果から足底圧、重心動揺、前後バランスについて症状を読み取りました。橘先生は「患者さんに実年齢よりも高いバランス年齢であることを伝えると、多くの人がリハビリのスイッチが入る。そしてリハビリに取り組んで結果が返ってくると、それがさらに意欲につながる。データを伝えることは、治療やケアに有益であることがわかります」と述べました。


複雑な足病医療への取り組みには患者さんごとに異なる対応が必要
最後に、糖尿病足病変では検査データをどのように絡めていけばよいかという話がありました。
糖尿病合併症の発症の仕方は人によってさまざまで、同じ罹病期間でも神経障害のある人とない人がいます。糖化と高インスリン血症がその主な要因で、それぞれが細胞の機能低下や神経の変性・脱落をもたらすとされています。合併症の生じ方の違いは、これらを伴う高血糖の状態にどのぐらいさらされていたかということが大きいと橘先生は話します。3つの症例を比較し、診断から透析導入に至るまでの期間、あるいは導入になるのかならないのかなど、未治療期間の長さや診断後の治療・ケアが患者さんの経過(時間軸)の違いにかかわることを示しました。
橘先生は「患者さんには現在の検査結果を事実として伝えるとともに、患者さんの背景や過去の状況から今があることを説明し、さらにここから先の未来を予測し、今後取るべき行動を提案していく。そのようなかかわりをしていきたいと思っています」と述べました。そして、医療者のかかわりと検査データにより、患者さんの自己理解を進めることは可能で、病態が複雑な足病医療においては、検査の活用が診断と治療を進めるうえでの近道となると締めくくりました。
座長を務めた田中康仁先生(医真会八尾総合病院足の疾患センターセンター長)は、知覚・痛覚定量分析装置について治療への具体的な導入方法を質問するなど、自らも関心の高さを示し、「データも技術の一部となります」とデータ活用の有益性を唱え、セミナーを閉じました。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年6月号 TiaraNo.161より転載しています。
