
第28回日本医療マネジメント学会学術総会においてランチョンセミナー「今、看護にとわれるもの」が開催されました(2026年5月30日 愛知県名古屋市・ポートメッセなごや 交流センター/共催:ニプロ株式会社)。ICTの活用による業務の効率化が課題となっている医療機関が多いなか、講師の玉上淳子先生は、看護に求められるものを再確認しながらICTの導入を進めた取り組み事例を紹介しました。その内容をリポートします

看護を展開するための思考過程で重要とされるものとは
玉上淳子先生(東京慈恵会医科大学附属病院看護担当理事)は、まず慈恵看護専門学校の日本で最初の看護婦教習所としての歴史に触れ、その教育はナイチンゲールの教えが基盤となっていることを紹介しました。そして「当院看護部がナイチンゲールの考えを拠り所としている理由として、『看護覚え書』が副題としている“看護であること、看護でないこと”について見分ける判断基準を示し、自ら学ぶ姿勢を促していることがあります。一貫した判断基準をもつことは大切で、現象をみつめ、その意味を考えて実践を重ねることで、行為は理論に基づいた看護になると考えられます」と述べ、看護を展開するには一定の思考過程があるとしました。
その思考過程について、玉上先生は教育学者である庄司和晃さんによる認識の3層構造*1を用いて解説。「看護師は無限に存在する患者さんの現象のなかから自らの感性や知識をもって必要なものを情報として認識し、その患者さんにとって必要なケアを実践に結びつける。これらの頭のなかで行われる活動、特に認識によって実践の質は変わってきます。この認識をいかに豊かにしていくかということが看護教育には必要だと思われます」と認識の重要性を訴えました。
*1 対象を認識する過程を「対象−認識−表現」という3層構造のピラミッドで示した。さらに「認識の三段階連関理論」において認識が3つの段階によって深められるとした。


通信サポートシステムを活用した東京慈恵会医科大学附属病院の取り組み
2026年度の診療報酬改定では、「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」として、 ICT等の活用による看護業務の効率化に対して入院料等で新たな算定項目が新設されています。「マンパワー不足が叫ばれるなか、ICT等の導入でいかに効率化を図るかということは、医療機関にとって大きな課題となっています」と玉上先生。そして、この課題に向き合い東京慈恵会医科大学附属病院が行 った取り組みについて報告しました。
同院は1075床を有する特定機能病院で、毎年130人前後の新卒看護師を採用しています。玉上先生は「これだけの人数が入れ替わるため、結果的に看護職員全体の約6割が経験5年未満の看護師によ って構成されることになります。彼らは知識も経験も発展途上で、本人たちも大きな不安や負担感を抱えながら仕事に従事しており、何らかの対応が必要であると感じていました」と話します。
そんなとき通信サポートシステム(HN LINE® /ニプロ株式会社)の紹介を受けたことから、その試験運用を行うことにしました。このシステムは、ベ ッドサイドで測定した医療機器のデータが自動的に転送され、客観的指標(NEWS*2:早期警告スコア)によって評価されるもの。病棟で主軸となっている看護師は、患者さんに対し「何か変」と感じる感性があっても、自身で状態を判断するには経験不足であることは否めません。
「状況を見極めようと頻回にバイタルサインの測定を行うなどして、RRS*3への介入依頼や医師への報告までに時間を要してしまい、これがスタットコールの発令につながるケースもあると予測されました。この判断の部分をNEWSによる評価によって支援できるのではないかと考えたわけです」(玉上先生)
試験運用を行ったのは、スタットコール件数の多い心臓外科・血管外科、呼吸器内科、腎臓内科の3病棟。2024年2月下旬から3月上旬にかけて、1週間ずつ運用しました。その際、RRS専従看護師より、敗血症や呼吸不全を意識して2017年に改訂されたNEWS2を用いたいという意見が出され、早期警告スコアをNEWS2に変更しました。
*2 national early warning scoreの略。急性期疾患の予後予測スコアでバイタルサインを数値化して急変リスクを示すもの。
*3 rapid response systemの略で、院内迅速対応システムと訳される。悪化の予兆・症状がある入院患者さんに対し、重篤化する前に多職種チ ームが介入する。

システムの運用に加え看護師の認識を発展させる環境を
試験運用の結果、病棟看護師からは、「NEWS2による評価と自分たちの認識を照合する機会となった」「スコア化されることで患者さんに対する注目度が上がった」「スコアを共有することでスタッフに共通認識ができた」という反応がありました。また、スコア化されたことで、スタットコールの多い病棟には中・高リスクの患者さんが一定数存在することがわかり、安全・安心に対応できる環境整備が必要であることも確認されました。
これらのことからシステムの導入に移行しましたが、それと同時に、看護師の認識を発展させるためのさらなる環境づくりを検討・実施することが重要であったと玉上先生は話します。NEWS2による評価の指標を示したスコア表の配布と電子カルテ上への掲載、クリティカル領域の専門・認定看護師による病棟サポート体制の構築、患者さんの状態悪化の予防を目的としたチーム・CCOT*4の結成などの取り組みを実施。病棟看護師が自らの観察・アセスメントで気づいたことを表出し、ディスカッションを通して考えを深める機会を増やしていったといいます。玉上先生は「このなかで病棟看護師は認識の3段階による思考過程を繰り返し、認識の質を高めていったのだと思います」と取り組みの効果を示唆しました。
「クリティカル領域の看護師が『システムは自分たち看護師やチームに判断材料を与えてくれる道具のようなものだ』と話していました。そんな道具を使いこなすには、看護師の認識と患者さんに向ける関心が不可欠です。ナイチンゲールも、看護をしやすくすることで患者さんのそばにいる時間を増やし、それを観察に費やすことが重要としています。看護師は、患者さんと長く向き合うために道具を使いこなすという意識が必要だと思います」と玉上先生は述べました。
座長を務めた加藤恵里子先生(慶應義塾大学病院看護部長)は「道具を使うことで観察力が低下してしまうのではと危惧する向きもあります。しかし、うまく活用することで看護として本来すべきことが行えるようになること、看護師が認識を高めながら患者さんの安全につなげていけることが今回の話からわかりました」と講演を結びました。
*4 critical care outreach teamの略で、集中ケアアウトリーチチームと呼ばれ、予防的な役割を担う。集中ケアの知識を有する多職種チームが、急変リスクの高い患者さんを定期的に訪床し、急変や重篤化を予測し早期介入する。


本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年9月号 TiaraNo.162より転載しています。
