
2023年5月から新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、世の中は新たな局面を迎えることになりました。約3年に及ぶコロナ禍は医療安全に何を残したのかを考えるため、「医療安全管理者の本当の‘仕事’〜コロナ禍で出来た事、出来なかった事」をテーマに「第41回医療安全管理者ネットワーク会議」(2023年9月30日/オンライン開催)が開催されました。コロナ禍を振り返り、医療安全管理者の役割を見つめ直したその模様をリポートします。

「第41回医療安全管理者ネットワーク会議」は、大阪府摂津市内にメイン配信会場を構えオンライン開催されました。
寺井美峰子委員(医学研究所北野病院看護部長)を総合司会に、遠田光子委員長(公益財団法人日本医療機能評価機構教育研修事業部長)が開会の挨拶を述べ、続いて安宅一晃副委員長(奈良県総合医療センター救急・集中治療センター長)が会議の趣旨を説明しました。この3年間の医療機関の状況について奈良県総合医療センターを例に検証し「新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の蔓延は3年にわたる災害ともいえる。その間は医療安全を保ち続けることが求められた」とし、病院におけるBCP(事業継続計画)*1にも言及。そして、病院機能をいかに継続していくかという点も踏まえ、「今回の会議は、コロナ禍における医療安全管理者の仕事を振り返ることが、次のパンデミックに備えるための資料になればという思いで企画しました。次につながる何かがみつかることに期待します」と述べました。


コロナ禍での様々な事例からみえてきたもの
講演は、坂口美佐先生(公益財団法人日本医療機能評価機構医療事故防止事業部長)により「医療安全管理と新型コロナウイルス感染症−事例から見えてきたもの−」と題して行われました。
坂口先生は、医療事故情報収集等事業*2のなかから、新型コロナに関連した事例を検索。2020年には56件、2021年には126件が該当したといいます。その内訳は、(1)新型コロナの患者の治療・看護の過程で発生した事例、(2)感染対策に関連した事例、(3)その他の影響に関連した事例、(4)ワクチン接種に関連した事例となり、それぞれのなかから特徴的なものについて解説を行いました。
取り上げた事例のなかには、ECMO(体外式膜型人工肺)回路内への空気混入、ルートの接続の緩みや接続間違いなど、通常時も起こり得る内容のものも多くありました。「しかし、ECMOなど使用経験のない医療機器を管理しなければならなかったこと、臨床経験の少ない研修医や畑違いの診療科の医師が治療・処置にあたっていたこと、コロナ禍初期には医療者にも正体不明の感染症に対する恐怖があったことなど、コロナ禍特有の背景を認めたケースは少なくありません」と、坂口先生は要因を分析。さらに、感染対策のためのPPE(個人防護具)着用や飛沫防止のためのビニール越しの処置などが影響した事例、ルールや手順の変更に起因した事例、新型コロナ患者受け入れのための病棟再編による慣れない看護や連携不足が関係したと思われる事例など、新型コロナ対応に関連した事例を紹介しました。
様々な事例を提示した坂口先生は、それらからみえてきたものについて次のように述べました。
「慣れない人、余裕のない状況などによって起こ ったことは、普段からあるリスクが表面化したものだと思われます。ですから、医療事故やヒヤリ・ハ ット事例を数多く検証し、そこにあるピットフォールをあぶり出し、それに対する注意点を医療者で確認・共有し、教育することが大切ではないかと思います」そして、コロナ禍で発生した事例の数々が学びとなり、今後別の感染症に遭遇したときには、それが応用できるのではないかと示唆しました。

参加者それぞれが実体験を持ち寄りグループワークにより検証
グループワークは、講演を挟み午前と午後に分けて行われました。14名の参加者が2つのグループに分かれテーマに沿って話し合うもので、グループワーク後に両グループがその結果を発表し、全員で内容を共有するかたちで進められました。
午前のグループワーク?では、山内桂子委員(東京海上日動メディカルサービスメディカルリスクマネジメント室)を座長に、「コロナ禍で出来た事、出来なかった事、工夫した事」をテーマにコロナ禍の振り返りが行われました。
各グループの参加者たちは、自施設の状況や医療安全管理者としての活動についてエピソードを交えながら話していました。同じような問題点を抱えるケースも多く、それぞれの経験や対応を照らし合わせている様子もみられました。
午後には、亀森康子委員(自治医科大学附属さいたま医療センター医療安全・渉外対策部)を座長としてグループワーク(2)を行いました。テーマは「3年間の経験で学んだ事から次に活かせる事」。将来への展望が話し合われました。
グループワーク(2)の後の全体発表では、入り乱れる情報を取捨選択し、確実で必要な情報をスタッフの隅々まで伝えることが求められるなか、医療安全部門の果たす役割が大きいことを確認したという意見がありました。そして、そのルールを浸透させることが、今後さらに重要であるとしました。
また、ルールが遵守されていなかったり、病棟にローカルルールがあるなど、病棟再編によって明らかになった事柄を挙げ、コロナ禍に限ったリスクは意外に少ないのではないかという意見が多くを占めていたようでした。
一方で、コロナ禍に学生時代を過ごした看護師に対する教育について問題視する声が少なからずありました。対面教育や臨地実習が制限され、通常とは異なる環境下で教育を受けた世代に対する懸念や、今後どのような教育を構築・提供するべきかということが話題に上りました。
最後に、嶋森好子さん(岩手医科大学名誉教授・ニプロ株式会社社外取締役)が医療安全管理者へメッセージを送りました。
「新型コロナが発生し最初こそ混乱したと思いますが、国内の医療機関にはすでに医療安全管理体制が敷かれていたおかげで、3年の間に立て直しながらコロナ禍での医療安全に対応できたのだと思います。この会議でそれを振り返り、感染対策も含めて整理し、次世代に引き継ぐことは大きな意味のあること。医療安全管理者が身に付けてきたノウハウを生かし、未知のことにも対応できる人材を育てていくことに期待しています」(嶋森さん)
最後に松村泰志委員(大阪医療センター院長)が「コロナ禍での皆さんの体験を総括しアセスメントすることで、新たな学びや発見を得ることができました」と参加者への敬意を表し閉会となりました。




*1 企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、損害を最小限に留め、事業の継続・早期復旧のために、平常時に行う活動や緊急時の対応などを取り決めておく計画のこと。
*2 医療機関から収集した医療事故情報およびヒヤリ・ハット事例を分析し、医療機関や国民に提供することで医療安全対策の推進を図り、医療事故の発生予防・再発防止に結びつけることを目的とする。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年3月号 TiaraNo.147より転載しています。
