
社会に多大な影をもたらしたコロナ禍のなか、医療を担う人々は懸命にその責任を果たしてきました。そして看護界では、さまざまな制約を受けながら業務にあたる日々をとおし、看護師に求められるものをあらためて見つめ直す動きが出ています*。それは院内教育にも反映され、各医療機関で新しい教育のかたちがつくられてきています。今回はこれまでの院内教育を見直し、新たなかたちをつくったAOI国際病院(神奈川県川崎市)の例をご紹介します。
* 日本看護協会では2023年度に「看護職の生涯学習ガイドライン」を公表した。変化する社会やニーズに対応し活躍し続けるためには、看護職が各自のライフイベントや価値観に応じて、仕事と生活の調和を図りながら自律的に学ぶことが求められるとしている。

「人として」を大切にしたいその思いから理念を変更
神奈川県川崎市川崎区にあるAOI国際病院は、急性期、回復期、慢性期に対応するケアミックス病院です。2022年度、同院では看護部の理念を新たにし、それに伴って教育理念も新しく変更しました。看護部長である佐藤直也さんと副看護部長の上野みどりさんはその理由を次のように述べています。
「私が当院に赴任してきたとき、社会はまだコロナ禍で、医療機関も厳しい環境下での対応が続いていました。そんななかだったこともあり、人としてという部分を大切にしたいと考え、『温もりと安心、そして信頼される看護を提供します』という看護理念をあらためて掲げることにしました。そして、このような人材を育成するために、教育理念も同時に変更することにしたのです」
教育担当副看護部長の白石亜希子さんがその変更に携わり誕生した教育理念は「『人』としての豊かな感性と確かな看護実践力を養い、質の高い看護を提供することにより、信頼される看護職員を育成します」。白石さんは教育担当看護師長の柴崎明日香さんらとともに、この理念をベースに教育研修のあり方を検討・再構築し、新たな教育体制を2023年度からスタートさせました。
「これまでは看護の専門性に焦点をあてたクリニカルラダーを軸に院内教育を組み立てていたのですが、2023年度からはキャリアラダーを採用。当院独自の『AOIキャリアラダー』を作成し、院内教育の再構築を進めました。教育カリキュラムには看護の知識・技術に加えて、社会性やコミュニケーション力など人間性や感性を磨いて人としての成長を重ねていけるような内容を加え、管理者向けのマネジメントラダーも作成しました」(白石さん)

看護部と各部署がつながりを強め新たに取り組む新人研修
新しい院内教育における新人研修は、キャリアラダーを受け「キャリア」「キャリアデザイン」を見据えたものになっています。そして、新人看護師が自ら学ぶ姿勢を獲得し、周囲がそれをサポートするような体制づくりを目指しています。そのポイントとなるのが「リフレクションシート」。看護部による集合研修を終えた後に新人看護師が個々に振り返りを行うためのシートですが、記入して提出したら終わりではありません。
「新人看護師は研修後に自己内省し、自分のできるところ、不足しているところ、求められるところなどを踏まえたうえで、アクションプランを立ててシートに記入し所属部署に提出。集合研修やアクションプランの内容を所属長や教育担当者が把握できるようにしました。アクションプランは3カ月後に実践されたかどうかが部署で評価され、結果は看護部と共有されます。このシートでは、新人看護師本人が目標に向かって行動し続けられるようにする一方で、各部署が新人看護師の目標達成をサポートし、看護部もその成長を把握できるようにしています」
柴崎さんはこう話し、シートには看護部と各部署の教育研修をリンクさせるねらいもあるとしました。そこには、集合研修は看護部、配属後の教育は各部署と、お互い任せのようになりがちだったこれまでの背景があります。みんなで育てるという環境が必要と感じた白石さんと柴崎さんらは、2023年度から各部署の主任を看護部教育委員会のメンバーにすることにしました。これにより、看護部と各部署は院内教育についてのつながりを強め、各部署内でも教育への関心が高まってきたといいます。


AOIキャリアラダーについては、レベル?の前に新人看護師に向けたレベル「あおい」が設けられているのが特徴。看護師の基礎として身につけたい能力を習得するための1年をラダー内に設けました。これに基づいて新卒看護師用のカリキュラムを作成し、「新人看護職員ガイドブック(以下、ガイドブック)」を活用して新人看護師の学習や振り返り、評価などを管理。全部署がこのガイドブックを用いることで、新人研修が現場レベルで標準化されるようになりました。
「当院はケアミックス病院なので、部署によって求められる知識・技術や習得のタイミングが異なります。そのため、1年間にどのようなステップで自立した看護師を目指すのかがわかる標準パスを部署ごとに作成しました。新人看護師はそのパスで年間の進路を俯瞰し、その時々の自身の歩み具合を確認できるようになっています」(柴崎さん)


みえてきた課題の解決に向けさらに院内教育の充実へ
新たな院内教育の構築に際し、まずは人材育成のスタート地点となる新人教育に力を入れている同院ですが、「生涯学習という観点からは中堅層に対する教育体制の拡充も図りたい」と白石さん。「私たちが目指す『人として信頼される看護師』は、患者さんだけでなく、同僚や組織からも信頼される人材。そこに到達するには、それぞれのレベルの看護師が学び続けなければならないと考えています」と今後に向けての課題も話します。院内教育をより充実させていく同院の方向性がうかがえました。



AOI国際病院
神奈川県川崎市川崎区田町2-9-1
https://www.aoikai.jp/aoiuniversalhospital/
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2024年10月号 TiaraNo.151より転載しています。
